第二十四話「エルフェルト王国到着」
馬車は長い道のりを経て、ついにエルフェルト王国の王都へと辿り着いた。
王都の門をくぐると、整然とした石畳の道が広がり、周囲には華やかな建物が立ち並んでいる。わが国の王都とはまた違った雰囲気だ。建築様式も、装飾の細かさも、街を行き交う人々の服装さえ異なっている。
「うわぁ……」
アルバート殿下は、馬車の窓から身を乗り出して街を眺めていた。その様子はまるで初めて遠出をした子供のようだ。
「殿下、身を乗り出すのはおやめください。みっともないです」
エミリナが優しく微笑みながら注意する。殿下は慌てて姿勢を正した。
「わ、わかってる! でも、すごいな……俺、こうやって他国をちゃんと見るの、初めてかもしれない……」
「当然でしょ。今まであなた、まともに公務もやってなかったんだから」
私は呆れながら言った。
「まあ、それはそうだが……」
殿下は複雑そうな顔をしながら、再び窓の外を見やる。
馬車はゆっくりと王宮へと向かっていた。
***
エルフェルト王宮は、わが国の王宮とはまた違った荘厳さを誇っていた。白を基調とした美しい城壁に、精緻な装飾が施された門。兵士たちの立ち姿は凛々しく、無駄のない統率が取れていることが一目でわかる。
「うぉ……すごい……」
「殿下、感想は後にしてください。わたくしたちは今から正式に訪問する立場なのですから、しっかりしてくださいね」
エミリナが微笑みながら、しかししっかりとした口調で言った。
「わ、わかっている……」
アルバート殿下は、慌てて背筋を伸ばす。
「ようこそ、エルフェルト王国へ」
王宮の門前には、数名の貴族らしき人物たちが出迎えていた。その中央に立つのは、一人の青年。
「貴殿がアルバート王太子殿下だな?」
彼は涼しげな瞳でこちらを見つめ、ゆるやかに微笑んだ。
「は、はい。そうです……」
アルバート殿下は、緊張した面持ちで頷く。
「私はアレクセイ・フォン・エルフェルト。エルフェルト王国の王太子だ」
アルバート殿下の目が大きく見開かれた。
「……アレクセイ王太子殿下」
アルバート殿下がぎこちなく口にする。
「ようこそ、エルフェルト王国へ。遠路はるばるご苦労だったな」
アレクセイ王太子は落ち着いた態度でそう言い、微笑んだ。彼はすらりとした体躯に品のある佇まいで、まさに理想的な王太子といった印象だ。
一方のアルバート殿下は――背筋こそ伸ばしているが、明らかに緊張している。まあ、当然か。何せ彼にとって初めての本格的な外交だ。
「ええと……こちらこそ、歓迎に感謝します」
アルバート殿下はゆっくりとした口調で答えたが、微妙に自信なさげだった。
「ふむ、どうやら緊張しているようだな」
「え、そ、そんなことはない!」
「そうか? だが、最初は誰しも緊張するものだ。気負わずともよい」
アレクセイ王太子は軽く肩をすくめる。彼は柔らかな雰囲気を纏いながらも、言葉の端々に確かな威厳を感じさせる。
「まずは王宮へご案内しよう。国王陛下も貴殿と話すのを楽しみにしている」
「こ、光栄です……!」
殿下は少しうわずった声で答え、私たちはエルフェルト王宮の中へと足を踏み入れた。
***
エルフェルト国王との謁見は、意外にも穏やかなものだった。
国王陛下は穏やかで理知的な人物であり、アルバート殿下の初外交に対して寛容な態度を示してくれた。とはいえ、当然ながらこちらの出方は見られている。
「ふむ、貴国との関係は長きにわたり友好的であった。今後も変わらぬ協力関係を築いていけることを願っている」
「わ、わたしも……いえ、我が国も同様の考えです」
アルバート殿下は言葉を慎重に選びながら返答する。
――なんとか、第一関門は突破したようだ。
しかし、本番はこれからだ。エルフェルト王国との交渉には、細かな利害関係や、互いの立場を尊重しつつ意見を通す技術が求められる。
そして、そのための交渉の場が、翌日に正式に設けられることとなった。
「アルバート様、明日が本番ですね」
謁見を終えた後、エミリナが穏やかに微笑む。
「う、うん……なんか、胃が痛くなってきた……」
「今さら弱音を吐かないでよ。もう逃げられないんだから」
私は冷たく言い放つ。
「うぐっ……!」
アルバート殿下は顔をしかめた。
明日の交渉、果たして彼は乗り切れるのだろうか――?




