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疑念、不安、etc
俺は一つ勘違いをしていることに気がついた。
俺が描くキャンバスには俺と綾のふたりしかいなかった。だが、所詮それは俺の描くキャンバスだった。
逃げるように立ち去った後に俺は家に帰った。
憂さ晴らしのように水の入ったペットボトルをダンベル代わりに体にムチを打つ。そこにあったのは虚無感だけだった。しかし、ただ信じ続けた。告白してきたあの日の綾の気持ちを。ひとりよがりだと言われてもそうするしかなかった。信じるものは救われる、キリストの弟子パウロがそう言ったように
俺は綾を信じた。
その後も何度も男といる綾を見た。男は移り変わって行った。ある日は背の高い男が、ある日はお金を持ってそうな男が。そんなふうに色んな人といたら、俺なんてなんでもない人なんじゃないんだろうか。その不安も、信じることで打ち消そうとした。俺の中の論理思考や余裕はもはや薄れていた。