というお話。
俺は努力を続けた。誰かのために動くのも、必死になるのももはや忘れていた感覚だった。そうして、時計と針は休むことなく走り続けた。そうして秋がきた。
配達中に綾に言う。
「今年ももみじを見に行かないか?」
「いいね!行こうよ!」
一瞬表情が変わったのを俺は見逃さなかった。
やはり、去年とはワケが違うのだ。
でも、それでも俺は諦めるという選択肢をなくしていた。後悔はもうしたくないのだ。
「お弁当作っていくよ」
「ああ、頼む」
そんな会話に希望をふくらませた。
入念に考え抜いたファッション、それに合う完璧なヘアスタイル、愛想のいい笑顔、わざわざ買った鏡でそれを確認する。
電車に乗って秋野町まで行く。
待ち合わせは現地だった。秘境のような場所だったが、記憶は鮮明にあった。足取りは軽くもあり重くもある。そんな変な感じだった。
「あ、来た!」
時間通りに行ったのにもう準備をし終えた綾の姿があった。タイミングは終わりそうなタイミング、そう決めていたのにあの時のように言葉が勝手に衝いて出た。
「綾、情けない話かもしれないが、俺はお前に惚れていたんだ。」綾がハッとした表情になる。
俺は成功のために用意していた言葉ではなく、伝えたい心から湧いて出た言葉を口にする。
「美人になったからじゃないとは断言できない。
でも、少なくとも綺麗になろうとしたお前が美しい思った、俺にそう思わせたんだ。」
「俺と付き合って欲しい。」
焦りに焦って、頭の中が真っ白になった俺はその返事を覚えていない。
それはまるで川島綾の旧姓を覚えていないように。
そうして俺は、昔話を締めくくった。




