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27.今すぐ離縁したい気持ち、難しい現実

 オベット公爵とのあの出来事の後、わたしは出来る限り引き籠っていた。オベット公爵はお父さまの所に通っているだろうから、顔を合わせたくない。


「他の使用人に聞いてみましたが、どうやらオベット公爵もこちらに来ていないそうです」

「そう」


 モリーが色々探った結果、あれほど顔を出していたのに、ここしばらく来ていないことがわかった。あんなことがあったのだ、わたしがいるこの屋敷に訪問しにくいだろう。


 引きこもっている間、今すぐ離婚するにはどうしたらいいか、考えている。今までは白い結婚の成立を待てばよかったので、離婚離婚と騒ぎながらも真剣さは足りなかった。後回しになっていたことは否めない。


「……意外なことに、離婚するための条件がそろわない」


 愛人を囲っているようなクズなんだから、離縁なんて簡単だわと言っていたのにどういうことだろうか。オベット公爵が婚姻継続希望になっただけで、非常に困難になってしまった。


「愛人が元凶ですね」


 側にいたモリーが怒りながら言う。わたしもそう思う。長椅子に体を預け、天井を見上げた。


「お父さまは期待できないし、お母さまに頼っても最終的にはお父さまのサインがいるし」

「ライラ様は頼れませんか?」


 モリーがふと思いついたようにライラの名前を告げた。流石に離婚についてライラに頼ろうとは思っていなかったから、まさかの選択肢だ。


「ライラに相談したところで、難しいと思うけど」

「でも、いい案があるかもしれません」


 このまま一人で悩んでいても、八方塞がりであることは間違いない。誰かに話しているうちにいい案が浮かんでくることもあるだろう。


 すぐにライラに手紙を書くことにした。



「少し痩せた?」


 ライラと顔を合わせるなり、彼女はすぐにわたしの顔をまじまじと見つめた。何があったか話したくないから、何でもないように笑顔を見せる。


「いつもより食欲がなかったのよ」

「ふうん? 食欲がなくなるようなことでもあったの?」


 鋭い。

 付き合いが長いだけあって、隠したいこともわかってしまうようだ。とはいえ、正直にあったことを話すことも嫌で、曖昧に笑う。その対応で理解したのか、ライラは納得したように頷いた。


「相談があるのでしょう? 聞くわよ」

「ありがとう」


 案内された席に腰を下ろすと、今すぐ離縁するにはどうしたらいいかと切り出した。


「今すぐ? オベット公爵からサインを貰えばいいのではないの?」

「そのサインをしてもらえそうにないのよ」

「そうなの?」


 ライラは驚きを隠さない。結婚したとはいえ、オベット公爵は常に愛人を側に置き、わたしを蔑ろにしている。それは屋敷の中だけの話ではない。そのことは噂好きな貴族たちの格好の話題だ。わたしの知らない場所での話も、噂として耳に入ってくる。


「わたしがお飾りでいた方が都合がいいと思い直したみたい」

「オベット公爵が? 案外せこいのね」

「そう考えたのは愛人の方よ」


 ライラは驚いた顔をした。愛人が現状維持を求めるとは考えていなかったようだ。やはり一般的には認められる存在になりたいもの。子供のこともあるし、愛人という立場はいつでも切り捨てられる。非常に危うい。


「それで、ローズマリアは離縁する方法が思いつかなくて思い悩んでいると」

「そういうこと。何かいい方法はないかしら?」


 簡単ではないことはわかっている。ライラもわたしが考えたようなことを頭で纏めているのだろう。眉を寄せて、考え込んでいる。


 お茶を飲み干して、さらにお代わりを入れてもらったところでライラが顔を上げた。


「正直に言って、今すぐはできないわね。そもそもローズマリアの結婚は王命でしょう? オベット公爵の同意だけでなく、最終的にはワーリントン侯爵のサインと陛下のサインがいると思う」

「陛下のサインも必要?」

「もちろんよ。でも、オベット公爵とワーリントン侯爵のサインがあったら、拒否はしないと思うけど、根回しは必要ね」


 そうなると、やはり教会で認められている三年経過して、というのが妥当ということだ。


「今すぐ離縁しないと嫌なの?」

「そうね」


 はっきり言いにくくて、言葉を濁した。二度目の問いかけにも答えなかったからか、ライラはこの話題はそれ以上触れなかった。


「では、考え方を変えましょう」

「どういうこと?」

「離婚できなくても、接触がなければいいのでしょう?」


 結婚した状態であっても、会うことがなければ、先日のようなことも起こらない。気持ちはすっきりしないが、接触しないということでも問題ない。でも、誰かの御膳立てで、すぐにでも接触できてしまうことが恐ろしい。

 難しい顔をしていたら、ライラが軽い口調で告げた。


「だったら、仕事で国外に出てしまったらいいのよ」

「え? わたし、仕事していないけど」


 突然仕事の話になって、目を瞬いた。ライラはにんまりと笑う。


「女流画家たちのために、視察に行く予定でしょう?」

「よく知っているわね」

「先日、貰った絵画のお礼を兼ねて、彼女たちに差し入れをしたのよ。その時に、聞いたの」


 口止めしていないから、嬉しくて話してしまったのだろう。ミリアの興奮が想像できる。


「国外の販売ルートを開拓することにして、半分以上、向こうで暮らしたらいいわ」

「そう簡単に言うけど」


 ミリアたちが乗り気なのは知っている。でもそこにわたしは含まれていなかった。突然の提案に戸惑っていれば、ライラは笑顔を消した。


「国外に出ることは簡単ではないことはわかるわ。ローズマリアが何をしたいのか、きちんと考える必要があると思う」

「わたしは」

「彼女たちの助けになることを考えているだけなら、やっていることが中途半端だわ」


 突然切り込まれて、言葉に詰まってしまった。


「きつく感じたらごめんなさいね。もっとしっかり考えたら、きっと違う道が開けると思って」

「ライラは……わたしが行動を起こして成功すると思う?」

「もちろんよ。やる気次第じゃないかしら。あなたに手を貸してくれる人はいるでしょう?」


 ぱっと思い浮かんだのはお母さま。そして、渋々ながらもお父さまも手を貸してくれると思う。あとは……。


「エドモンド様も助けてくれるかしら?」

「エディは喜んで手を貸すでしょうね」


 心の中にあった、モヤモヤしたものが消えた。不安や焦りが消え、何から手を付けようかという気持ちがこみ上げてくる。


「ありがとう。なんだか、進む道が見えてきたかも」

「わたしもできることはするから。頼ってちょうだい」

「十分頼らせてもらっているわ」


 ライラにお礼を告げると、彼女は嬉しそうに笑った。

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