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特命四人組

 その夜、久しぶりに自宅で床についた。


 わたしの部屋は出て行ったときのまま、変わらなかった。

 しかし埃などは溜まっておらず、寝具も清潔だ。わたしの帰宅を知って、母が掃除してくれたのだろう。それとももしかして、いつ帰っても良いようにと、日々ととのえてくれていたのだろうか。

 そう思うと母に申しわけないような、甘えたいような気持ちになったが、勝手に出ていって三年という歳月が、わたしを俯瞰させた。

 子どもじみた感傷もまた身勝手だと感じた。


 冷静になってあちこち見渡せば、わたしの部屋以外、我が家は大きく変わっていた。

 新調した家具や高級カーテン、ガタがきていたテラスは修繕され、サンルームが増築され、庭には薔薇園ができている。


 ウィルフさまから聞いた話によると、わたしがハイディさまにつくっていただいた薬は、シャンティが調合したものとして王城へ届けられた。

 その薬が効き、ウィルフさまが完治されたことで、多額の報奨金が我が家に支払われたそうだ。その上、シャンティを王子妃にしろと強く要求していた。

 そのことを思うと、家族への申し訳なさが少し和らいだ。



 翌日、お城から迎えが来て、王の間へ呼ばれたわたしは国からの特命を受けた。

 国王陛下がおっしゃっていた、例の仕事だ。ウィルフさまと二人でこなせとおっしゃっていた。

 しかしその打ち合わせの場には、ウィルフさまだけではなく、なぜかシャンティもいた。そしてもう一人、見たことのない男が。


 男はクライグと名乗った。年齢はわたしたちより少し上だろうか。

 燃えさかるような緋色の髪に琥珀色の瞳、圧倒的なオーラを感じる。強い魔力持ちに違いない。滲み出るオーラを柔和な微笑みで包み、温和な人柄に見える。


 この四人で、西部地方を荒らしている魔物を討伐しろというのが、このたびの任務らしい。


「えっ! シャンテルと二人きりの仕事じゃないのか。なんでお邪魔虫が二人も」


 とウィルフさまが口走った。


「申し訳ございません、殿下」


 とクライグが柔和な微笑をたたえたまま、心苦しそうに眉を下げた。


「危険を伴うご任務ゆえ、万が一のために、攻撃魔法の使い手であるわたくしと、回復魔法の使い手の聖女さまがサポートいたします」


「危険を伴う任務……そうだ、そもそもそれがおかしいじゃないか。私はともかく、シャンテルを危険な目にさらすなんて。いったい何を考えてる、親父の嫌がらせか?」


「殿下、シャンテルさまは十分にお強いです。なにしろ、あの暗黒の森に棲む魔女のもとに一人でたどり着き、殿下をお助けした方なのですから。わたくしたちでも成し得なかったことを成されたのです。その強靭な力を借りたいと、陛下はおっしゃっていました」


 えっ、いやいやそれはとわたしが口を挟む前に、ウィルフさまが


「なるほど!」


 と大きく手を打った。


「確かにそうだな。あの森の魔女のもとにたどり着くのにいかに大変だったか、私は身をもって知っているからな。魔物に襲われすぎて困ったよ。何度か死にかけた。シャンテルもあの道のりを乗り越えたんだよな、すごすぎないか。私のシャンテルはやっぱりすごいんだな」


 目をキラキラさせてわたしを見るウィルフさまはどこまでも純粋で、やっぱりちょっと天然だ。


「いえ、わたしはなにも。あの森を通ってハイディさまのお家まで、ハイディさまと一緒でしたから。森の魔物はハイディさまを恐れているので、襲ってきません」


「えっ!? 君があの魔女を訪ねたと思っていたが、魔女が君を拉致したのか!?」


「いいえ、人聞きの悪い。ハイディさまに会いたくて、ハイディさまが月イチ程度、買い物に現れるという町に張りこんでいたのです。月に一度のチャンスを無駄にしないよう、ハイディさまの行動パターンや好き嫌いを、人々に聴きこんで待ちました。ただ待っていただけです」


 ウィルフさまは目を丸くした。


「さすがですね、シャンテルさま。その戦略が最良の結果を招いた。やみくもの力任せではなく、知恵を働かせることが大事だと、勉強になります」


 クライグが謙虚そうに言った。


「そうだな、そのとおりだ。さすが私のシャンテルだ。やり方が賢いな。賢いし可愛い、最強だ。おいお前、クライグとか言ったな。『やみくもの力任せ』とは私のことか? 嫌味だな。私を馬鹿だと言いたいようだな」


「とんでもございません、殿下。お気に触ったのなら今の発言は撤回いたします。どうかお許しを」


 うすい微笑をたたえたまま困り顔をするクライグに、フンと鼻を鳴らしたウィルフさまは、「撤回しなくていい」と言った。


「突っかかって悪かった。図星をさされて恥ずかしかったんだ。八つ当たりしてしまったな」


 今度はクライグが目を丸くした。

 隙のない作られた表情から、一瞬素の表情が垣間見えた。

 ウィルフさまの素直さに意表をつかれたのだろう。

 だって今のは明らかに嫌味だったもの。



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