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任命

 ウィルフさまが言ったとおり、王城ではシャンティが待っていた。

 以前は実家暮らししていたが、いまは王城に住みこんで働いているそうだ。


 シャンティはわたしを見て一瞬固まったあと、飛びついてきた。


「ああシャンテルっ。お父さまから死んだと聞いて、もう一生会えないと思っていたのよ。よく戻ってきてくれたわ」


 はらはらと涙を流すシャンティに驚いた。

 わたしたちは仲の良い姉妹ではなかったし、シャンティはウィルフさまとの縁談を進めたがっていると聞いていたから。


「あ、あの……、ごめんなさい」とつい謝った。

 死んだと嘘をついたのは父で、わたしではないのだけど。


「ほら、私の言うとおり生きていただろ」とウィルフさまが意気揚々と言った。


「だから君との縁談は正式に破棄するので良いな。本物が戻ってきたんだから、よく似た代わりなんて不要だ」


 おいおい、と胸中でつっこんだ。

 ウィルフさまは余計な一言が多い。素直で天真爛漫ゆえに、特に悪気なく思ったことをそのまんま言ってしまう傾向がある。


 幼少期をほとんど自室で過ごし、忙しい家族にはほぼ放置されて、言いなりの使用人に囲まれて育った弊害かもしれない。

 あとでちゃんと言っておこう。シャンティが頬をピクピクさせている。


「そ、そうですわね。でも『聖女』としてのわたしはこれからも必要でいらっしゃるでしょうから、よろしくお願いいたしますわ」


 シャンティも大人になったようだ。ぎこちない笑みを浮かべて、「ではまた後で」とわたしに言い、立ち去った。


「ん、そう言えばラザフォード卿は来ていないのか」


 ウィルフさまがキョロキョロした。


「ウィルフさま、まずは国王陛下へご挨拶を。ラザフォード卿もその場におります」


 出迎えの側近に促され、わたしたちは王の間へ急いだ。


「おおお、よくぞ戻ってきた。愚息とその恩人よ」


 威厳ある国王陛下の前で、わたしはこうべを垂れてお言葉をいただいた。


「シャンテル、顔を上げよ。……うむ、少し痩せたな。目つきも以前とは違う。さぞ苦労したのであろう、愚息のために。深く感謝する」


「父上! というわけで、私たちは結婚します。これほど健気に、私のために命をかけてくれたシャンテル以外に、結婚相手は考えられません。私がっ、シャンテルを幸せにします! どうかお認めを!」


「うるさい、この距離で大声で叫ぶな。お前、みなに心配をかけておいて、先に言うことはないのか。第一、お前はそうかもしれんが、シャンテルは望んでいるのか。お前との結婚を」


 えっと言って、ウィルフさまが隣の私を見た。


「もちろんそうだよな。私たちは相思相愛だもんな」


「どうなのだ、シャンテル。ウィルフとの結婚を望むか?」


 二人の真剣なまなざしに射抜かれて、言葉に詰まった。


「あ、…………………はい」


「えっ、なにその間。なんでなんで」


「うむ、分かった。愚息は独りよがりなところがある。そこが真っすぐで良いところでもあるのだが。二人に時間を与える。ちょうど頼みたい急務があってな。それを二人でこなすのだ。お前たちは再会して間がない。離れていた時間も長かった。二人で気持ちを再確認し、結婚したい意志が固まれば、喜んで賛成しよう」


「えっ、そんなまどろっこしいこと。私たちは相思相愛、」


「黙れ、これは提案ではなく王命だ。お前が放りだして行った仕事の後始末で、みな迷惑こうむったのだ。帰ってきたならとっとと仕事しろ。お前がもっとしっかりせねば、シャンテルも安心して結婚できんだろうが」


「そっ、そうなのかシャンテル。よし、じゃあバシッと仕事できるところを見せて、安心させてやるからな」


 こうしてわたしとウィルフさまは、国王陛下から命じられた仕事を二人でこなすことになった。

 国王陛下のご配慮が胸に染みた。あの場で問われて、ハイと即答できなかったのだから。



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