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双子

 王都に近づくにつれて、ウィルフさまの表情が浮かない。


「ウィルフさまも緊張なさっているのですか?」


 戻ってこいという国王陛下の伝言をメルヴィンさまに聞いたとはいえ、いざとなると緊張するようだ。


「多少はな。城を出て、半年経つしな。けど、親父よりも会いたくない相手が城で待ってるかもしれんと思うと……」


「どなたですか?」


 残り二人の兄王子の顔が浮かんだが、待っているという気もしない。


「……シャンティだ」


 ウィルフさまが言いにくそうに口にしたのは、わたしの妹の名前だった。


「シャンティが?」


「ああ。シャンティが私の縁談相手なんだ」


 思わず絶句した。

 双子の妹であるシャンティと、ウィルフさまはほとんど接点がなかった。

 わたしがいない三年の間に変化があったようだ。


「親父たちも君の両親も、シャンティがぴったりだと勧めてきてな。シャンテルとそっくりだからいいじゃないかと。見た目そっくりで、シャンテルには使えない魔法が使えるんだから、シャンティのほうがいいだろって。めちゃくちゃ腹立ったよ。馬車の性能を比べてるんじゃあるまいに」


 思い出して憤慨が再燃したようで、ウィルフさまは鼻息を荒くした。


「シャンティは希少な治癒魔法の使える聖女ですから、わたしより優れているのは事実ですね」


「君までなにを言う。私がどれだけ君を好きか、君じゃなければ駄目か、知ってるよな。頼むから知っててよ。見た目がそっくりな分、シャンティはないよ。シャンテルが恋しくなってたまらなくなるから。最愛と似てるのに本物じゃないなんて、最悪だ。そう言ったら、ラザフォード卿がキレてね。私の治療薬と引き換えにシャンテルを失ったんだから、その責任を取ってシャンティを娶れって」


 えっと驚いた。


「どういうことか聞いたら、君が本当は留学じゃなくて、恐ろしい魔女に囚われているってことを教えてくれたんだ。だからまあ、あのとき言い合いして良かったといえば良かったよ。ラザフォード卿が口を滑らせなきゃ、知らないままだったから」


 ラザフォード卿とウィルフさまが呼ぶのは、わたしの父だ。

 伯爵家の次男で、爵位はないが貴族の出で、王城勤めをしている。


 ハイディさまに処方していただいた薬は、手紙をつけて実家へ送った。

 帰ることはできませんが、無事なので安心してくださいという旨の手紙だ。そして薬は、父からお城へ届けてもらった。


「あの薬もシャンティが調合したと聞いていた。私を救った恩人ゆえ、シャンティを王子妃に迎えることは妥当だと、親父も言っていた。だが、ぜんぶ嘘だったと知った私は叫んだよ。シャンテーーールッッてな」


「そうだったんですね……」


 嘘をついた家族の気持ちも分からないではない。

 戻らないわたしをウィルフさまが待ち続けることは建設的ではないから、シャンティと結ばれてほしいと。

 シャンティが王子妃におさまれば、家も安泰だと。うん、分かるよ分かる。


 だけどシャンティだけは、わたしも「ない」。あの子はずっとウィルフさまを嫌っていたのだ。


「あらシャンテル、また第四王子のお守り? 懐かれちゃって大変ね。シャンテルは他にできることないものね。わたしはこれからオーティスさまにご一緒して、聖なる奉仕活動よ。ああ聖女って忙しいわ」


 シャンティの嫌味は聞き飽きるほど聞いていたのでいつも聞き流していたが、あの日は違った。


「なによ、無視して。あの肉団子王子に気に入られたって、どうせ長生きしないのに」


 出て行こうとしていた足を引き返し、シャンティをにらみつけた。


「なによ、本当のことでしょ」


「いいえ。ウィルフさまはうんと長生きなさるわ」


 あのとき固く決意したのだ。噂の黒魔女を必ず探し出して、特効薬を作ってもらうのだと。

 シャンティにはとてもムカついたが、いま思えばアレがあったからこそ、奮起して旅立てた。


 それでもやっぱり、シャンティにウィルフさまは任せられない。

 シャンティはウィルフさまのことを嫌っていて、第二王子のオーティスさまにぞっこんだったはず。


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