自覚
メルヴィンさまに勇気づけられ、背筋をしゃんと伸ばした。
そうだ、よくも知らないご令嬢がたに何を言われようと関係ない。
わたしは、ウィルフさまのことが……好きだ。いまハッキリと分かった。
ウィルフさまが好きだ好きだと言ってくれることに慣れて、安心しきっていた。ちょっと自制してほしいと要求するほどに。
わたしだけに向けられていた優しさが他者へ向くようになって、正直もやもやしている。面白くない気持ちをごまかしていたが、これはもう認めざるを得ない。
ヤキモチを焼いているのだ。
わたしったら、なんて身勝手なかまってちゃんなんだろう。
ウィルフさまにもっと構ってほしい。
素直で融通の利かないウィルフさまは、わたしの要求を実直にこなしている。それは分かる。だけどもうちょっとさじ加減というものがあって良いのでは?
さすがに放っておかれすぎて寂しい。
なんて口が裂けても言えない、みっともないし、わたしのキャラじゃないと思っていたけれど……。
言わなければ伝わらない。
言わずに察してほしいと、構ってちゃんの上に察してちゃんになるのは、もっとみっともない。
よし、このパーティーが終わって二人きりになったときにウィルフさまにきちんと話そう。
そう密かに決意して、戻ったパーティー会場は妙にざわざわとしていた。
「何かあったのか?」
メルヴィンさまが近くにいた部下に尋ねた。
「あ、メルヴィンさま。パートランド伯爵令嬢が倒れられて、そばにいたウィルフさまが医務室へ運ばれたところです」
伯爵令嬢と聞いて胸がドキリとした。さきほど化粧室で噂になっていた女性だろうか。
ウィルフさまにべったりと引っ付いていたという。思い返してみれば、ご学友の取り巻きの中に一人だけ華やかな女性がいた気はする。
てっきりガイア卿が連れているパートナーだと思っていた。
メルヴィンさまが部下とやり取りをしている横をシャンティが通りかかった。
「あら、シャンテル。ここにいたのね。ちょうどいいわ、わたしの代わりに医務室へ行ってくれないかしら」
「え、どういうこと?」
「貧血で休んでる伯爵令嬢の様子を見てくるついでに、牽制してきたら? ってこと。ウィルフさまめがけて倒れこんで、お姫さま抱っこで運ばれて行ったのよ。婚約者として心配でしょ。見てきたら? 治癒魔法を使うまでもないわ、どうせ仮病よ」
ヒソヒソと声をひそめてだったが、大胆な発言にギョッとした。
「シャンティ、めったなことを言わないで」
「あら、心配じゃないの? それとも見たくないから? 今頃、医務室のベットで抱き合ってるかもね。ウィルフさま、世間ずれしてない分、きっと騙されやすいわよ」
うっと言葉に詰まった。シャンティは鋭い。痛いところをひゅっと突いてくる。仲が良くなくても理解が深いのは、やっぱり双子だからか。
「いちゃいちゃマウント取ってきなさいよ。ぐうの音も出ないくらい見せつけてやれば?」
シャンティに背中を押され、半ば強引に医務室へ追いやられた。
噂の伯爵令嬢とウィルフさまのことが気がかりなのは確かだ。化粧室から漏れ聞こえてきた噂話といい、シャンティのけしかけ方といい、のんびりしていられる状況ではないということだ。
わたしより美しく爵位の高い貴族令嬢が、積極的にウィルフさまと懇意になろうとしている……危機的状況。
シャンティの言うように、ここでわたしが顔を見せることで牽制になるんだろうか。
いちゃいちゃマウント? そんなものできる気がしない。
聖女のシャンティを呼んだのに、じゃない方のわたしが現れたら、ウィルフさまに失望されるんじゃ……?
いや、ウィルフさまに限ってそんなことは。ううん、いまのウィルフさまはどうか分からない。やっぱり引き返して、シャンティに行ってもらったほうがいいんだろうか。
向かいながらもぐるぐる考えていると、向こうからウィルフさまが歩いてきた。お一人だ。