噂話
国王陛下の承諾を得て、わたしとウィルフさまは正式に婚約を交わした。
婚約の儀が終わり、婚約披露パーティーには国の内外から要人が訪れた。
『イメージアップ大作戦』遂行中のウィルフさまは、この場でも非常に落ち着いていて、主役らしく堂々と、かつ皆への気配りを怠らず、素晴らしい立ち居振る舞いだった。
わたしにベッタリひっついていることもなく、好きだ好きだ可愛い可愛いも言わず、ひっきりなしに挨拶にくる訪問客をもてなし、優雅に談笑している。
いまは貴族学院時代のご学友に囲まれて、当時の話に花を咲かせているため、わたしは違う方面の客人対応にあたった。
聖女シャンティの後ろ盾となっている団体、つまり教会関係のお偉方の相手だ。
それが一段落ついて、ウィルフさまのほうをうかがったが、まだ話は盛り上がっているみたいだ。
取り巻きの筆頭は、もちろんモルトハウス公爵家のご子息、ガイア卿だ。つややかな黒髪にアイスブルーの瞳、色白で唇の紅が映える。
妙に色気のあるガイア卿と肩を並べると、ウィルフさまは随分幼く見えていたが、いまのウィルフさまはまったく見劣りしない。
サラサラと音が聞こえてきそうな美しい金髪に翡翠色の瞳。
その瞳は気づけばいつもこちらを見ていたので、目が合って当然だった。こんな風に、他人と笑い合っているウィルフさまを遠巻きに眺めるなんて、もしかして初めての経験かもしれない。いつでも、何を差し置いてもこちらへ飛んできていたから。
ウィルフさまはわたしの希望どおり行動し、イメージアップ大作戦を頑張ってくれている。
実際、ここ最近のウィルフさまの評判はうなぎ登りだ。
わたしと離れたくないからと放棄していた公務に真面目に取り組むようになった。素直さゆえの暴言も減った。たまに粗相はあるようだが、すぐに気づいて反省し、失敗を減らすように努力している。
「見違えられましたね、ウィルフ王子殿下。それもこれもシャンテルさまの内助の功ですね」
とパーティーで顔を合わせたクライグが言ってくれた。
他にも最近のウィルフさまを讃える声はチラホラ耳に入ってくる。
特に女性人気が急上昇のようだ。
「ねえ、第四王子ってあんなにかっこよかった?」
「思った。わたし、学園で見かけたことあるけど、もっと粗野な感じだったわ」
「婚約されて、余裕が生まれたのかしらね」
パーティー会場から少し離れたお化粧直し室で、貴族令嬢たちが話しているのが聞こえてきた。入室しようとした足が止まった。
立ち聞きはよくないが、つい気にかかって。
「でも、前みたいにご執心じゃないみたいよ。婚約者嬢に。けっこう噂になってる」
「え、そうなの? 確かに今日も別々にいたみたいね」
「あの女のほうがまるで婚約者気取りで、王子の脇にべったりいるわね。我が物顔で」
「力のある伯爵家のご令嬢だし、邪険にできないんじゃない?」
「あら、第四王子はそういうの全然忖度しないので有名じゃない」
「手に入った婚約者には飽きて、愛人候補を物色してるのかもね」
「まさか」
「でも今の第四王子なら、愛人でもちょっといいかも」
「分かる〜。ちょっといいよね。急にかっこよさに気づいたわ」
「大体、長年の想いを貫いたって話だけど、あの婚約者嬢ってちょっと微妙よね。聖女『じゃないほう』でしょ。見た目も身分も、あの女のほうが上だし」
「言っちゃ悪いけど、言えてる〜」