イメージアップ大作戦
モーリスをハイディさまに任せ、わたしとウィルフさまは王城へ戻った。
旧天文台を取り戻すという任務を無事に遂行し、いよいよ決断に迫られた。
ウィルフさまの妻となるかどうか。
旅の間に答えは出ていた。
「ウィルスさまと結婚したく思います」
キュンっとしたりドキッとしたりする恋ではなくとも、ウィルフさまに愛情を抱いていることは間違いない。
ウィルフさまも常に愛情を示してくれている。両親は、娘のどちらかを王子妃にと望んでいるし、シャンティはその期待から早く解放されたがっている。
「ほっ本当か! ありがとうシャンテル、愛してるよシャンテル!」
飛び上がらんばかりのウィルフさまに、「ただし」と一つ条件をつけた。
「一つだけ、ウィルフさまに直していただきたいところがあります」
「言ってくれ、絶対に直す!」
「わたしのことを、好きだ好きだと大っぴらに言い過ぎないようにしてください。わたし以外の人にももう少し優しく、気持ちを慮って、言葉を選んでお話ください」
一つだけと言っておきながら二つ希望を述べたが、ウィルフさまはそのことには気を留めず、
「なぜだ?」と不思議そうに言った。
「私が君に好きと言わず、他の者を気遣うことが、君の願いなのか?」
「はい。それがウィルフさまのためになるからです。わたしが言うのもなんですが、ウィルフさまはわたしのことばかりに熱心で、他のことに無関心、他者へかける言葉も横暴です。このままでは、皆に尊敬され愛される王子殿下とは言いがたいと存じます。ウィルフさまご自身のためになりません。ウィルフさまのためを思って、あえて申し上げます」
心を鬼にしてキッパリと言うと、ウィルフさまはガーーンと効果音が響き渡りそうな顔をした。
大口を開けて、顎が外れそうだ。
厳しい言葉を吐いて胸は痛んだが、再会を果たして以来ずっと節々で気になっていたことだ。
ウィルフさまは二言目にはシャンテルシャンテル、人目もはばからず私への好きが溢れすぎている。
周囲を辟易させてもお構いなしで、私以外の人間には「邪魔だ」「どうでもいい」「まだいたのか?」などと平気で口にする。
そこを直してほしい、直すべきだと言うとウィルフさまはコクコクと何度も頷いて、「分かった」と決意のこもった口調で言った。
「シャンテルの言う通りだな。私はシャンテル以外の者には好かれなくて良いと思っていたが、シャンテルが嫌われ者の妻になるのは忍びない。私は生まれ変わるぞ、イメージアップ大作戦だ。皆に慕われ、愛される王子となって、君の自慢の夫となってみせるぞ」
ついさっきまでうなだれていたウィルフさまは、新たな目標を打ち立てて元気を取り戻した。
ガッツポーズを作り、メラメラと闘志に燃えた目をしている。
この単純で前向きなところは、やっぱりウィルフさまだ。好き。
好きと思うけど口には出さない。わたしはウィルフさまと違って、好き好き言うのは恥ずかしいのだ。
人前でいちゃつくなんてもってのほかだ。