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きれいごと



「それにしても、シャンテルって本当に物好きね」


 夜、二人きりになりシャンティが言った。


 とりあえず今夜はここで一泊しようということになり、わたしとシャンティは旧天文台の建物のなかで、男性陣はクライグが手配した大きな幌馬車のなかで休息を取っている。


 しかし「こんな薄気味悪い場所で寝られやしないわ」とシャンティがずっとブチブチ言うので、寝られやしない。


「ウィルフさまの言うとおり、あの場で始末すれば済んだ話なのに、わざわざ苦労してあの化け物を助けたいだなんて。わたしより『聖女』に向いてるのに、残念ね」


「モーリスは化け物じゃないわ。話、聞いてたでしょ。人間よ」


「生まれたときは人間でも、ああなっちゃ化け物よ。可哀想な身の上だから助けてあげたいっていうの、あなたの性癖? ウィルフさまだって。病気を抑える薬の副作用でぶくぶく太って、可哀想だったものね。それがあなたのおかげで、見目は麗しくなった。大逆転よね。さぞ満足ね?」


 やけに攻撃的なシャンティにため息をついた。

 長旅の疲れに加え、すべての決定事項にシャンティの意見は聞かれず、この廃墟に泊まることが不快で、イライラしているのが見て取れた。


「そうね、満足よ。モーリスのこともなんとかできたらいいなと思ってるわ。だってシャンティ、よく見て。この建物自体は古くて朽ちかけているけど、よく手入れされてるわ。庭では野菜や果樹を栽培してるし、鶏小屋もあって。モーリスのお母さんのお墓の石は磨きこまれていて、可愛いお花が挿してあった。毎日を丁寧に暮らしているのが見てとれるわ。そういうの、愛しいと思わない? 人として、きちんと生きている証よ」


 シャンティは沈黙したあと、はあーっとわたしより大きなため息をはいた。


「きれいごとはうんざりよ。いいからさっさと任務を終わらせて、あのバカ王子と結婚して。そうしたらわたしも、あーしろこーしろ言われなくなるから。もう寝るわ」


 くるりと向けられたシャンティの背中に目をやった。

 魔法の才能が発現して以来、大人たちからプレッシャーをかけられて、アレコレやらされてきたシャンティにも、シャンティなりの苦労があるのだろうと思った。

 シャンティに比べて放置されていると拗ねていたわたしだが、それだからこそ自由に自分の思うことをできたのだ。


 翌朝、わたしたちは二手に別れた。

 シャンティとクライグの二人は、王城へ戻って報告に。残りのわたしたち三人は、ハイディさまのところへ向かう。


 ハイディさまなら、モーリスの牛化を元に戻す薬が作れるかもしれないと思ったからだ。


 クライグは自分とシャンティもお供すべきだと言い張ったが、ハイディさまは大人数で押しかけられることを嫌うし、クライグの魔力の強さに警戒するだろうから、外れてもらった。


「しかし、もしお二人の身に何かあれば……」


「心配ない。私がいるんだぞ」


「ですよね、ウィルフさまを信じてください」


「クライグさん、お二人に判断を委ねましょう。それがわたくしたちの役目ですわ」


「……そうですか、では」


 しぶしぶ引き下がったクライグと、やれやれやっと帰れるとホッとした様子のシャンティを見送った。

 それからわたしとウィルフさまとモーリスは、借りたままの大きな幌馬車で移動した。

 人目がある間は、なるべくモーリスの姿を隠したほうがいいと思ったからだ。騒ぎにならないほうがいい。

 ウィルフさま自ら御者台に腰掛け、巧みに馬の手綱を操った。王子とは思えない姿だが、イキイキとして見える。


「ウィルフさま、嫌がってたわりに楽しそうですね」


 馬車の中から声をかけた。


「ああ、楽しい。風を全身に受けて馬車を走らせるって爽快だな。何事も経験だな。健康になって、いろんなことができるようになって、本当に嬉しいんだ。シャンテル、ありがとう」

 

 ハツラツとした真っ直ぐな言葉が返ってきて、心が洗われた。

 楽しいことをちゃんと楽しいと言えて、すぐに感謝を表せるウィルフさまの、やっぱりここが好きだ。


「あの魔女に会いにいくのは気乗りせんがな」


「またそんなことを」


「また言われたらどうする、望みの薬がほしければ下僕になれと。それが条件かもしれんだろう、ありえるぞ」


 ウィルフさまの声の調子が変わった。


「それでもモーリスを助けたいと、君は思うのか?」


 当のモーリスは一番後ろで巨体を丸めて寝ている。

 答えはYESだったが、口にするとウィルフさまを傷つけそうで躊躇した。


「ハイディさまはお優しいので、きっとなんとかしてくれます。きっと良い方法があります」


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