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「だめだこんなことをやっていては、俺はもう完全にヤバいやつになってしまう」


 とにかく俺は訳がわかっていなかった。後悔もしている。

 なんで道の真ん中であんなキチガイみたいな行為をしてしまったのだろう。


「もう無理だ、こんな人生生きてる価値なんかない! 俺はもう畑に眠ってじゃがいもにでもなってしまったほうがいいんだ。じゃがいもパワーなのだ」


「……何を言っておるのじゃ」


「え、誰だ」


 振り向けば一人の老人がいた。天使の輪っかをしている。服装も真っ白で、なんだか神様のような人物だなと思った。なんとなくその出で立ちからは知性を感じたのだ。


「はぁ、儂が助けることになる人物がどんなやつかと思って来てみたら、まさかこのような輩だったとはの……」


「本当に誰なんですか? 自販機のおつり泥棒ですか? それかキャベツマンですか?」


「儂は神じゃよ。三十秒後にお主は死ぬのじゃが、これをこれから相手にするのかと思ったら居ても立ってもいられんで来てしまった。まぁあれじゃ、痛い治療を先に受けるか後回しにするかの違いじゃ」


 なんだって、神だって? まるで意味がわからないんですが。本当に意味がわからなすぎて、もう俺はこのじいさんを殺さないと気がすまないかもしれない。


「じいさん、俺、お前のこと殺したいって思っちゃうんだ」


「はぁ、お主は一度矯正する必要があるかもな。ただ一度死んでからじゃな」


「だから何を言って……」



 ぷうううん!



 どごん、と音がした。

 一泊置いて、自分がなにかにぶつかったということに気がついた。

 少し先に車がスリップして、電柱に突っ込んでいた。


「まぁこれは飲酒運転じゃな。泥酔した十八歳がやっちまった感じじゃ。お主にこれを回避するすべはない。運命はそう決まっておるのじゃからな」


 かすむ視界で上を見上げると、じいさんがにっこりと微笑んでいた。

 な、なにを……


「なんかあれじゃな、とんでもないやつが分相応にいたぶられてる様子をみると多少すかっとする気もするの」


「た、助けてくれ……」


「いいじゃろう」


 おじさんは俺に手を伸ばした。

 すると俺の傷はみるみるうちに回復した。


「これはエグすぎるって。もう全快しちゃったじゃんか」


「まぁ神にかかればそんなもの容易いことじゃの」


「うわああああああああ!!」


 ふとそんな声が聞こえたかと思うと、こちらの方に何者かが突っ込んできているのが見えた。

 そいつはフードをかぶった青年のように見えた。



 ずぶり。



 何かが刺さった感じがした。

 腹を見ている。ナイフがぶっ刺さっていた。


「ぐわああああああああ!!」


 俺はひっくり返って悶絶した。

 しかしナイフも一緒についてきて、横になった瞬間、さらにえぐるように腹を裂く。


「ひぎゃ、ひぎゃ、これは、これは一体……」


「薬物中毒者の末期症状に巻き込まれたの。どうやら幻覚を見ておって、お主を悪魔かなにかと勘違いしたようじゃ」


「な、なんでこんな目に……」


「お主は死ぬ運命だからじゃよ。その運命はいかなる事象を加えようと、必ず訪れる。たとえ神が干渉したとしてもな。運命とは宇宙そのもの、誰にも逆らうことはできないのじゃ」


 そ、そんな……よくわかんないけど、俺はもう死ぬしかないということか? 本当にマジでどうしたらいいんだよ。


「が、がみさま……お、おらはどうやったら助かるだ?」


「異世界に転生することじゃな。そうすれば運命は一度リセットされ、死亡する運命も消すことができる」


「そ、それを早く頼むよおおおお」


「仕方ないの、これも仕事じゃからの。ちなみに儂がお主を救うのは決して儂がお主に同情したからなどではないぞ。悲しき運命の者を救おうという神々全体の取り組みによるものじゃということを忘れるな」


 その言葉を最後に、もうだめになっていた俺の意識はついに途絶えた。





「は!」


 俺は気づけば、野原に寝ていた。

 なんで、なんで俺はこんなところに寝ているんだ。


「くわくわ!」


 近くで鴨のような生き物が歩いていた。

 か、かも? なんでこんな生き物がこんな野原に? 普通かもと言えば、マグマだろ。マグマの中を泳いでるだろ。


「くわ!」


 鴨は数匹いた。

 そのカモたちが、俺を見た瞬間、どこかへ走りだした。

 それなりの速さだ。

 え、なになに、どこいくんだよ。もう待ってよ。俺を置いていこうとするなよ。


「かもだっしゅ!」


 鴨ダッシュを決めて、俺はその場で足踏みをした。

 鴨ダッシュといっても、前にすすむわけではない。普通であれば、ダッシュというのだから多少なりとも前に移動すると思うだろう。けれど俺はそんなにわかなことはしない。俺はその場で座標的には動かずに足踏みをするだけだ。それもゆっくりと足を踏み降ろすかのようにだ。だからもう鴨ダッシュを始めて十秒くらいが経っているが、俺はまだ三歩分しか地面に足をつけていない。ははは、スローモーション、これはものすごいな。このダッシュの何がいいかといえば、すごい美肌効果があるらしい。


「うりゃ、うりゃ」


 俺はそのダッシュにさらに横方向を加えてみた。一歩も動かないと見せかけて、少しだけ、ほんの少しだけ横に動くのだ。これは相手も意表をつかれ、思わず俺の方をガン見してしまうという効果が狙える。


「もう鴨ダッシュやめよ!」


 飽きたので、やめることにした。俺は異世界に転生した。


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