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公爵令嬢が潰したもの


それは元々は、短編に人気が出て連載になった漫画だった。


最初の一ページはこうだ。


人に怖がられるのは慣れていると言う化物王子に、ヒロインは言い放つ。

「私は、あなたを恐いなんて思いません」



生まれた時から重い病気で日常生活を送ることもままらなかったヒロインは、ずっと田舎の別邸で療養していた。

なにくれと世話をしてくれる使用人達はいてくれるが、遊んでくれる友達はいないーーささいなことで咳き込んで倒れるので、簡単な外出さえ止められる日々。


「君は僕の女神でお姫様だ、生きていてくれるだけで良いんだ」

それでもヒロインが絶望しないで生きていけたのは、溺愛してくれる父親の公爵がいたからだ。


「……一週間、家の近くに恐い化物が出ることになった、君は家から一歩も出ないこと、じゃないと頭からバリバリと食べられてしまうよ」


ヒロインは父親から言われて首をかしげた、化物なんてお父様は全く人を子供扱いしたものだと。


だから調子の良い時に、家から抜け出した。


化物が出るなら出てみろという気持ちで。


そして二足歩行の虎の化物と出会う。


確かに化物だ、だけど服を着ているから知性がある?、とても立派な服を着ているけれど?、ああーーもしかしてあれが噂に聞く化物王子?。


ヒロインは小さい頃から聞かされていた、悪いことをしていると城の化物王子のように、呪われて動物にされてしまうぞと。


じゃ彼は悪いことをしたからあの姿なのだろか?。


ヒロインは屋敷を抜け出して、化物王子の様子を影から見守ることになる。

化物王子は、そう呼ばれている少年は普通の大人しい少年だった。


外見は確かに化物だ、二足歩行する虎なんて普通に放し飼いしないで欲しいと思うほど。


だけど中身は普通だった、いや普通よりもむしろ優しい。


彼の前に森から怪我をしたウサギが現れた時には、頭からバリバリと食べてしまうんじゃないかと思った。


けれど彼は自然とウサギに近づいて、回復魔法でウサギを癒してやった。


ウサギは、化物王子の腕から元気に逃げ出していった。

化物王子は、それを嬉しそうに見ていた。


ヒロインはドキンとした、外見に不釣り合いの優しい内面に、惹かれて行った。


化物王子は父親の言うように一週間で去っていった、ヒロインに恋心だけ残して。


初めて恋をしたヒロインは、胸が苦しくて食事をこっそり抜くようになった、とても胸がいっぱいで食べられる気がしなくて。


するとーーどんどん元気になっていった。

ヒロインは疑問に思う、食事を減らして元気になることなどあるのだろうか?。


ヒロインは、使用人に無理を言って自分で料理するようになった。


体がみるみるうちに元気になり、数年後には別邸から本邸にうつることになる、そこはかとない薄気味悪さをヒロインの胸に残しながら。


元気になったヒロインに、婚約話しが舞い込む。

化物王子との婚約が。

父親は断って良いと言うが、ヒロインは自ら縁談を進めて化物王子と再会を果たす。


そして冒頭のセリフだ。


人を信じられない王子に、ヒロインはぐいぐい距離をつめて両重いになっていく。

その過程が、キュンキュンものなのだ。


私が私を思い出したのは、こっそり屋敷を抜け出して化物王子を見た瞬間だ。


えっ私がヒロインちゃん!?、……今の食事に毒が盛られているかも知れないから、速攻で自分で料理するようにしなきゃ。


化物王子への感情より、まずは自分の心配だった。


だからそれからは王子をこっそり見てることもなく、ドキンすることもなく、とにかく料理に勤しんで健康になった。


ーー漫画で履修していたから知っていた、これはお父様の仕業なのだと。


私を生んだ時に母親が死んで、母親と瓜二つの私をお父様である公爵は溺愛している。


自分の手元から離したくないと、強く思うほどに。


けれど生まれた年が近く、身分的にも釣り合うということから、私に化物王子との婚約が持ち込まれそうになった。


だから食事に毒を盛った、病弱で嫁いで子を産める子ではないからと。


そうして隠すように別邸に連れていき、それからずっと薬漬けだったのだ。


食べるものを改善してからはとても健康になり、漫画通りに数年後、本邸にうつることになった私は、王家主宰のパーティーに出ることになる。


公爵は突然倒れたら困るから出なくて良いと言ったが、療養中ならともかく要約すると『娘と一緒に来るように』という王家からの招待状を無視するわけにはいかないだろう。


それに私は知っていた、化物王子は人間不振でヒロインちゃんがぐいぐい行くまで人と積極的に関わることはなかった。


だから漫画では、婚約を解消して良いと何度もヒロインちゃんに言っていた。


婚約話しが持ち上がっても、私が嫌だと言えば王子も了承してそれで終わるはずだった。


だから予想通りにパーティーで婚約話しが持ち上がり、王家の主導で彼の婚約者となり、王家の顔を立てて少し会ったら断って良いと言う父親に促されるまま王子に会って、怯えを隠そうとしないままに、私は王子から婚約を解消しようと提案されるのを待ったがー。


王子は、いつまでたっても私が望む言葉を言うことはなかった。


怖がり怯える私に失望した顔をするくせに、上の立場を利用して、触れる事を強要してきてーー今思えば最高のシチュエーションでしたね、もっと楽しめば良かった。



展開は変わったし、私と王子の関係と漫画のヒロインちゃんと王子との関係は、全然違う。



けれど変わらないものもある、それが物語の裏で暗躍する存在。



裏で王子の悪い噂を流し、隣国と手を結び王家を陥れようとしているーー公爵である私のお父様の存在だ。


お父様は、私の幸せのためにずっと暴走している、それが私の幸せのためだと信じて。


だから私は、私の幸せはそうじゃないと、お父様に分からせてあげたのだ。



壁一面に、天井を含めてびっしりと王子の絵姿を飾った。


そしてその部屋にお父様を呼んで、たくさんお話しをした。


最初は王子に騙されていると、化物王子に変な魔法をかけられていると疑わなかったお父様は。



ちゃんと最後には『分かって』くれた。



王子が私のものであること、傷つけたら悲しいこと。


お父様も私の大切なお父様だということ、私の『もの』であるお父様が勝手なことをすると悲しいこと。


最後にはちゃんと私に『従ってくれる』と約束をして、その証としてエントランスに私と王子の絵姿を飾ってくれた。



お父様と暗躍していた人達に、意見を翻したお父様の決意が固いことを知らしめるために。



ーー漫画のような恐いことは何も起こりません、激動の世界で愛を深く育んだヒロインちゃんと王子とは違って、私達はゆっくりと愛を育んでいきましょうね、王子。


公爵令嬢には洗脳の才能がある()

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