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令嬢いわく、機嫌の良いもふもふがいれば、人はみな惹かれずにはいられないとのこと

誤字脱字報告ありがとうございます!助かります!


完結と書きましたが、従者視点を思いついたのでちょっと蛇足かもですが投稿します。

化物王子と呼ばれる第二王子の婚約者は、女神の生まれ変わりと呼ばれるほど、可憐で美しい。


蜂蜜色のハニーブロンドに、聖域の湖のように澄んだ青の目。ドレスの上からでも分かるほど華奢で保護欲をそそる肢体。


そのまま立っているだけで芸術品たりえる、神の作り上げた宝石のような存在。


座ってほんの少しの微笑みを浮かべれば、誰もが拐わずにはいられない魅力を持つ令嬢だったが、だからこそ王子と二人きりになった時に出てくる本性がエグかった。



「王子、今日は姿絵を描いていただく日ですね」

令嬢はさりげなくソファに座る王子に近づき、その細い腕を王子の腕に絡めて微笑んだ。


表面上は、誰もが憧れを抱き微笑み返さずにはいられない麗しい微笑みだったが、何分そこに含まれる熱情と熱が計り知れない。

まるで大蛇が獲物を丸のみにする前のような緊張感を前に、私を含めて室内にいる従者やメイドのほとんどがお二人から目を離せない。


吐息がかかる距離でねっとりとした微笑みを一身に浴びている王子は、しきりに空いている手で髭を撫で付けている。

頭の耳がピンと立ち、尻尾がしきりに揺れてソファに当たっていて、どれほど動揺しているか分かりやすくて微笑ましい。


「きょっ今日は、二人で描いて貰うんだろう?」

「はい、以前に描いていただいた王子の姿絵も素晴らしいのですが、やはり二人のも欲しくなってしまいまして」


令嬢がこちらに目線で合図を送ってきたので、メイドが音もなく扉を開き、以前に王子を描いたのと同じ初老の画家を室内に招きいれる。


画家は室内に入るなり絨毯に深く頭をつけ、王子に頭を上げる許可を待つ。


「私はどう描いても良い、彼女のありのままの美しさを描いてくれ。頭を上げ筆を取るが良い、絵に関することならば口を開くのも許可しよう」

王子の許しを得て、頭を上げた初老の画家は、少年のようなキラキラと輝く目で王子を見上げた。


この画家が、令嬢の布教と洗脳を受けているということは王子の密偵の報告でわかっている。


王子の許しを得て、画家はメイドに画材を一式持ってきてもらうと、上質の紙に何枚もラフを描いて行く。


ラフではあるがさすがに上手い、その全てが王子を描くのに力はいってるなーとわかる当たり、令嬢の洗脳の力量もわかる。


画家は何枚か選りすぐり、ラフを王子と令嬢に渡した。

「このままでも良いのですが、より良くするために提案をしてもよろしいですか?」

「今日は脱がない」


前回の姿絵の時に、令嬢と画家の言葉巧みな誘導により上半身裸の絵姿を描かれてしまった王子は、食いぎみに言った。


「じゃあ私が脱ぎますから、王子の腕で前を隠していただけますか?」

「はぁ!?何を言ってるんだ君は!」

「ああ王子はありのままの姿の私を描いて欲しいと言われてましたね、じゃあ何もないほうが……」

「今日は僕も脱がないし君も脱がない!」

「わかりました、じゃそのかわりポーズを決めさせていただいても?」

「わかった」

それ罠ですよ、王子!。



「まっ待って……」

室内にリップ音だけが響く。


ポーズを決めると言った口で、令嬢は王子の口を塞いだ。


画家はこの時を待っていたかのように、老人とは思えない素早い動作でスケッチブックを片手に色々な角度のラフを描いている。

その息の合いようは、まるで打ち合わせでもしていたようだ。


いや完璧打ち合わせ済みでしょう!、今日もばっちり嵌められてますよ!王子!。


王子の口の中には獣の鋭い牙が生えていて、触れれば人のやわらかな肌など簡単に傷つけてしまう。


その為令嬢を傷つけないように、王子は喋ったり口を開ける動作をする時は、令嬢から一定の距離を開け細心の注意を払っている。


よって、令嬢が嬉しそうに唇に軽い口づけを送り続けるかぎり、王子に令嬢の暴走を止めることはできない!。


王子が手でこちらに助けを求めているが、無理なんですその人むちゃくちゃしてるけど公爵令嬢なんですよ?、見た目がわりと肉食獣の補食シーンみたいですが、怪我させてるわけでもないし、この場にいる我々の身分的に婚約者と仲睦まじい交流を止めることは難しいんです。


画家の筆が止まり、令嬢はそっと美しい動作で王子から離れた。

画家が恭しく差し出してきたラフスケッチを嬉しそうに受け取って眺める。


中で特に良いものを令嬢が王子に差し出すと、恥ずかしさと動揺で荒い息を吐いていた王子は、深呼吸してからそれを受け取り爆発した。


爆発というか全身の毛を逆立てびっくりしている。

王子はそれを持ったままぎこちない動きでこちらに近寄ってきて聞いてきた。

「私達はいつもこんな顔をしているのか?」

こちらに見せてきたスケッチは、見れば見るほどよく描けている。


でろでろに蕩けそうなほど嬉しそうな令嬢の表情も、それを受けて幸せそうな王子の顔も、いつも通りだ。


「はい、特筆すべきことは何もない感じでいつも通りのお二人です」


「そうか……」

恥ずかしそうに、熱いものを見るようにそれを眺めて、王子は嬉しそうに笑った。

「彼女は、私はいつもこんな顔をしていたのか」



それから王子は、他の何枚かのスケッチを選んで手に取り、時間がかかっても構わないから全て姿絵として描き起こすように命じた。


画家は恭しくその命を受け取り、その後令嬢の差し出した手を取って熱い握手をがしりと交わした。


二人の仲の良さに、王子が若干嫉妬して、尻尾をゆらゆらしていたのが、今日のハイライトでした。



その後納品された絵姿は、王子の寝室に飾られることになり、女神の生まれ変わりと呼ばれる令嬢の変顔かな?と言うぐらい蕩けた顔がメインの構図の絵が四方に飾られるわけですが。


百年の恋が覚めそうなそれを、毎朝毎夜飽きずに幸せそうに眺めるあたり、きっと二人はお似合いなのでしょう。



あ、ちなみに令嬢もいくつかのスケッチを画家に命じて姿絵を描かせ、それはがっつり王子がメインだったそうで。


凛々しい虎が愛しげに可憐な少女に口付けている姿は(逆だろ!!とスケッチの場にいた従者とメイドは心で叫んだ)、姿絵というよりも一級品の絵画のようで、公爵家のエントランスに堂々と飾られたそれを見るために、簡単な用事でも公爵家に直々にお目通し願う貴族が後を経たなかったとか。


ーー令嬢と親しく付き合うようになってから雰囲気がやわらかくなった王子は、夜会のそこかしこでそのことについて上品にひやかされ、その度に硬直して耳と尻尾で動揺を表す王子の可愛さに、何人もの男女が令嬢の言う所の『王子派』に転んだらしいです。

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