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彼女は、王子派なのだと言った


いつも夢に見ていた、一人の少女の夢を。

『私は、あなたを恐いなんて思いません』

夢の中で、蜂蜜色の髪の女の子は笑っていた。

獣の手を握り、隣にいていつも励ましてくれた。


現実で辛いことがある度に、少女は夢の中に現れた。

『それでも、私はあなたを愛しています』



獣化の呪い。

または獣神の祝福、言い方は色々あるが、時々生まれてくる赤子が獣の姿に転ずる術が王家にはかかっている。

元々獣神に身を捧げた巫女から生まれたのが、初代王とされているために先祖返りだという説もある。

この身に宿る爆発的な魔力を思うとそれもただの伝説ではないとはと思うが、人々の私を見る畏怖の目を見る度にこれは呪いだと思わずにはおれない。

王の血筋である父上とアレク兄には普通の家族と同じように扱われるが、他国からの輿入れである母親には、生まれた時から距離を取られている。

王子は獣神と王の間から生まれた、だから私はお前の母ではない。

私の子はアレクだけだと、吐き捨てられるように言われた。


母の代わりに私を育ててくれた乳母も、私の情報を他に売って小遣いを稼いでいた。

これぐらいの役得がないと化物王子の世話なんてやってられないと、影で言っているのをこの無駄に性能の良い化物の耳で聞いてしまった。



恐れと畏怖と化物を見るような嫌悪感、獣の呪いは私の心を歪めて他者を呪わせた。

まともに人の形である父上も兄も、こんな形に生んだ癖に自分の子だと認めない母親も、少しでも成績が良いと能力と引き換えにあの見た目なら優秀じゃなくて良いと笑う同級生も、表では笑ってくれて信頼していたのにーー陰口を叩いて自分を売っていた乳母も。


みんなみんな嫌いだった、この獣の見た目を笑う者はみんなみんな呪われて消えてしまえ。


自分には、夢の中の少女だけで良かった、無条件で僕を愛して受け入れてくれる彼女だけいれば良かった。

名前も知らない夢の中の、現実にはありえない少女。



だけど少女は目の前に現れた。

他の人々と同じような、恐れと畏怖をその目に浮かべて。



嘘だありえない。

彼女だけは違う。

君は、僕のことが好きなはずだ。


けど一歩近づけば、彼女が僕を恐れていることはすぐにわかった。


婚約者だから、仕方がなく、親に命じられてここにいる。


彼女はその態度を隠さなかった。


ショックだった目の前の全てが歪むほど、彼女に癒され続けた時間が全て剣山のように心に精神に突き刺さる。


夢の中の彼女が現れるはずがないと思っていた、その少女が現れ奇跡が起きたと思った、けれどそれは特上の悪夢だった。


僕を救い続けた夢の中の少女は、他のその他大勢の者と同じように僕を否定したのだから。


それでも僕は諦められなかった。

夢で得た幸福を現実でも得ようと努力してーそれが無駄であると一月もしない内に悟った。


だから僕は、諦めた。

だから僕は、形だけで良いと諦めた。

僕は彼女に婚約者として自分に触れてくれと命じた。

上から、上位者であることを盾に彼女を脅して、自分に触れさせた。


彼女は怯えていた、頭を下げて動物のように害意がないのを示してーーようやく彼女は僕に触れた。


その時、僕は頭の中で夢の少女を反すうしていた。

彼女を夢の少女の身代わりにしよう、同じような行動をしてもらい、頭の中で夢の中の少女を思う。

現実の彼女の気持ちなど知ったことか、僕には僕のことを好きだと言った夢の少女がいればいい。


心はもういらなかった、その見た目で、少女と同じ行動さえとってくれればそれで良いと割りきった。



彼女の触れかたが、回を増すごとに変わって行った。

最初は恐れながら怯えながら触れていたのにーー密着して触れてくる。

顔が近い、尻尾にも触られた、毛皮に洋服は暑くないのか服を脱がないのか聞いてくる。

獣の真の美しさは裸である時なのだと力説してくる。

「せめて!上半身だけで良いんです!」

え?何が?。


いつの間にか目が変わっていた。

恐れも恐怖も畏怖もなくーーそこには触れれば火傷しそうなほどの熱があった。


夢の中の少女には、なかったそれ。


「私知らなかったんです、王子がこんなに可愛いなんて!思いませんでした!」

耳を顎の下を尻尾を慈しむように撫でられる。

「私ずっと自分のこと犬派だと思ってたんですけど、虎派だったんです!王子派だったんです!」

蕩けるような目で舐めるように顔を見られている。

それがなぜか最初はわからなかったが今ならわかる。

どこを撫でられるのが気持ち良いのか、探られているのだ。


だから彼女に撫でられるのはこんなにも気持ちが良い。

気づくと喉を鳴らしてされるがままになっていた。

服の中に手を入れられているが気にならない、求められるままに喉を鳴らして顔を舐め、気づくと別れの時間になっている。


「名残惜しいです」


幼子にするように、額と頬に口づけられる。

きっとそうされるのが好きなのだと、知られている。

その後の力強い包容はーー違う、ただ彼女がしたくてしてるだけだ。


少女の夢は見なくなっていた、その代わりに燃えるような目の彼女がこちらの服を剥いで、めちゃくちゃしてくる夢を見るようになった。


「私は変態なのかもしれない」

「大丈夫です、令嬢のほうがヤバイです」

彼女の面会の時も傍らにいる従者に聞けば、真顔で言葉が帰ってきた。


「王子、裸に首輪をつけて飼わせて欲しいとねだられるかもしれませんが、耐えてくださいね」

「ーー努力する」


それはそれまで考えたことがなかったぐらいに大変な日々で、それ以上に幸福な日々だった。



「王子が王子でなかったら、私の領地に連れ帰って二人だけの部屋で一日中もふもふして、私が領地の仕事をしている間は原っぱで日光浴してもらって、ずっとずっと幸せでいられるのに!!」

「……僕は君の暴走が止められる王子の身分に生んでくれた、父上と母上に生まれて初めて感謝してるよ!!」

最初から最後まで勢いのまま書けて楽しかったです!。

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