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お友達ができました

「てかさ、パトリックって誰??!……まさかユーフェミアの恋人?」


 クッキーを頬張り終えると、マリアンが興味津々だとばかりに私の手紙を覗き込んできた。


「恋人じゃないよ、婚約者。」


「は?え、え、えーーーっ?!……ユーフェミア、婚約者がいるの?!」


 驚いた顔で見つめられ、私も驚く。


「マリアンにはいないの?」


「いないよ、普通、いない!……あ、そっか!忘れてたけど、ユーフェミアってば、こんなんだけど、お貴族様で伯爵家のご令嬢でしたっけか……。」


「こんなって、どんなよ……。」


 真剣に反論すると、マリアンがフフフッと笑った。


「まあまあ。気さくって事だよ。……私は商売人の娘だから、婚約者がいるって、なんかビックリな感じ。……だって親が決めるんでしょ?そういうの、嫌じゃないの?短い付き合いだけど、ユーフェミアの性格だと、『絶対に嫌っ!!!』って大騒ぎしそうだけど……?」


 不思議そうにそう聞かれ、私は「うーむ」と考え込んだ。


 ……確かに、最初からパトリックを婚約者候補だって紹介されていたら、反発しまくっていたかも……。

 だけど、お友達だと思ってて……そしたら気も合って……。実は婚約者候補だったんだって言われた時も、驚きはしたけど、反発心は湧かなかったな……?

 正式な婚約者になる時も、パトリックがメリットを教えてくれたから、戸惑いはあったけど、嫌だとは思わなかった……。


 まあ、子供と婚約ってアリなの?!とかは思ったけれど……。


「パトリックは、幼馴染だったんだよね。だから嫌だとは思わなかったなぁ……。ほら、貴族だと結婚相手は親が決めるし、知ってる人だし安心、みたいな?」


「ふーん。……じゃあ、ユーフェミアは恋したい!自由に恋愛したい!って思わないの?」


「え???」


「私はさ、貴族じゃないから婚約者とかいないし、いつか素敵な男性と恋人になって、恋愛結婚したいなぁって思ってるんだ!」


 マリアンはそう言うと、夢みがちな表情を浮かべた。

 きっと素敵な男性とやらを妄想中なのだろう……。


「……あのさ、マリアン。」


「ん?」


「そんな男性と、いつ出会うの?……ここ、女の子しかいない学校だよ?しかもメチャクチャ厳しいし……。卒業する頃には結婚適齢期だし、マリアンだって卒業したら、お父様の持ってくるお見合いの中から、誰かを旦那様に選ぶって感じじゃない?!」


「あっ……!」


 この世界は、かなり古い感覚の世界だ。だから、結婚適齢期も男女共に早い。女の子だと16〜22、23歳くらい、男性でも18〜25、26歳には結婚する人が大半だ。


 ……特に女性は25歳過ぎると売れ残り的な事を言われ、初婚の人との結婚は難しいなんてなるそう。だから、そうならないようにと、大抵は親は必死で頑張るのだ。


 庶民の、ものすごーく下の方はどうだか分からない。


 だけど、庶民でも割と裕福な家ではそれが当たり前みたいだし、貴族と同じ学校に通ってるマリアンは、どう考えてもかなりのお金持ちの家の子だ。

 

 つまり、結局は学校を卒業すると同時くらいに親の勧めでお見合いをするって事になると思うんだよね?


 まあ、婚約者なんかよりは選べるのかも知れないけれど、前世であったお見合いサイトみたいに、たくさんの中から選べる訳ではなく、やっぱり数人の親が持ってくるお話の中から選ぶ感じにはなるだろう。


「うー……!!!なら共学、行けば良かったぁ!」


 マリアンがガクッと肩を落として叫ぶ。


「共学の学校って、少ないよ。王都のアルカエラ校くらい?」


「はぁ……。私の学力じゃ無理だわ……。」


「分かる。私、落ちちゃったんだよね、アルカエラ校。パトリックは受かったんだけど……。」


 私がそう言うと、マリアンがガシッと私の肩を掴んだ。


「え、すご……。パトリックって、賢いんだ?!」


「うん、すごく賢いよ?……首席なんだって自慢の手紙をよこしたもの。」


「ええええっ!!!すごいっ!!!エリートじゃん!!!……写真とか、ないの?!見たい、見たいよ!」


 パトリックの写真かぁ……。


「うーん……あったかな?……あ、結婚式の写真があったな……。」


 私はゴソゴソと机の引き出しを漁った。


 あ、あった、あった!

 ダスティン様の結婚式にみんなで撮った写真!


 辛い時にダスティン様のご尊顔を見て元気出そうと思って、ちゃーんと持って来たんだよねぇ……。ま、聖女様との結婚式の写真ってのが皮肉ではあるけど。


「……これだよ。この、私の隣にいる、同じくらいの背の高さの男の子がパトリック。」


 写真を開き、みんなが映る中からパトリックを見つけて指差す。写真の中のパトリックはなんだか気取った顔をしていて、ちょっと可笑しいな……なんて思いながら。


「う、うそ。すっごくカッコいいじゃん!!!……てか、ユーフェミアの親族って美形揃いじゃない?!ユーフェミアも相当可愛い顔してるって思ってたけど、す、すごいね、コレ……!」


 まあね……。兄さまもダスティン様もアンジェリカ様も、ついでに私も……みーんな乙女ゲームの登場人物ですしねぇ……。


 そういうマリアンだって、なかなかの美人さんだと私は思う。まだ13歳だから、まだ少しアンバランスさはあるけれど、大人になったらすごい美人になりそう……。


「えっ……。コ……コレ、聖女様じゃない?!」


 端から一人一人を指でさしながら見ていたマリアンは、新婦であるアンジェリカ様に指を止めて、ポカンと口を開けた。


「うん、そーだよ。パトリックのお兄さんは、水の聖騎士であるダスティン様なの。聖女様と結婚したでしょ?……ちなみに、これがこのクッキーを送ってくれた私の兄さま。風の聖騎士なんだよ?」


 私がそう言うと、マリアンがゲホゲホとむせ始めた。


「……ユーフェミア、これは……いかーん!」


「いかん?」


 遺憾?

 移管?


「ダメって事よ!つい方言が出てしまったわ。……貴方、問題児扱いされてるけど、凄い家柄のご令嬢だったのね?!だけどこれ……ベラベラ話してはダメだよ!確かにこの学校は貧乏人には入れないよ?だけど、商人や成金の子供たちもいっぱいいるんだし、下手な奴に知られたら……こんなの、利用されちゃうよ?!……ユーフェミアは危機感薄すぎるっ!!!」


 マリアンは必死でそう言うと、写真を閉じて私に突き返してきた。早くしまえと言わんばかりに……。


「……あのさ、これ、マリアンだから見せたんだよ?」


「へ……?」


「私ね、こう見えて大人だから、ちゃんと人を見る目はあるの。両親や兄さま、パトリックにもちゃんと友人は選びなさいって忠告されてきたし、それは分かってるんだよ?」


 マリアンさん、こう見えて私、中身は大人なんですからね?


「いやいやいや、分かってない。絶対に分かってないよ……。私の家は由緒正しくもないし、成金で正真正銘のド庶民なの!……もっと警戒しなきゃ!」


「分かってないのはマリアンだよ。……じゃあ、由緒正しい貴族なら悪い事はしないの?違うよね?成金だと、悪い事するの?……それも違うよね?……そもそも、私を利用しようとするような子は、こんな慌てて心配しません。つまりマリアンは良い子。だから、写真も見せていいし、仲良くなっていい。……てかね、私……マリアンとはルームメイトじゃなくて、お友達になりたいって思ってるんだ。」


「……!!!……い、いいの?……私もユーフェミアと……お友達になりたい。……ほんとに?」


「いいってか、こちらこそお願いしますだよ……?」


 そう言って手を差し出すと、マリアンはおずおずと私の手を握ってくれた。


「えへへ……。なんか嬉しい……な。」


「私もだよ。」


 一緒になって2人で笑う。


「実は私ね、こんな厳しい学校で、友達とか無理って思ってた。みんな話を聞くとお貴族様の出ばかりだし……。まあ、ユーフェミアはあんまり貴族っぽさがないから、話しやすいな……とは思っていたけど……。……内心、やってけるかなって、不安だったんだ。」


「それはさ、私もだよ。……ここ来てからは怒られてばっかで、さすがに凹んでたもん。でもさ、キツいからこそ、かたーい友情が芽生えるんだと思わない?……さ、さ、さ、クッキーをもっとどーぞ。……てか、見回りがそろそろ来る時間だし、ベッドの下にかくれて食べない?」


「賢い!ユーフェミア!」


 私たちは慌てて荷物をまとめると、ベッドの下に潜り込んだ。


 ◇


 ねえ、パトリック。


 私ね、お友達が出来たんだ。

 パトリックにもお友達、できましたか???


 私はその晩、そんなお手紙をパトリックに書いた。








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