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寄宿学校への旅立ち

 そうこうする間に次の年の秋がやって来て、私が寄宿学校へ入学する日を明日に迎えようとしていた。


 ……この国の新学期は秋に始まる。


 私の入学するユカリオ女学院は、かなり辺鄙な場所にあり、この王都から汽車で数時間かかる所にある、全寮制の女子校だ。


 なんでこんな場所にある学校に行くのかというと、パトリックも行く共学の名門校……アルカエラ校の試験に私が落ちてしまったからである。

 もう少し早く大人だった頃の記憶が戻っていれば……と思わなくもないが、まあ……仕方ない。(てか、大人の記憶が戻っておきながら落ちてたら、メンタルがやられていたかも。)


「ユーフェミア、女の子ばかりの学校で寮生活なんてやってけるのか?」


 悪戦苦闘しながら、トランクに荷物を詰め込む私を見つめながら、パトリックは少し心配そうに聞いてきた。


 パトリックは、出発する前日なので会いに来てくれているのだ。遠方だし寮生活になるから、次に会えるのは……ウインター・ホリデー……数ヶ月は先になるだろう。


「まあ大丈夫だよ。私、前世では女子校を出てるからね。だから、むしろ楽しみかな。女の子だけって伸び伸びできるし、気の合う子にも会えるって思うんだよね。」


 以前、何度かお友達探しと称するお茶会にお呼ばれしたが、あまり気の合う子には出会えなかった。

 まあ、社交界デビュー前の顔見せ兼、将来のお見合い相手探しな側面もあったりするので、みんな猫かぶってましたしね……。


「ふーん……。」


「パトリックだって、この国一番の名門校に入る訳じゃない?……楽しみだよね?」


「いや、俺は別に。……寮生活する訳じゃないし。」


 パトリックの学校にも寮はあるが、王都にあるため、大抵の生徒は通いになるのだそうだ。


「えー?でも、素敵な出会いがあるかもよ?」


「どーかな。……てか、大抵は知ってるヤツらだろ?アルカエラ校に入る奴らなんか、貴族やら豪商の子供たちだし、大概が茶会なんかで一度くらいは会ってるんじゃないか……?」


 つまらなそうに答えたパトリックに、私は荷造りの手を止めた。


 ん?……パトリック、なんか不機嫌???

 いや……これは……。


「あ!……もしかして、パトリック!ユーフェミアちゃんに会えなくなるの、寂しすぎ???」


 そう言って顔を覗き込むと、パトリックは慌てて顔を逸らせた。


「……。」


「ん?んーーー???」


「顔がうるさいぞ、ユーフェミア!」


「いやぁ、だって。パトリックがしょんぼりですしぃ……?」


 私がそう言うと、パトリックは私の顔を手でぐいっと押す。


「そもそも、なんでユーフェミアはアルカエラ校の試験に落ちるんだよ?!……そんなに難しい試験じゃなかったろ?!」


「えええっ。……難しかったよ?」


 パトリック、お利口な貴方には簡単かもだけど、あの学校……超名門のエリート校ですからね?!簡単な訳がないのですが???


「でも、おじ様や、うちの親父に頼んで寄付金を積めば……!」


「……あのさ、無理してレベル高いとこ行っても苦労するだけじゃない?私が行くユカリオ女学院はレベルも合ってるし、さっきも言ったように女の園って感じで楽しそうだし、こっちで良かったと思っているよ?」


 私がそう言うと、パトリックは急に私の手を掴んで、切ない顔になった。


「じゃ、じゃあ……!……ユーフェミアは、俺と離れるの……さ、寂しくないのか?!」


「…………!!!」


 うるうると私を見つめてくるパトリックを……思わず、可愛い……と、思ってしまった……。


 そうだよ。いつもやり込められてるから忘れがちだけど、パトリックはまだ13歳なんだ。

 仲良しのお友達と同じ学校に行けないとか、切ないよね……。お子様だもんね……。


 ぶわわわぁっと母性本能が湧いてきてしまった。


「リックーーー!!!」


 頭から、ガバッと抱きついてパトリックを撫でまくる。


「リックって言うなよ。……それ、ご機嫌取りする時の呼び方だろ?」


「だって、ご機嫌取りしたいの。リックは寂しいんでしょ?だからヨシヨシってね?」


「それ、またしてもお姉さんぶってるだろ……。腹立つなぁ……。でも……ま……いいや……。」


 パトリックはそう言うと、私の体に腕を回して目を閉じる。


「ミアと……ずっとこうしていたい……。俺さ、ミアと離れるのが寂しいんだ……。」


「あのね、リック。私も寂しくない訳じゃないよ?……だけど、離れるのはずっとじゃない。ホリデーには帰ってくるし、それに卒業したらずっと一緒だよ?私、リックの奥さんになるんでしょ?その為にも、お互いに頑張ろ?……手紙、書くよ。」


「ん……。……だよな。」


 そうやってお互いにくっついていると、荷造りを手伝いにやって来たメイドに「あらあら、仲がおよろしいですわね。」と冷やかし気味に言われたので、私たちはバッと離れた。




 ◇




 でも……。

 

 女学院に入学すると、そこでの生活は思っていたよりも……いや、想像以上に厳しい所だった。


 私は前世で楽しかった女子校生活を思って浮かれていたが……それとはだいぶ違うものだったのだ。


 ここは、学校というよりは修道院みたいな所で(実際は修道院がどんなだか知らないけど。つまり、すごく厳しい雰囲気って事ね?!)、マナーならまだしも、規律や決まり事、しきたりなどにも非常にうるさい所だったんだよね……。


 まあ、お嬢様学校だし、淑女を養成する為に規律正しく!ってのも分かるけど……。日中だけならまだしも、寮生活だから夜も見回りが来たりして……ハッキリ言って、ストレスが半端ない!!!

 私ってば最早、ヤサグレモードですよ?!


 兄さまに愚痴をいっぱい書いた手紙を送ると『そういう学校なんだからしゃーない。上手い事、息抜きしながらやるしかないよ。ま、辛くなったら言うんだよ。なんとか助けるからさ!』なんていう励ましの手紙と、王都の老舗菓子店のクッキー詰め合わせを本に見立てた補給物資が届いた。(学校に食べ物を送ってくるのは、衛生面などから禁止されてるので、本に隠して送ってくれたのだと思う。……気が利くじゃん、兄さま!)


 ……ちなみに、パトリックにはこの事は秘密にしている。だって、お互い頑張ろうって言ったし、大人は子供に心配なんかかけてはダメだからね……?


 それに、あまり学校に行くのに乗り気ではなさそうだったパトリックだけど、学校生活は順調らしく、名門といわれるアルカエラ校でも、優秀な成績を収めているらしい。

 しかも入試の成績は一番だったとかで、新入生代表として入学式に挨拶までしたんだってさ。


 ヤサグレてるなんて、ますます言えないよ……。


「パトリックは……すごいなぁ……。」


 部屋で兄さまが送ってくれたクッキーをボリボリと齧りつつ、パトリックからの手紙を読みながらそう呟く。


「パトリックって、誰?」


「あ、マリアン。」


 マリアンは私が口に咥えていたクッキーを取り上げた。


「ユーフェミア、時間外にお菓子なんか食べてたらまた叱られるよ?……てかコレ、どうしたのよ?」


 そんな事をいいつつも、マリアンは私の齧りかけクッキーを、もしゃもしゃと食べてしまった。


「マリアンも食べたじゃん……。」


「あはは。そうだね……。誘惑に勝てなかった……。」


 二人で顔を見合わせて笑う。


 ……マリアンは寮のルームメイトだ。


 たまたま一緒の部屋になっただけだが、マリアンもまた私と同じくこの窮屈な学校にヤサグレ気味であり、私たちはすぐに意気投合した。


 できればマリアンとはルームメイトからお友達に昇格したいと思う今日この頃なのである。


「次の見回りはまだ先だよ。私ね、見回りの時間にパターンがある事を割り出したの。……だから良かったらマリアンもクッキー食べない?」


 私がそう言って缶を差し出すと、マリアンはニコニコと笑って、一度に3枚のクッキーを頬張った。


「あふぃがと……。」


 モフモフっと答えるマリアンに笑みが溢れる。


 学校では、こうした甘いものはほとんど出ない。

 デザートとして、果物やゼリーなんかは出るけれど、そのくらい。体や美容にはいいけど、年頃の女の子にとっては、たまったもんじゃない……。


 しかも、ここは田舎で、街に売られているのは、甘さ控えめで素朴なお菓子ばかりだ。……それすら決まった時間に申告して食べないと罰せられるんだよね。

 その上、それを買う為に学校の外に出るには許可がいる。ヤサグレ気味で優秀とは言い難い私たちに、そんな許可は滅多に出るわけもなく……。


 つまり、私たちは常に甘いものに飢えているんだよね……!

 

 でなきゃ、マリアンだっていい所の家の子だ。私の齧りかけのクッキーを食べたり、一度に3枚のクッキーを頬張ったりはしない……。

 

 私はマリアンと、兄さまが送ってくれたクッキーで、ひとときの幸せを分け合う事にした。










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