デートの在り方
パトリックとは婚約したものの、私たちにそこまでの変化は無かった。
今までだって、暇が合えば会って遊んでいたのだ。
婚約者になったから今まで以上に頻繁に交流を……なんていったら、毎日会う事になってしまう。
そんな私たちの様子を重く見た?らしいアウレウス伯爵とお父様は、ある日私たちに命じた。
『家で今までみたく遊んでいるのではなく、デートでもしてこい!!!』
……と。
◇
「なぁ、ユーフェミア、お前は前世とやらで大人だったんだろ?……デートって、どんなことをするんだ?」
お父様たちにデートをするよう言われた私たちは、作戦会議……もとい、デートプランを考えるよう言われ、サロンに放り込まれた。
くそ……。
今日は2人で珍しい虫を取る予定だったのに……!
ぽけーっとお茶を飲んでいると、パトリックがそう聞いてきた。
パトリックって、真面目ちゃんだわ。
やれと言われたから、ちゃんとデートのプランを考える気なのだろう。
し、しかし……。
「う、うーーーん。」
私は頭を抱えた。
「なあ、前世だと、どんなデートしたんだ?」
パトリックが興味津々という様子で身を乗り出す。
いやね……私、女子校から女子大、そして女ばかりの職場に就職したので、生憎ながらデートの経験は非常に乏しいんだよね?
いいなぁって思ってる人と、バーベキューやテーマパークに複数人で行った事はあるけれど、この世界にはどちらも無いし……どう説明すべきか……。
「え、えっと……バーベキューっていう野営をしたりね……。」
「え。野営……。の、野宿するのか?!お、お前……労働階級ですらなく、その……浮浪者だったのか?!」
パトリックがドン引きという顔で私を見つめる。
「あ、いや、違う!家はちゃんとありました!浮浪者じゃないし!……その野営は、泊まったりはしないの。遊びだから。みんなでね、野営地を作って、焚き火して、お肉を焼いて食べたりね……?」
「……た、楽しいのか、それ?……不衛生な環境で食事するって遊びなのか???」
「ち、違うよ!お祭りの屋台を自分たちでやる感じ!パトリックだってお祭りの串焼きは大好きでしょ?!」
「まあな……。プロが味付けして、プロが焼いてるから、安心して食べられるだろ。……ユーフェミアが適当に味付けした生焼けかも知れない肉をドキドキしながら食べる遊びとか……マニアックすぎるだろ……。」
……。
……。
どうやら表情からして、バーベキューは却下らしい。
まあ、パトリックが火おこしするイメージは湧かない。……水の加護持ちだし、なんか相性も悪そう。
「……ええっとあとは、テーマパークっていう、お祭りに来る移動遊園地みたいなのに遊びに行ったりね……?」
「お祭りなんか、時期じゃなきゃやってないだろ。」
「だよね……。」
「なんかさぁ、頼りないな……。本当にデートした事あるのか?……さっき『みんなで』とか言ってたよな?デートって普通は2人きりでするんじゃないのか?」
こ……これだから勘のいいお子様は嫌いだよ!!!
「あのねぇ!今のパトリックに大人のデートを教えても難易度が高いでしょ?!だ、だから私は初級編を教えてる訳よ!!!……まずはグループ交際。グループデートが基本なの。」
「ふーん。……そっか。じゃあ、グループ交際、グループデートってのは、どんななんだ?」
パトリックが薄笑いを浮かべながら聞いてくる。
……く、くそ。
なんか足元見てるわね……。
「そうね……。やっぱり最初から2人っきりって緊張しがちじゃない?」
「いや、別に。俺はあんまり緊張しないけど?……てか、ユーフェミアとはいつも2人で遊んでるよな?」
「そ、それは……!!!……だ、だけどね、デートは良く分からない訳じゃない?!どうしようって、パトリックだって思ってるでしょ?」
「ああ、まあな……。」
「だから!!!……先輩カップルと一緒にデートして、デートの在り方を学ぶのよ。……あ、こんな感じなのねって。それに先輩カップルに色々とデート中に困ったり悩んだりした事を相談できるじゃない?!」
私がドヤ顔でそう言うと、パトリックは「うーん。」と考え込んでから、一口お茶を飲んだ。
「なにか可笑しい?パトリック。」
「いやさ、俺は初心者だから超入門編でも分かるんだけど……大人のデートもご存知なユーフェミアは超ベテランなんだろ?……悩んだり困ったらユーフェミアに相談すれば良いと思うんだよな?先輩カップルじゃなく。」
……。
これだから勘の良いお子様は……(以下略)!
「……だけどね、パトリック。異性である私には聞きにくい事もあるかもだし、男性側のエスコートのマナーは、女性の私にはわからないのよ。……そこで登場するのが、先輩カップル・男な訳。私は別に先輩カップル・女に教えてもらう事なんてないけど、パトリックは色々とアドバイスをもらうべきかもね……。」
「……別にさ、デートするのはユーフェミアだろ。マナーだか何だか知らないけど、ユーフェミアが嫌じゃなきゃそれで良いんじゃないか……?そういうのこそ、2人で話し合ってどうするか決めた方が……。」
またしても正論をかましてきたパトリックを私は遮った。
「えええい、うるさい!!!……パトリック、ゴタクは良いの!やれと言ってるんだから、やりなさい!!!アドバイスしている意味がないでしょ!」
テーブルをダン、と叩きパトリックを見つめる。
「……はい、はい。分かりましたよ。……じゃあさ、ユーフェミア……俺が相談しやすい先輩カップルと一緒にデートするんで良いんだな?!」
……ん???
なんか今……パトリック、変な顔しなかったか?
「も、もちろん。そこはパトリックにお任せするわ。」
「ふーん。じゃあ俺、デートプランも先輩カップルに相談して決めとくわ。……じゃあ、そういう事で……文句言うなよ、ユーフェミア。」
「言わないわよ!……たとえパトリックが考えたデートがショボくて失敗だって、私は大人だから、優しい目で見てあげますぅ。」
「なんかすげー上からで腹立つな……。野営デートを提案してくるユーフェミアよりショボいデートなんて、そうないと思うけど……。……ま、いいや。じゃあ来週な!楽しみにしとけ。」
パトリックはそう言うと、私にとても良い笑顔を向けた。
◇
「パ、パ、パ、パトリックの……鬼畜!!!」
私は物陰にパトリックを引き摺り込むと、パトリックに猛然と抗議した。
……パトリックが提案してきたデート。
それは、観劇&ディナーだった。
お子様のデートにしてはチケットもお高めだし、夜に観劇してディナーなんて流れのデートってのは、おませすぎると思ったけれど……貴族だからなのかなぁって、その時はあまり不思議に思わなかった。
だけど、いくら貴族とはいえ……いやいや、貴族だからこそ、未成年のお子様2人を夜にうろつかせる訳はないんだって事に気付くべきだったよね……私!
そう……つまり、こんなデートをするって事は、信頼できる保護者が付いて来るって事でっ……!!!
「いやぁ、結婚してからデートなんてしてなかったから、久しぶりですごく楽しかったね。」
「ええ。舞台も面白かったし、このレストランも素敵ね。なんだか付き合っていた頃を思い出して、すごくドキドキするわ。」
……。
後ろからダスティン様&アンジェリカ様の浮き立った声が聞こえてきて、私はレストランのフロントの物陰に押し込んだパトリックを引っぱり出した。
『……ごめん、ごめん。俺が相談しやすい先輩カップルなんて、兄貴夫妻しか思いつかなくてさぁ。』
悪びれる様子もなく、パトリックが耳打ちしてくると、ダスティン様とアンジェリカ様は私たちを微笑ましい幼い恋人だといわんばかりの目で見つめてきた。
そ、そんな目でみるなぁ!!!
……最悪のデートだ。
観劇だって並んで座る2人が気になってしまい上の空だったのに、その後のディナーでダスティン様とアンジェリカ様は、バカップルぶりを炸裂させてきた……。
2人は同じ料理なのに、食べさせあったりしているのだ。乙女ゲームではよくある、「はい、あーん。」ってやつだ。
おいっ!!!
個室とはいえ、ここはレストランなんですが?!
しかも弟(お子様)の前で、なにやってんの?!
ひ、非常に……いたたまれない。
「ユーフェミア、俺らもああいうの、見習うべき?」
パトリックが揶揄うようにそう言ってきたので、私はデザートプレートの端に飾りで付いてきた飴細工の薔薇を、パトリックに「はい、あーん。」ってしてやった。
カチカチの飴細工を口にねじ込まれ、育ちのよいパトリックは吐き出す事も飲み込む事も、噛み砕く事すら出来ずに涙目になっていたが……非常にいいきみである。
……。
12歳のお子様になに本気でやり返してんだろ……?と、思わなくもないが、初恋の人(ダスティン様)がデレデレしてる姿なんて見たくなかったんだから、仕方ない!!!
これは心の正当防衛だからね?!