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体は子供だけど頭脳は大人なはず

「パトリック、実は私ね……。」


 そこまで言葉を紡ぐと急に怖くなって黙ってしまった。……信じてもらえないかも。頭がおかしいって思われるかも……。


 自分の手をギュッと握り、俯いてしまう。


「???……どうした?」


「……。」


「言いたいことあるなら言えよ……な?」


 パトリックは優しくそう言って、私が握りしめている手を持ち上げて、指をそれなりに強引に開いていく。……思いやりを感じる気もするが、無理矢理でちょっぴり痛いので、私は観念して手から力を抜いた。


「……あのね、さっきダスティン様に失恋したショックでね……実は私、前世を思い出したの!」


「はああああぁ?!」


 私がそう打ち明けると、パトリックはデカイ声を上げてから心配そうに私を見つめた。


「ユーフェミア、頭……大丈夫か?!」


「大丈夫よ!!!……そう言うと思ったから言いにくかったのよ!!!」


 思い切って打ち明けたのに、やっぱりというか正気を疑うような発言がきて、私はムッとなってそっぽを向いた。


「あ、ご、ごめん……。その……変な事を言い出したから心配で……つい。」


「……。」


 不意に、また涙が込み上げてきた。……唇を噛んで、自分の足に顔を埋める。いわゆる体育座り泣きだ。


「ごめん、ごめんてば、ユーフェミア。……ミア、ご機嫌なおして???」


 パトリックはそう言うといつものご機嫌取りモードに入った。昔から私が拗ねてこうなると、『ミア』呼びに変わるのは、パトリックのお決まりのパターンだ。


「……。」


「ミア、話をしよう?」


「……どーせ、信じないんでしょ?」


「信じるよ!だからさ、話して?……聞きたいなぁ、ミアの前世……。」


 ……。


 背中を撫でて貰ってるうちに、段々と頭が冷えてきた。……すぐに心が折れて、12歳のお子様にご機嫌取ってもらうって……私、かなりダメな大人では?!?!


 私は顔を上げて、ペシペシと自分の頬を叩き、気合を入れると、パトリックに向かい合った。


「パトリック、あのね、私……前世ではこことは別の世界の住人だったの。」


「へ……へぇ。……あのさ、まさか……ユーフェミア……『異界の剣士』だったとか?」


 パトリックに引き攣った笑顔でそう聞かれ、「ん?」となる。


『異界の剣士』とは私とパトリックが愛読しているファンタジー小説『無能勇者の魔剣無双』に出てくる、主人公の二つ名である。


 簡単に解説すると、異世界から勇者として召喚されたが、魔力もなく無能であるとされ放り出された主人公が、美少女に変身する魔剣を助けた事で、持ち主として選ばれ、どんどん強くなっていき、最終的には無双する……そんなストーリーだ。


 私たちは、先月発売されたばかりの最新刊を先週読み終えたばかりなのである。


「あのさ、パトリック……まさか私が小説に影響されてそんな事を言い出したとか思ってるって訳???」


「ん……。ちょっとな……。ミアは時々そういうの言い出すじゃん……。前に……ものもらいで眼帯してた時も、ニコラスさんにそれっぽい魔法陣を描いて貰って、封印された左目とかって騒いでたよな……。」


 !!!


 ……や、やりましたね……それ……。


「あと……何だっけ?ペットのインコに『死の伝説』って名付けたんだって、ニコラスさんが兄貴んとこ遊びに来た時に笑いながら話をしてたし……。ユーフェミア……そういうノリ……好きじゃん……。」


 あ、あ、あ……あ……。


「!!!……に、兄さま……ひ、酷いっ。わ、私の黒歴史を……ベラベラと……!」


「黒歴史ってさぁ……。先々月くらいの話だよな……?」


 ……。


 う、うわ。

 ヤ、ヤバい……私……。

 現在進行形で中二病ってヤツだったんだわ。確かにカッコいいと思ってやってました。昨日までは……。


「ち、違うの。アレは少し病んでて……。」


「病気だったのか?」


「病気ってか、思春期だから!だから、そういうのが格好良く思えてたの!」


「……多分、俺も思春期だけど……正直、痛いなと思ってた。」


 ……。

 ……。


 パトリックゥ……!!!


「パトリックだって、『無能勇者の魔剣無双』好きって言ってたじゃん!!!」


 思わず詰め寄る。


「物語としてはな!楽しいだろ、あれ!……『魔剣ちゃん』も可愛いくてエロいし!剣から人に戻るとハダカとか、ドキドキするだろ?!」


「はあああぁ?!『魔剣ちゃん』をエロい目でみるなぁ!あの子はねぇ、そんなんじゃないのーーー!」


「いやいやいや!それこそ、俺だって思春期なんだから、ちょっとはモヤっとくるだろ?!」


「……最低!」


「痛いよりマシだね!……言っとくけど、兄貴だってエロい事は考えてるからな!男なんて大人だってそんなモンだよ!……だけど『死の伝説』……それはない!」


「な、な、何ですって……?!カッコいい名前じゃん!レジェンドだよ?!死ってのがまた……!」


 ……そう叫んだ所でハッとなる。


 ま、またやってしまった。……12歳の少年相手になにやってんだろ、私……。


 大人だった頃の記憶が戻ったけれど、昨日までの私も消えた訳ではなくて、きっとせめぎ合っているんだわ……コレ…….。


 ……。


「……と、とにかく、話を戻すわよ!……私が取り戻した前世の記憶では、私は大人だったの!……その世界には魔剣もないし、勇者とかもいません。非常に地味な世界なのね?」


「え?そうなんだ……?」


「ええ、現実ってのは、そういうものなのよ!……えっとそれでね、確か私は、25歳とか26歳だったはず。学校を卒業して社会人として1人で暮らして、毎日必死で働いて暮らしていたの。それが……ある日、交通事故に遭って死んでしまって……。……そんな記憶が戻ってきたのよ!」


 そう語り終えるとパトリックは困惑気味な顔で私を見つめていた。


 とりあえず乙女ゲーム関連の話は出さなかった。……昨日までの私の中二病的な振る舞いのせいで、さらに信じてもらえなくなりそうだったので……。最低限の、中身は大人なんだよ!ってトコだけ話そうと思ったのだ。


「妄想にしてはリアルだな……?」


「妄想じゃない!ホントだもん!」


「……自分が死んだ記憶があるのか?」


「あると言えばあるけど、ないと言えばない。道路を渡ろうとしていたら車が突っ込んで来て……。『あっ!』って思って……それだけ。即死とか、そんな感じだったのかも。痛いとか怖いとかは、なかったかな……?」


 パトリックは私の頭をポンポンと叩くと、「ふーん。それは良かったかもな……。」とだけ言ってくれた。


 まあ、自分が死ぬ記憶をリアルに思い出してしまったらトラウマは確実だろうし、それはそうかも知れない。


「ああっ!!!だ、だからユーフェミアは伯爵家のお嬢様なのに、そんなガサツなのか……?!」


「え?」


「だってお前……前世は労働者階級だったんだろ?」


 ……い、言い方っ!!!

 確かにそうなんだけどさ!


「そうともいうけど、私のいた世界は階級とかはなかったし、それが普通だったの!!!それに、思い出したのはさっきだもん。ガサツは関係ないよ。」


「そのガサツさ……天然モノだったのか……。ひくな。」


 だからさ、言い方っ!!!


「うるさいなぁ!……てか、そんなガサツ???え、私って、そんな駄目???」


「駄目ってか……なんかさ、ユーフェミアは昔からお嬢様らしさが薄いんだよな……。まあ、気安いとも言えるけど。……ま、やっぱり、結婚は俺に決めて正解だな!下手にお上品な奴や家だと絶対に苦労したぞ?!」


 そうかなぁ……?……うーん、そうかも???


 あ!

 感心してる場合じゃないって、また話が逸れてるし!


 そうだよ、結婚!

 結婚するにあたって、この話をしたんだって!


「と、とにかく、パトリック。そういう訳だから。」


「ん???……どういう訳だ???」


「だから私っ、中身は大人よって事よ!……つ、つまり、パトリックの事はお子様にしか見えないって言いたい訳!……私の中身はね、26歳+12歳で精神年齢としては38歳って事なのよ!……そこは理解してもらいたいの。結婚はするけど、パトリックを男性として見れるかってのは微妙なとこね!」


 私がそう言うと、パトリックは首を傾げて考え込んだ後に、私に向かってヘンテコな笑顔を浮かべた。


「……それ、単純に足せるもんか?……それと前世の記憶ってのがあったら大人……なのか???」


「……へ???」









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