進捗報告会
アーサー様は次の日の朝……いやほぼ昼近くに帰ってきた。
夜遅くなるって言っていたけれど、まさか朝になるとは思わず、眠らないでアーサー様の帰りを待っていたパトリックは、とても眠そうな顔で帰っていった。
◇
「……で、ユウちゃん達はどうだったの?」
「え?」
なんだか少し気怠げなアーサー様にそう聞かれ、何のことだか分からずに聞き返すと、アーサー様は「もー!とぼけちゃって。昨晩はお楽しみでしたねって話だよ!パトリック君、相当眠そうだったよね?」とちょっとニヤついて言ってきた。
……なんだか、一緒にいればいるほどアーサー様に幻滅していくのは何故だろうか?
いや、嫌いになったって訳じゃないよ?でもさ、こんなセリフ……乙女ゲームのヒーローというより、スケベオヤジみたいでガッカリじゃない……?
「パトリックの寝不足は、アーサー様が帰ってくるのを待って、ずーっと起きていたからなんですよ?」
「……は?」
「パトリックはアーサー様と違って騎士ではないので、眠ってしまったら何かあってもすぐに動けないと言っていました。だから、寝ないで私の寝室の前のとこで、護衛としてずっと待機していたんです。」
私がパトリックが寝不足の理由を話すと、アーサー様は「うーーーん。」と唸った。
「……さ、さすがダスティン弟。真面目か……。じゃあ、ユウちゃん達は励んでいない?」
「……ま、まあ、そうなります。」
改めて聞かれると、恥ずかしいです。
「なーんだ。ユウちゃんが意気込んでいたから、僕さぁ、気を遣って今頃帰って来てあげたんだけど、そうだったのか……。」
あ。……そっか、アーサー様は気を遣って朝帰り(いや、そろそろ昼だけど。)をしてくれたのか……。
「……で、でもですね、私たちお互いに好きって告白し合って気持ちを確かめ合ったんです!」
精神的な部分では一緒になれたんですよ?!って気持ちを込め、力強くそう言うと、アーサー様は薄笑いを浮かべた。
「……知ってる。」
「えっ?!……ま、まさか盗聴してたんですか?!」
「違うよ。そんな事してません。……ユウちゃんとパトリック君が相思相愛なのなんか、みんな知ってたって言いたいの。子供の頃からいつも2人で一緒にいて、ずーっと仲良くくっ付いてたもん、そんなの分かりきってますって話だよ。」
……。
……。
「……え?」
何言ってんの?って顔でアーサー様を見つめると、アーサー様も同じ顔で私を見ていた。
「……『え?』じゃないよ。今回の僕と婚約する話だって、ユウちゃんの安全の為だから仕方なくで……みんなすごく辛いって言ってたんだよ?……『小さな頃からツガイみたいに一緒にいた、相思相愛の2人を引き裂く事になるなんて、可哀想すぎる……。』って、君たちのご両親やダスティンもショックを受けてたし、アンジェリカとニコラスなんて、号泣モノだったよ?」
「……。」
なんというか、言葉が見つからない。
私たちがやっと気付いて、昨日やっと確認し合えた事なのに……なんで周りが既に気付いていたのだろうか……?
「でもまあ……良かったね?」
アーサー様ににこやかにそう言われ、私はコクコクと頷いた。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、どういたしまして。……そっかー、そうだよなー。16歳って成人してるけどさぁ、やっぱりまだまだ子供だもんねぇ……甘酸っぱーい感じが、いいよねぇ。」
可愛いものを見るような目でアーサー様にそう言われ……私はなんだか少しムッとしてしまう。
確かにパトリックはただの16歳ですが、私は中身が大人なんで、そんなお子様カップルを見るような目でこちらを見ないで欲しいのですが?!(アーサー様は私が前世持ちなの知らないけどさ!)
「いやいや、そんな事ないですよ?!……なんとですね、私たちキスしちゃいました!しかもね、とっても大人なヤツです!」
私たちだって大人なお付き合いしてるんですよ(いや正確には結婚してるんだけどさ。)ってのが言いたくて、アーサー様にドヤってみせる。
どうですか、甘酸っぱいだけじゃないんですよ?!
「……う、うわ……。か、可愛い……。僕、そのピュアピュア感に悶え死にそう……。」
「は、はぁ?!……可愛くないですよ?!大人、大人なキスしたんです!……子供はしないですよね?!」
そう詰め寄ると、アーサー様は私の頭をヨシヨシと撫でた。
「ああしない、しないね。……君たちは大人だね!……ほんと頑張ったし、良かった!おめでとう!!!」
「な、なんか……馬鹿にしてます?!……それに、なんとかして次はちゃんと、兄さまに言われたように……!」
「もー!馬鹿になんてしてないよ。……僕が言うのもなんだけど、ユウちゃんたちには、ニコラスの言う事なんか間に受けないで、お互いを大切にしながら進んで行って欲しいって、僕は思うよ。……色々あるけど……そういうのはやっぱ大人に任せてさ……?」
アーサー様はそう言うと、優しく目を細めた。
「で、でも……アーサー様、予言を確実に回避するには……。」
「……ユウちゃん、大丈夫。予言はきっと回避できる。ユウちゃんもアンジェリカも無事に半年後も笑っていられるよ。……色々あってパトリック君やユウちゃんを振り回してしまったけれど、本来は大人である僕たちが頑張るべき事なんだ。だからさ、まかせて。……僕とルシアに。」
「……………………へっ?」
私は思わず間抜けな声が出た。
「昨日はさ、ルシアに会ってきたんだ。ほら僕……婚約を申し込んだし、顔あわせでね?……彼女って、前世があって『乙女ゲーム』の記憶を持っているだろ?だからさ、16歳だけど中身はだいぶ大人なんじゃ?って思って、いつもみたいな感じで口説いてみたんだよね?……そしたらさ……ビンゴ!……なんやかんやあって、朝まで過ごして来ちゃったよ。どうやら僕たち、そっちの相性はバッチリみたくて。……あー、くそー……腰……痛い……。」
驚愕の表情でアーサー様を見つめる。
え、え、え、この人、今……何て言いました?
『そっちの相性バッチリ』……って、どっち?
『腰痛い』……って、なんで???
いや、いや、いや、分かります、分かってますよ意味なんて。だって私だって中身は大人なんですからね?!
……てか、アーサー様ってば、私とパトリックに気を遣って朝帰り(だからほぼ昼)してくれたのではなく、ご自分がお楽しみだったって事ですか?!
いやいや、それもそうじゃなくって!!!
「……ま、待ってください。だってアーサー様とルシアさんは昨日が初対面ですよね?」
まあ、ルシアさんは転生者らしいから、アーサー様の事は知っていたみたいだけれど。
「んー?まあね?……でも、そういうの関係なくない?……いきなり婚約もなんだろうし『良かったら僕の事、試してみる?』ってルームキーを見せたら『満足させて下さるの?』って言うからさぁ、そんなの……満足させてみるしかないでしょ?」
「?!?!……で、でも、ルシアさんはパトリックが好きだったんじゃ……???」
「うーん……。でも、今はもう僕に夢中だと思うよ?まあ、僕もだけど。……それに、前世の乙女ゲームでは、世代が違うから諦めてたけど、僕の方が推し?とかいうのだったらしいし。」
えええっ……。
そ、そうなの?!?!
まあ……『聖女と約束の騎士』が良かったからこそ続編は作られた訳だろうし……一番好きなキャラが無印……ってのはあるかもだけど……。
「あとさ……ルシアって、中身は大人じゃん?だから、パトリック君と付き合いはじめたものの、あまりにも健全すぎて、ちょっと物足りないってか……正直、欲求不満気味だったんだって。……やっぱり大人になっちゃうと、お子様なお付き合いって、ちょっと退屈しちゃうよね……?」
はぁ?!
……いやいや、パトリックは退屈ではありませんよ?充分に刺激的ですから!!!
異論を唱えようとアーサー様を睨むと、またしてもヨシヨシと頭を撫でられた。
「まあまあ。ユウちゃん達はお似合いなんだから、それで良いじゃん。……それにルシアはね、僕だけの聖女になってくれるって言うんだよ。ちょっと僕、ウルッときちゃった。……なんかコレ、万事解決じゃない?」
アーサー様は笑いながらそう言うと、腰をトントンと叩いてから、ソファーに気怠げに座りなおした。
……。
『僕だけの聖女になって欲しい。』はアーサー様エンドでアーサー様が口にするプロポーズの言葉だ。
だけど、このセリフが出たらバッドエンド。
アーサー様からこのセリフが出るときは、加護やスキルがもうひとりの聖女に負けており、正式な聖女にはなれず、プロポーズはされたものの、結局、聖女は田舎に帰る事になる。アーサー様との思い出を胸に……。
つまり、ルシアさんはアーサー様エンド(正式な聖女にはなれなかった、バッドエンド。)にたどり着いたのではないだろうか?……アーサー様と婚約はするみたいだから、ひとり寂しく田舎に帰るって訳ではないだろうけれど……。
確かにこうなってしまえば、ストーリーは新旧ヒーローが入り乱れて、もはやメチャクチャだ。
それに旧ヒーローと婚約して関係まで持ってしまったら……さすがに全年齢対象の乙女ゲームのヒロインってのは、無理があるだろう……。
つまり、アンジェリカ様は安泰だし、私も死なないで済みそうだけど……何も言葉が出てこない。
困った顔で、真っ赤になっていると、朝帰りの気怠さからか、色気ダダ漏れの笑顔をアーサー様に向けられ……私はササッと目を逸らして、課題を始めた。
……なんか、アーサー様の笑顔、怖っ……!
私……お子様パトリックがお相手で良かったかも?
いや……やっぱり私はお子様だったかも……???
無理だわ私、こんな大人な関係の始め方……。
……そんな事を思いながら。
次回、最終回になります!
どうか最後までお付き合い下さい。




