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キスと夫婦の共同作業

 部屋に戻り、並んでソファーに座る。


 ちなみに、部屋って言っても寝室ではない。


 さっき勉強していたリビングみたいな部屋の方だ。


 アーサー様と普段過ごしているのも、この部屋だ。

 アーサー様は紳士なので、私の寝室にはほぼ入ってくる事はない。……閉じ込めるだけで。


 ちなみに、私の寝室の正面がアーサー様の私室なのだが、入った事はない。チラッと見た事はあるけれど、『散らかってるから見ないでよね(笑)』って言われたし、何より……それ以上にもう見たくなかった。


 だって……なんか……雑然としてたんだもん。


 アーサー様は一応は、大好きな乙女ゲームのヒーローだった。(過去形ごめん!)


 だからね、散らかり気味の部屋なんか見たくないし、ましてやエッチな本やら、筋トレマシーン……プロテインなんかが置かれていたら……勝手にガッカリしちゃうじゃない???……いや、あるかどうかはわからないけど。

 でも、色褪せた、ちょっとセクシーな女性のポスターが張ってあるのがチラッと見えたし、ダンベルが転がってた。


 そういう諸々の下世話でリアルな感じ……なんか見たくないじゃん?


 いやいや、普通の男性の部屋にある分には、別にガッカリはしないよ?(いや、あまりにマニアックなエロい本とかあったらドン引くけどさ。)


 でも、それは普通の男の人だからで、乙女ゲームなヒーロー様は普通じゃダメだと思うの!


 キラキラした王子様キャラは、生活感あふれる部屋(古い張りっぱなしのポスターがあるとか!)で、地道にプロテイン飲んで筋トレしたり、えっちな本を読んだりはしてないってテイでお願いしたいんです。


 綺麗な部屋で、優雅にお茶を飲んで花でも愛でていて欲しい……的な。

 腹筋は普通に暮らしてて割れちゃうし、全然エロい事なんて考えていないのに、いざとなったら凄いんです……的なね?……まあ、勝手な乙女の妄想だけど。


 でも、だからこその乙女ゲームなんじゃないかとも思うわけですよ!……乙女が妄想を詰め込んで、何が悪い?!?!


 ……。


 えー……。


 ……なんて事を考えられる余裕が生まれるほどの長い間、私とパトリックはソファーに無言で座っている。


「……。」


「……。」


「……。」


「……。」


 ……パトリック、なんか言ってよ?


 恐る恐るパトリックを見つめるとパトリックも同じようにビクビクした感じに私を窺っていた。


 そして、目が合うと慌てて逸らされた。


 なんかちょっとイラッとくるんですが?!……乙女かよ!


「……リック、リードしてよ。」


 業を煮やして切り出した。


「……はぁ?!……ミアがするんじゃないのか?」


 心底驚いたように言われ、いやいやこっちが驚くわ……ってなる。


「ええっ、何でっ?!普通、こういうのは男の子がリードしてくれるもんじゃないの?」


「それはそうかもだけど……。でも、ミアは大人なんだろ?俺、そういうのよく分からないし……。だから、ミアがリードしてくれたらいいと思うんだ。情けなくてごめんな。でも、ミアは色々と前世とやらで経験があるんだろ?なんか比べられるのも嫌だけど……でも、教えてくれたら俺、頑張るから!……その……拙いの、笑わないで欲しいなって……。」


 複雑な顔でそう言われ、私は固まった。


 散々、パトリックに大人ぶってきたツケが回ってきてしまいましたよ、これ……。


 私……パトリックにご指導できるようなご経験など……ありませんが?!?!


「あ、あ、あ、……あの。」


「ん?……どうすればいい?」


 目を輝かせて、こっち見ないでぇーーー!


「パトリック……実は私……キスの経験が……ないの。」


「……え?………………えっと……今世の話はしてないぞ?……そんな、気を遣うなよ。」


 パトリックはちょっと傷ついたみたいに笑った。

 いやいやいや、気なんか遣ってません!真実ですから!


「ち、違うよ。そうじゃなくて……前世でも、その……私、男性とお付き合いした事がなくて……ね……?」


 耐えかねた私は、恐る恐る切り出した。


「……はぁ?!嘘だろ?!大人のデート知ってるって言ってたよな?!そんなデートしたなら、お相手がいたんだろ?」


「え……えっと……見栄、張ったの……かな……?」


「何で疑問系なんだよ。自分の事だろ?」


 ムッとしたように言われ、カッとなって言い返す。


「見栄を!!!張りました!!!……大人だったのに、碌にデートもした事なかったから、なんか……恥ずかしくって……。」


「……なんだよそれ。つまり……お前、モテなかったのか……?」


 パトリックがクスクスと笑い出す。


 酷いっ!……笑わないでよね?!


「だーかーらー!……別にね、前世の私も、すんごく性格が悪かったとか、ものすごいブスだったとか、そういう訳じゃないんだよ?!たまたま……出会いってか、機会がなかっただけでね……?」


「あははは……そっかぁ……。……それにしても前世の奴らは、随分と見る目なかったんだな。」


「うん、そう!絶対にそう!」


 そう言って顔をあげると、パトリックの笑顔が間近にあった。


「……良かったな、今世には見る目がある俺がいて。」


「……うん、そうかも知れない。」


 ……。


 パトリックの手が私の髪に優しく触れる。


「俺……ミアが好きだ。……いつからかなんて分からないけど、多分……ずっと前から好きだったんだと思う。……俺は、これまでもこれからもミアは俺の隣にいるもんだって思っていたし、それが当たり前だと思っていた……。」


「リック……。」


「ミアが死ぬかもって聞いて、アーサー様にミアを託して……。それがいいって頭では分かっていたのに、すごく辛かったし、苦しかった。ルシアとの事も……。それで、俺はミアが好きだったんだな……って、気付いた。……だから、こうして、またいられる事がすごく嬉しい。……俺、お前の事が好きなんだ。一緒にいて楽だとか、家族みたいなもんだからとかじゃなく、ちゃんと女性として。」


「わ、私もね、パトリックの事が好き!……子供とか言っちゃったけどね、今はちゃんと男性として見てる。私、パトリックの事が好……」


 そこまで口にしたけれど、その先の言葉はパトリックからの噛み付くような口付けに……呑み込まれてしまった。




 ◇




 キスと、溺れるのは似ていると思う。

 トプンと落ちてそのまま沈んでいくみたいで、少し息苦しくて……。


 包まれて……溺れて……ボンヤリして落ちていく……。


 ほう……とウットリした息を吐きながら、目を開けると私と同じように溺れていたパトリックと目が合った。


 パトリックはゆっくりと私の顔を撫でると……次に何故か自分の顔に手を当てて……そして、自分の顔をパンッと叩いた。


「よしっ!!!やるぞ!!!」


「え、ええっ?!」


 気合を入れたらしきパトリックはガバッと立ち上がる。


 やるって?!……そ、そんな気合い入れられても。


 さっきのあのムードのまんまの方が良くないかな?……だって、やるって……ヤルんだよね?!


「俺、頑張るな!!!」


 パトリックは、ニカッと爽やかな顔で笑う。


「う。うん。私も頑張る……ね?」


 ええっと……なんでお互い頑張る宣言し合っているんだろ?ムードないし、めっちゃ恥ずかしいのですが……。


 でもまあ……頑張るっ!!!

 よっしゃ、励むぞっ!!!


 私も勢いよく立ち上がった。


「俺、頑張って首席で卒業して、外交官になって……ミアを絶対に幸せにするぞ!」


「え。……そっち。」


 思わずガクッとコケそうになった。


「そっちって、どっちだ?」


「いやいや、こっちの話。」


 ……やばいな。

 やりたい盛りの16歳は、やっぱり私で確定だわ。


「ふーん、まあいいや。……ミアも外国語、頑張って欲しい。……海外に赴任する事になったら、必要になるだろうし。」


「……う、うん。」


「ここは静かで環境も良いし、勉強も捗るから……一緒に頑張っていこう!……これは未来に向かっての、夫婦の共同作業と思わないか?!」


 パトリックはキラキラとした目で未来を語る。


 ……。


「エエ、ソウオモイマス。」


「ん?……なんかノリ、悪くないか?」


「悪くないよ。……頑張りまーす!」


 私もそう言うと机に向かいテキストを開いた。パトリックもテキストを開いて集中を向け始める。


 でも、その前に……。

 ひとつだけ苦情を入れておこうか。


「ねえ、リック……私、結婚したのにリックにプロポーズされてない!」


 私がそう言うと、パトリックはテキストから顔を上げて……。


「ん?……俺、子供の頃に精霊の泉でミアにプロポーズしているだろ?」


 サラッとそう言うと、設問に戻っていってしまった。


 ……。


 私は、少し……いや、かなり不満だったけど……。


 精霊の泉でのプロポーズは、水の聖騎士とのハッピーエンドに欠かせない条件だった。


 もしかして私は……パトリックとのハッピーエンドに……最初からたどり着いていた???


 うーん……???


 ……ま、いっか。


 私は気を取り直し、テキストに向き合う事にした。


 2人の未来の為に!!!







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― 新着の感想 ―
[良い点] ・・・ 偉い人が言いました ・・・ 『どうしても、精神は肉体年齢に強い影響を受ける』 と ・・・ ですから、ユーフェミアさん ・・・ 貴女がエロエロ星人 (爆笑!) という訳では あり…
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