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花嫁修行とは???

「あの……。これが花嫁修行なんですか?」


 私は思わずアーサー様に尋ねた。


「そうだよ。じゃあ今日の分、はじめるよ。」


 アーサー様はサラッとそう言うと、算術のテキストを開いた。


「これ、学校でやってるお勉強ですよね?」


「僕のお嫁さんが学校も卒業してないってのは、困るからね?通信で学ぶのも限界があるだろうし、だからこうして僕が見てあげてるんだろ?」


「……なら、学校に行かせて下さい!」


 王弟であるアーサー様の棲家とやらは、なんと王宮にある離れだった。


 そして、ここに連れてこられて、はや2週間。


 まさか私が自ら学校に行きたいと言い出すようになるなんて……ね。


 本来なら、冬休みは終わって学校に戻る時期なのに、花嫁修行があるからという理由で、特別に通信教育に切り替えてもらったとか言われて、現在も私はここにいる。


 だけど、肝心の花嫁修行なんて……何もしていない。


 唯一それっぽかったのは、お医者さんが来てやたら詳しく健康診断をしたくらい。まあ、病気のお嫁さんは困るってのは分かるからね……?


 でも……それ以外は、毎日こうしてアーサー様が、学校が送ってきたテキストを使って、私に勉強を教えてくれているというだけなのだ。


 ……それなら、学校に行くのと何が違うのだろう???


 マリアンと会いたい!

 クロッケーしたい!


 もう嫌だっ!!!飽きたっ!!!


「だからさぁ、……学校に行ったら花嫁修行できないでしょ?」


「でも、花嫁修行って……勉強しかしてませんよね?!」


「もー!……僕のお嫁さんが学校も卒業してないってのは困るって言ってるでしょう?……ユウちゃん、あんまりゴネないの。」


 しょうがないなぁ……とばかりに、アーサー様が溜息を吐いた。


 溜息を吐きたいのは……こっちだよ!


 ……。


 あれから一度も家にも帰れていない。


 アーサー様はたまに出かけているけれど、私はずーーーっとこの離れから出してもらえないのだ。しかも、アーサー様が出かける時は、寝室のある部屋に、私を閉じ込めてから出かける。


 寝室ってのは、私が最初に目を覚ました巨大なベッドとソファーセットしかない、だだっ広い殺風景な部屋に、バス・トイレが付いている部屋だ。


 なんと寝室の窓は、分厚いガラスがはめ殺しになっていて、蔦の様なデザインで誤魔化されてはいるものの、鉄格子がはめられている。


 ……。


 夜も、夕食を食べ終えたら、その部屋に一人閉じ込められて、朝になるまで出してもらえない。(夜中に起きて確認したが、かたく閉ざされたドアはどんなに頑張っても開かなかった。)


 そして寝室のドアの鍵は多分、アーサー様しか持っていない。


 何故ならドアを閉めるのも開けるのもアーサー様だけで……アーサー様がいない時は、使用人すら、あの部屋には入れないようになっているみたいだ。

 アーサー様がいない時は、食事は前もってお弁当を手渡され、ご機嫌取りにお菓子(私の好きな老舗洋菓子店のもの。)が大量に配備される。


 アーサー様が一緒に居る時は、寝室の外に出してもらえるけれど、それは離れの中だけだし、ずーっとアーサー様が付いて回っている……。


「……ユウちゃん、もしかして、ちょっとストレスたまってる?」


「それは……まあ。」


「じゃあ、午後から少しだけ中庭に出ようか。」


「は、はい……。」


 本当に、なんでこんな事になっているんだろう???


 ……監禁ってやつ……だよね、これ?


 監禁といえば、マリアンが大好きだった恋愛小説に出てくるヤンデレなんだけれど、どう見てもアーサー様は病んでるようには見えない。まして、私に執着して、熱心な愛を注いでいるって訳でもない……。


 うーん?


 そうすると、やっぱり、何か特別な理由があるんだよね?


 私に甘い両親や、兄さまだって納得してるっぽいし(会って話してはいないけれど、こんな異常な事を黙認しているんだから、そういう事だよね?)……私の為でもあるのかも?


 でもさぁ、そろそろ理由くらい教えて欲しい。さすがに何も知らないでこうしてるの……限界だよ?!


「あのー……。アーサー様は聖騎士様なのに、どうしてほとんど家にいるんですか?アンジェリカ様をお守りするために、兄さまは毎日、神殿まで通勤してましたよ?……アーサー様は、行かなくて大丈夫なんですか?」


「……色々と事情があってね、大丈夫なんだよ。……それに、心配いらない。僕が居なくても、ダスティンもトリスタンも、かなり腕が立つからね?……ニコラスは微妙だけど、逃げ足だけは早いし、彼は勘と運だけはメチャメチャ良いから……何かあればダスティンとトリスタンを盾にして、聖女様を安全な場所まで逃がせるだろうしさ。」


 アーサー様は、あははっと笑う。


 てか……兄さまって、弱いんだ。

 いや……なんとなく……分かってたけど……。


 ダスティン様も、アーサー様も、トリスタン様も……ムキムキなマッチョって訳ではないけれど、姿勢も良いし鍛えてそうにしか見えない。……だけど、兄さまだけは……なんというか猫背気味で、ヒョロっこいんだよね?(鍛えてる人ってさ、普通、姿勢いいよね?!ピシッとして体に芯がある感じしない?)


 兄さまは細マッチョだと自称しているけれど……やっぱりアレ……自称だな。兄さまのハダカなんか見たくないから、確認する気はないけど……。

 あ……ケイティさんに聞いてみるって手もあるか……。


 ……って、そうじゃないよ!!! 

 兄さまの筋肉事情なんか、どーでもいいんだって!!!


「……アーサー様、そろそろ理由を教えてください!……何でこんな事をしているんですか?!」


「だからさ、ユウちゃんには僕の立派なお嫁さんになってもらう為に、花嫁修行をね……?」


 ……あああっ!なんかもう、イライラしてきた!!!


 こうやってアーサー様は、当事者(ある意味被害者!)である私を、ケムに巻き続ける気なんですかっ!!!

 ちゃんと話してくれれば、私だって協力するのはやぶさかじゃない。きっと私の為でもあるんだろうし!

 でも、下手に隠されるから不安になるし、不審に思うし、逃げ出したいって思っちゃうんですが!!!


「私はっ!!!理由を言って下さいって!!!いってるんですがっ!!!いいかげんにしてっ!!!ヘラヘラしてないで、訳を話せって言ってるのっ!!!」


 テーブルをバンッと叩き付け、アーサー様を思いっきり睨み付けた。


「……ユウ……ちゃん?」


 アーサー様は、それでなくともデカイ目玉を、こぼれ落ちんばかりに見開いて私を見つめている。


 あ。……し、しまった。


 パトリックには、いつもこのくらいの勢いで、睨んだり怒鳴ったりしてたから、つい……やってしまっ……た。


 アーサー様にそんな事はしちゃ……ダメなんだ。


 パトリックが昔に言ってた『ユーフェミアはがさつだからお上品な奴や家に嫁いだら苦労する』……そんなセリフが頭の中でリフレインした。


「す、すみません。……わ、私……取り乱して……。」


 ……。


 そう言って、慌てて謝ったところで、ウッと涙が込み上げてきてしまった。


 ……そうだよ。


 私……もう、パトリックが婚約者じゃなくて、アーサー様が婚約者になったんだよ……。だから、お上品にしなきゃ。


 それは、この意味不明な監禁が終わっても、きっと変わらない……。


 そして、パトリックと私はもう他人で、個人的には、もう会う事もない。夜会なんかで、見かけたりはするかもだけど……。


 きっとパトリックはルシアさんと婚約し、結婚するんだろう……。


 ……いいな。

 ルシアさん……。


 ……。


 そう、思った所で……私は自分にとってパトリックがどれほどかけがえのない人だったのかに、気づいてしまった。


 子供だって、ずーっと馬鹿にしてきたし(やり込められる事も多かったけど。)、ルシアさんと付き合っていると聞いた時も、大人だからって割り切ろうとした。


 だけど……。


 こうなるなら、せめてあの時、ゴネて泣き喚いてやれば良かった。浮気だ、ふざけんな!って大騒ぎしたら良かった。


 ……パトリックが好きなんだって、言ってやれば良かった。


 大人とか子供とか、関係なかった。

 パトリックはずっとパトリックだった……。


 私……馬鹿だ……。


 自分の気持ちに気付くと、もう涙は止まらなくて……気がつくと、私は嗚咽を漏らしていた……。


 ……。


「……ご、ごめんね、ユウちゃん!泣かないで。とにかく落ち着こう?……その、理由も分からず閉じ込められたの、すごく辛かったよね?分かるよ。……でも、ユウちゃんはメンタルがたくましいから、このくらい平気だって、余計な事は知らない方が良いって、ニコラスから言われて……。ごめん、話す、話すからそんな泣かないで……。」


 焦ったようにアーサー様にそう言われ……『いや、監禁されたのが辛くて泣いたんじゃないです。』とか、『兄さまふざけんな!何、アーサー様に言ってんのよ!』とか、色々と思う所はあったが……。


 せっかくアーサー様が話す気になったようなので、私は涙で濡れた顔のまま、コクンと頷いた。


 ……。


 すると、アーサー様はひと呼吸入れてから、こう言った。


「……実はね、この世界は『乙女ゲーム』とかってのを舞台にした世界……らしいんだ。」


 ……え?





 

 


【ハミ出し設定】


●聖騎士たちをRPG風に言うなれば……


火の聖騎士アーサー

物理攻撃が得意な、いわゆる戦士役や勇者っぽいタイプ


水の聖騎士ダスティン

特殊攻撃が得意な、知将役や魔法騎士っぽいタイプ


土の聖騎士トリスタン

防御力や体力が高く、盾役だったりモンクっぽいタイプ


風の聖騎士ニコラス

魅力や運、すばやさが高い、踊り子とかシーフなタイプ


 ※精霊の加護はありますが、魔法はない世界です!

  あくまで例えです。魔物もいません!




●この世界では、生まれた時にどの加護が付くかによって、ちょっとした特典があると信じられています。

(聖騎士の家系は固定ですが、それ以外の人は生まれた時にいずれかの精霊がやってきて祝福をくれます。)


火の加護持ち:体が丈夫に育つ

水の加護持ち:頭が良い子に育つ

土の加護持ち:優しい性格に育つ

風の加護持ち:可愛いらしく育つ


血液型占い程度ですが、どの精霊に祝福されたかは、飲み会などで、ちょっとしたネタになります。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 前提がひっくり返りました。 ユーフェミア以外の転生者が存在し 暗躍しているのなら、話が全然変わってきます。 ・・・ 面白くなって来ました ・・・ [気になる点] 間違ってたら、ごめんなさ…
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