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修羅場でしょうか?

 パトリックと話し合う事を決めた私は、少しだけ気持ちが軽くなった。


 そのおかげか、アーサー様と過ごす聖夜祭は思いのほか楽しくて……時間はあっという間に過ぎた。

 まあ、アーサー様はけっこう遊んでいるっぽいので、女の子の扱いが上手いってのもあるかも知れないけど。


「そろそろホテルに戻ろうか。約束の時間だ。」


「はい。……上手くいってますかね、あの2人?」


「どうだろう?……だといいけど。」


 ホテルまでの混雑する道を並んで歩いていくと、ヒラリと雪が落ちてきた。


「あっ、雪ですよ!アーサー様!」


「本当だね。どおりで寒いと思った。……急ごうか、ユウちゃん。鼻先が真っ赤になってるよ?寒すぎたんじゃない、それ?」


「え、ええっ?!」


 慌てて鼻先を押さえると、アーサー様がクスクスと笑う。


「温めてあげようか?」


「鼻先をですか?」


「そう。」


 アーサー様はそう言うと、私の鼻先を押さえている手に……唇を寄せた。


「……!!!」


 な、な、なに?!?!


 真っ赤になって、アーサー様をもう片方の手でグッと押してその顔を離すと、アーサー様が悪戯っぽく笑う。


「なんだよ。せっかくだから、ブーッて吹き付けて温めてあげようと思ったのに。」


「はぁ?!……や、やめて下さい!ふ、吹き付けるって、赤ちゃんじゃないんですよ?!」


 吹き付けるって、アレだよね?

 赤ちゃんのお腹とかにブーッって息を吹き付けて、ケタケタ笑わせる……そんなヤツだよね?


「だってさ、ニコラスは寒いとき、『アーサー!腹のあたりにブーッて吹き付けてくれないか。火の加護持ちにやってもらうと、火の精霊が少しの間くっついててくれるんだよ。すっごくあったかいんだよね?』……なーんて言うから、僕さ良くやってあげていたんだ。妹だし、ユウちゃんも喜ぶかなーって思ったんだけど……?」


 アーサー様はしれっと答えてますが、女の子にやったらマズイって、ちゃーんと知ってますよね?


 し、しかも鼻先!……あ、お腹もダメか。


 そもそも、面白がってやってるって顔してますけど?!


 ……てか……。

 そんな事より……。


 兄さま!!!……な、なにやってんの?!?!


 かなりマイペースでチャッカリで変わってるとは思ってたけど、アーサー様にカイロ代わりにお腹に吹き付けてもらってただなんて……!!!


「ちなみに、ニコラスは、夏はダスティンに首筋あたりに吹き付けさせてるぞ?『お前がやってくれると、水の精霊のおかけでヒンヤリなんだよね!』なんて言って……。」


 ……な、な、な、なにそれっ!!!

 羨ましすぎるんですけど!!!


 私の憧れのダスティン様に何させんのよーーーっ!!!


 ……。


「兄さま……ズルいっ……。」


「……うん、ニコラスはズルいんだ。あいつってばチャッカリで、運が良くて、気が付くといつも良いポジションにいるんだよね?聖騎士として働いている時もそんな感じなんだよ?……トリスタンが羨ましがるような可愛いお嫁さんもいつの間にかゲットしちゃうし。だけどまあ……そこがニコラスのイイとこだと、僕は思うけど。」


「そうですかねぇ……。兄さまの良さは私には分かりません。」


「あはは、そっか。まあ異性の兄妹とかって、そういうもんかもね!僕も姉には睨まれてばっかだし。……さ、そろそろホテルだ。早く中であったまろう。」


 アーサー様がそう言って私の手を引いて、ホテルに入っていくと……不意にグッと肩を引き寄せられた。


「うわっ!」


 アーサー様と繋いだ手が離れ、バランスを崩すと、肩を掴んだらしき人にぽすんと抱きとめられた。


 な、なに……?!


 驚いて振り返ると……。


「え……??!パトリック……?」


 そこにはドス黒いオーラを身に纏い、怒りの形相で私を睨みつけるパトリックと、そんなパトリックをオロオロと見つめるルシアさんが立っていた……。


「ユーフェミア、こんな所でアーサー様となにしてるんだ!」


「え、えっと……。一緒に聖夜祭に行ってきたの。それでこれから、このホテルで……。」


 私が途中まで言いかけた所で、パトリックは私を手放すと、ツカツカとアーサー様に詰め寄った。


「アーサー様!!!ユーフェミアをホテルに連れ込むとはどういうつもりなんですか?!……俺は、お前らから頼まれて……フガッ!!!」


 アーサー様はニコッと笑ったと思うと、話し途中のパトリックの口をふさいだ。


「ごめーん。ユーフェミアちゃん!……僕、パトリック君を誤解させちゃったみたいだから、ちょっと説明するのに連れてくね?!やっぱりさ、親が決めた婚約者とはいえ、婚約者が他の男にホテルに連れ込まれそうになってたら、イラッとはくるよねー?!……ってな訳で、まったねー!」


 口早にそう言うと、アーサー様はパトリックを引きずるようにしてホテルから出て行ってしまった。


 さすが聖騎士……あのドデカくなったパトリックを軽々と連れ去ってしまいました……。


 ……って、そういう話じゃないよ……ね。


 誤解だけど、婚約者が他の異性とホテルに入ってくのを目撃したら、嫌な気持ちになるよね……。

 私的にはここはマリアンの家って気分だったけど、もっと考えて行動すべきだったかな……。パトリックには恋人が居るんだから文句言えなくない?!って気持ちもない訳じゃないけど、貴族の女性は結婚して子供を産むまでは貞淑である事を求められてるフシもあるし……。


 ……。

 ……。


 そんな事を考えていると、ホテルのロビーに、ルシアさんが残されている事に気付いた。


 ……ど、どうしよう。

 なにか声……かけるべきかな……?


 それとも黙って、マリアン達がいるレストランに行っちゃおうかな?


 私がどうすべきか悩んでいると、パトリック達が出て行った方を眺めていたルシアさんが、ポツリ……と呟いた。


「アーサー様……やっぱり……素敵。……メチャクチャ格好いいわ……。」


 そして、ほうっと頬を染める。


 ?!?!


 ……え、ええっ?!?!


 た、確かに、アーサー様は乙女ゲームの攻略対象者なだけあって、とてもハンサムだよ?見惚れる気持ちも(イケメン好きとしては。)少しは理解できる。


 だけどさ、パトリックとさっきまで一緒にいて、居なくなったとたん、それはなくない?!

 こう言っちゃなんだけど、パトリックだって、かなり格好良いと私は思うよ?!


 そ、それに……同じ学校ならアーサー様とは違って、パトリックの内面の良い所だって沢山知ってるハズだよね?!だから付き合っているんでしょ?!

 パトリックの……優しいとことか、子供のくせにやたらと落ち着いていて思慮深いところとか、だけど冗談には乗ってくれるノリのいい所とか、末っ子のくせに何かと面倒見がいいとことか!!!……他にもたっくさん!!!


 いくらアーサー様が美貌の聖騎士様だからって、簡単に気持ちを傾けないでよ。

 そんな……好きでたまらないって目で見つめないでよ……!!!


 だいたい、私に物申してまで一緒に過ごしたかった聖夜祭でしょ?!……連れてかれたパトリックを心配したり、惜しみなさいよっ!!!


 私はさ、パトリックと聖夜祭に行けないの、すっごく悲しかったんだよ?!


 大好きだった乙女ゲームのヒーローだったアーサー様やトリスタン様といても、まるで世界がモノクロになったみたいだった……。


 な、なのに……!


 ルシアさんのたった一言で気分を悪くした私は、彼女に声をかけるのを止め、マリアンたちの居るレストランに向かう事にした。 


 すると、ちょうどロビーの奥にある階段からトリスタン様がタタタッと降りて来た。


「ああ、ユーフェミアさん!……遅いから心配で見に来たんですよ。……あれ、アーサーは?」


「そ、それが……。」


 説明しようとすると、ルシアさんがこちらを見ている事に気付いた。


 ルシアさんは蕩けるような表情で……トリスタン様を見つめている。


 はああああっ?!

 アーサー様の次はトリスタン様?!


 な、なんかさ、節操なさすぎじゃない?!

 まあ確かにトリスタン様は乙女ゲームの……(以下略)でハンサムだけど……!


 ルシアさんの視線に気付いたトリスタン様は、軽く目礼をしてから(さすが聖騎士様とでも言うべきなのかな?ファンサの神対応……。でも、今の私には、それすらなんだか面白くなかった。だって、ルシアさんは目を輝かせ、さらにトリスタン様をうっとりと見つめたんだもの!)私をエスコートして歩き出す。


「マリアンさんが待っています。アーサーはともかく、早くレストランに行きましょう?……どうせ彼は野暮用なのでしょう。」


「あ、あの……。」


「マリアンさんとユーフェミアさんをお帰しする時間も迫ってます。レストランも時間で料理を準備しているのですから、遅れてはなりません。……さぁ、食事にしましょう。」


 トリスタン様はそう言うと、レストランへとそそくさと私を連れて向かった。








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