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結果報告会

 社交界デビューも無事に終わり、ちょっとのんびりすると、あっと言う間に夏休みは終わってしまった。


 またしても、最終日ギリギリの、学園行きの列車に乗り込むと、溜息が止まらなくなる。


 学校生活に慣れたとはいえ、休みが終わるのはやっぱり切ないのだ。


「ユーフェミア、やっぱり居た!」


 声をかけられて顔を上げると、そこにはやっぱりマリアンが居た。


「マリアン……!」


 荷物を寄せて席を作ると、マリアンはニコニコと座って来た。


「ユーフェミアの溜息、車両の端まで聞こえたよ。」


「え、そんなデカかった?」


「うん。特大だった。……ところで、どうだった社交界デビュー!」


 マリアンにワクワクと聞かれ、私は首を横に振った。


「まあ、普通って感じだった。流行しているから、私なんかより大胆なドレスを着てる子たちも多かったし、パトリックがあんまり露出しないでっていうから、ボレロを羽織っちゃったし……みんなの視線を釘付け!みたいな感じにはならなかったよ……。せっかくのドレスだったのにゴメンね……。」


「なにそれ……!……パト様の独占欲がエモい!!!」


「……独占欲じゃないよ。パトリックはお年頃だから、ちょっと恥ずかしかっただけ。胸元につい視線が行っちゃうらしくて、気にしてたし……。紳士的に振る舞えないの、気まずかったんだと思うよ?」


 失礼だとは思っても、年頃の男の子だったら、開いてたらついつい見ちゃいますよね……胸元。


 パトリックは真面目だし、紳士的であろうとするトコ、あるからなぁ……。


 まあ、私は大人なので、そういう気持ちはちゃんと理解できますけれど、相手によってはすごく失礼だって思われてしまうだろうし(たとえ胸元が開いたドレスを着ていても、不躾に見られると嫌だったりするのが女心ですし。)、失礼だと分かっていてるのに、ついやってしまう自分を責めちゃう気持ちも分かる。


 思春期って、ままならないですからねぇ……。


「えええー……。そうかなぁ……。」


「そうだよ。アルカエラ校の友達からも私の事を見られないように隠したりしてたし、やっぱり婚約者とかってのも、恥ずかしかったんだと思うな。……それで、目立たないで欲しかったってのもあると思うよ?」


 わざわざ見に来たパトリックのお友達(いや、ライバルでしたっけ?)は、みんな私たちを冷やかすみたいな感じだった。


 そういうのって、すごーーーく嫌な時期、あるよね?

 授業参観にお母さん来てるの恥ずかしい……的な。


 きっと普通の男の子だったら、もっと私の事を突き放したと思う。だけどパトリックは頭のイイコだし、紳士であろうとするエライコだから……なるべくお友達には私を見せないようにして、学校で冷やかされるの最小限にくいとめて、耐えたのだと思うよ……?


「なんかさぁ……私には、それも独占欲にしか思えないんだけど……?」


「……マリアンは変なさ、恋愛小説ばっかり読んでるから、そーなるんだよ?……うちのパトリックはね、マリアンが大好きな小説のヒーローみたいな、独占欲丸出しの『ヤンデレ』ってヤツではありませんからねっ?!」


「あははは……。『うちのパトリック』ってさぁ……ユーフェミアさんも、なかなかの独占欲をお持ちのようで……。ご馳走様すぎますぅ……!」


 マリアンがグフフッと笑ったので、ギリッと睨みつけるとマリアンは「うひゃっ!」っと肩をすくめた。


「もう!揶揄いすぎだよ!……てか、マリアンの方こそ成人パーティはどうだったのよ!」


「……。」


 私がそう尋ねると、マリアンはスンッと目から光を消して途端に大人しくなってしまった。


「あ、あれ???……ダサめクラシカルドレスで、目立たず注目されないようにしたんだよね?」


「……そ、それが……。」


「ダサすぎて誰からも声がかからなすぎて凹んじゃったの……?」


 だとしたら……非常に申し訳ないなぁ。

 あのドレス、本来は私が着るはずだったし……。


「違うの。……あのドレス……ヤバかったの!」


「ん???ヤバい???」


「お見合いの顔見せの本質を、私たちは見誤ってたのよ。」


「本質???」


 マリアンの言おうとする言葉の意味が分からず、私は首を90度になる勢いで捻った。


「私はね、露出の高いドレスなんかを着て、色々な人から値踏みされるのが嫌だったの。」


「……うん。だから、あの慎み深いドレスが良かったんだよね?」


「そう。……で、もちろんあの通りだから、男の子たちからは不躾な視線を送られたりはしなかった。……でもね、お見合い相手を決めるのは、男の子たちじゃないんだよ!!!お見合いするかどうかを決めるのは、男の子たちのご両親なワケっ!!!……お父様にバカ受けした時点でヤバさに気づくべきだったわ……。あのドレスはね……おじさま、おばさまの年代には、清楚で可愛らしくて、お嫁さんに相応しい、とっても慎み深い素敵な淑女に見せてしまうという……怖ろしいシロモノだったのよ……!!!」


「ひ、ひえっ!!!」


 た、確かに……。

 言われてみると、そうかも知れない。


 同年代ウケは男女ともにイマイチかもだが……あの手のドレスは、年配の方の受けは……非常に良いのだ!


 ダサめだけど、生地も作りもよいので、とっても品がよく見える。


 そして、年配の方の中には、最近の流行である露出の多い大人っぽいドレスなんかを、ハシタナイと毛嫌いする方たちが一定数いる……。嫌わないまでも、前世でだって、ギャルとお嬢様なら、親御さんがお嫁さんにしたいと選ぶのは……断然、お嬢様だ。


 我が家だって、お父様はそんな感じだ。(だからこそ、あのクラシカルな仕立て屋を愛用しているんだろうけど。)


 お母様は流行りのドレスもお洒落だと言ってくれたが、お父様はずっと嫌そうな顔をしていたし、パトリックに言われてボレロを着たら、ホッとした顔をしていたっけ……。


 ……。


 ……この世界……結婚を決めるのは……大抵が親だ。


 つまり、あのドレスを着たら……。


「……。お見合いのお話、お父様がドン引きするくらい来ているのよ……。」


「あはは……。なるほど。」


 おじいちゃんの仕立て屋さん……あれ……婚活ドレスって、売り出すとバカ売れするんじゃないかな?


「笑い事じゃないよ?!……そんな訳で、残りの夏休みに、数件のお見合いをする事になったんだから……!」


「ええっ?!そうなの?!……いきなり?!」


「うん。有名な貴族からも是非にってお見合いが来たらしくて、さすがに断れないからって……。」


 ……。


 マリアンのお父様は、いくら貴族とだからって、マリアンのお家の財産目当てな家とはお見合をさせないだろう。

 マリアンの家は爵位なんかに頼らなくても、すでに成功しているんだし……。


 つまり、そんなおじさまがOKした縁談ってのは、本当にマリアンを気に入って、見初めた……マジもんの高位貴族で……超がつく良縁ってヤツなのでは???


 ……。


 ……いずれ、マリアン様ってお呼びするようになるのかな?

 まさか、マリアン殿下はないよ……ね?


「それでマリアン……お見合い、したの?」


「うううん……してない。私ね、同年代の男の子とお見合いで、ちゃんと話せるか不安で……。絶対にキョドるし……。しかも、お相手は貴族様な訳でしょ?失礼だって、怒らせてしまうかもって考えたら……すんごいストレスで……。そうしたらさ……蕁麻疹が出ちゃったの……。」


 マリアンはそう言うと、うっすらとブツブツが残る腕を捲ってみせた。


「えええっ?!……うわあぁ!!!ひ、酷いね。大丈夫なの、それ?」


「うん、まあ……ボチボチかな……。まだ薬飲んでるんだ。……それで、とりあえず、お見合いは延期というか、暫くナシになったんだけど……。なんだか痛いのに痒いし……酷い夏休みになっちゃったよ……。」


「あのドレスのせいだよね……。なんかゴメン……。」


「いやいや、着たいって言ったの私だし、ユーフェミアが気に病む事ないよ。ユーフェミアだって目立つつもりだったのに、露出しすぎってパト様にダメ出しされて、ボレロ羽織って埋もれたんでしょ……?……お互いさ、読みが甘かったんだよ……。」


「……交換しなかったら、どうだったのかな?」


 ふと思ってそう言うと、マリアンはうーんと唸る。


「ユーフェミアはある意味、目立てたかもね?……話を聞く感じだと、流行りの大人ぽいセクシーなドレスの子が多かったんでしょ?」


「確かに……ある意味、あのドレスは異色だったかも。……逆にマリアンも、流行りのドレスの方を着ていたら、お見合いでやたらと見初められなかったかもね……。」


 2人で言い合うと、顔を合わせて苦笑してしまった。









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