楽しい休暇はすぐに終わる
楽しかった冬休みはあっと言う間に終わってしまった……。
学校に向かう汽車の中でハアッと溜息を吐く。
次にまた戻って来られるのは、数ヶ月後の春休みだ。
ガタゴトと遠ざかっていく王都を眺めながら感傷に耽っていると影が差した。
「お嬢さん、お一人ですか?……良かったらご一緒しても?」
ふざけた感じでそう言われ顔を上げると、そこにはニヤニヤしたマリアンがいた。
「!!!……マリアン!同じ列車だったんだ!!!」
「あははは。まーね。……もしかしたらユーフェミアもこの列車かもなって思って探してみてたんだ。……普通の子たちは学校の始まる2、3日前には寮に帰るらしいんだけど、ユーフェミアは私と同じくギリギリの汽車を選びそうって思ったんだよね……?」
私はボックス席に広げていた荷物を纏め席を作ると、マリアンはそそくさとそこに座った。
学校は明日から始まる。
なので、お昼過ぎに王都を出発する、学校のある街行きのこの列車はがら空きだった。……一般客も乗れる列車ではあるのだけど、小さな街なので元々乗客も少ない。
「マリアンに会えて良かった。……汽車の中は暇だし、ちょっと寂しくて落ち込んでたから。」
「結構時間かかるもんね。……それに寂しいも同意だよ。……で、どうだった、冬休み?!」
「どうって?……楽しかったよ?」
「パト様とイチャイチャしたんでしょ?!聖夜祭もあったし、ラブラブデートしてきたんだよねぇ?!」
マリアンが身を乗り出す。
聖夜祭は、前世でいうところのクリスマスっぽいお祭りだ。
「聖夜祭には行ったけど、パトリックと2人きりじゃないよ?家族も一緒だったし……。」
「えー……なんかガッカリじゃん……。」
「ガッカリではないよ。パトリックは婚約者だけど恋人って訳じゃないし、どっちかっていうと家族寄りな感じだもん。仲良しだけど、ラブラブは違うよ。」
「ええっ?!そうなの?!……なんかこの前会った時、パト様とユーフェミアって凄く仲良いし、距離もやたらと近いから、……うわぁ!ラブラブなんだなーって思ったんだよね?」
「それ、マリアンが男性に慣れてなさすぎるから、そう思っただけじゃない?パトリックと会って挨拶した時も、めっちゃ緊張してて挙動不審だったし。」
「あー……。確かに……それは否定はできない。」
マリアンはそう言うと苦笑しながら、母親を早くに亡くしていて、子供の頃からいつも父親の仕事に付いてまわり、色々なホテルに短期で滞在するのを繰り返していたせいで、同年代のお友達は殆ど居なかったのだと打ち明けてくれた。
「女の子はさ、たまにお父様や気を遣ったホテルの従業員さんが自分のお子さんを遊び相手として連れて来てくれたし、気が合って、仲良くなった子もいたの。だけど、歳の近い男の子と会う機会は滅多に……ってか、ほぼなくて……。なんか苦手ってか、何を話していいか分からなくなっちゃうんだよね……。」
「へえ……。そうだったんだ。」
「だからさ、前に共学行きたい!なんて言ったけど、行ってたらパニクッてたと思う。……学力の問題はさて置きね?……ユカリオ女学院は、厳しいし大変だけど……ユーフェミアに会ってお友達になれたのは、すごく良かったって思ってるよ?」
マリアンにそう言われ、私は全力で頷いた。
「私も!!!私も、それはすごく思ってるよ!!!……だからさ、これからも一緒に……それなりに頑張っていこうね?!」
「うん。ボチボチ息抜きしながら、ソコソコでやってこう!」
私たちは顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「……あ!……そうそう休み中に、兄さまのお見合い相手のユカリオ女学院の先輩、ケイティさんにもお会いしたんだ。……どうやら兄さまはケイティさんと婚約するっぽい!」
「ええっ?!そうなの?!『救いの女神』とニコラス様が?!」
_この『救いの女神』ってのはケイティさんに私とマリアンの中で感謝を込めて名付けた二つ名だ。
ケイティさんも在校生時代にユカリオ女学院の息苦しさに苦労したそうで、兄さまを通して甘いお菓子や便利アイテムを送ってくれたり、果ては先生別の攻略法まで教えてくださる女神様だ。
ケイティさんが居なければ、私もマリアンももっと暗黒の日々を送る事になっていただろう……。
「そうなんだよ!私、すごく嬉しいの!兄さまのくせに、良くやったって、思わず褒めたくらいだよ!……お手紙では色々と助けてもらって、ケイティさんの事を知ってたけれど、お会いしたらさぁ、さらに素敵な方でね……私、思わず拝んじゃったよ。」
「マジか……。私も拝みたかった……。」
聖騎士の癖になんだかチャラくて、いつもヘラヘラしている兄さまとは正反対で、ケイティさんは真面目で堅実そうな雰囲気の、とても清楚な女性だった。
兄さまは、お見合いで初めてケイティさんに会った時に『なんか堅物っぽい女の子で、話……合わなそう……。』って思ったらしい。ケイティさんもチャラすぎる雰囲気の兄さまに警戒してしまったらしく、最初のうち2人は話がまるで弾まなかったそう。
そこで共通の話題を……と思い、兄さまが必死に捻り出したのが、私が通っていて、ケイティさんにとっては母校である、ユカリオ女学院の話題だった。
『妹はガサツな所があるんで、ユカリオ女学院で苦労しているらしいんですよ。』って話から、『実は私も、あの学校はあんまり合わなくて苦労したんですよね……。なので、妹さんの気持ちわかります!』って打ち明けてくれて……そこから話が広がっていったそう。
ガサツは余計だよ、兄さま!!!
されはさておき……。
兄さまは話をしてみると、真面目で大人しいだけに見えていたケイティさんが、実はユーモアがあって話題が豊富で、しっかりした考え方を持った大人の女性なんだという事を知り……まあ、簡単に言えば惚れ込んでしまったって訳なんですよ。
「兄さまにはね、絶対にケイティさんを逃すなって釘を刺して来たよ!……次の休暇の時、予定が会えばマリアンも我が家においでよ。ケイティさんもマリアンに会いたいって話してたし……。」
「やったっ!!!行く、絶対に行くよ!……はぁ、次の休暇が待ち遠しいねぇ……。」
「うん。……冬休み、終わったばっかなのにねぇ……。」
「「ハーーーーッ……。」」
2人の溜息がハモってしまうと、なんだか可笑しくなってきてしまい、私たちは笑い出した。
「……あ、そうだ、マリアン。私ね、何かスポーツのクラブに入ろうと思うの。」
「あれ?ホッケーは見に行ったけど、嫌だって言ってなかった???」
マリアンが不思議そうに聞く。
「うん。人気あるから見学には行ったんだけれど、なんか上下関係が厳しそうでさ……。でも、スポーツはしたいなって思ったんだよね?」
「ふーん?……ユーフェミアって運動好きなんだっけ?」
「まあね。私、パトリックと良く遊んでいたし、体を動かすのは割と好きなんだよね?……だけど、それが理由ではないんだよね?」
「じゃあ、どんな理由?」
「実はさぁ、どうも私……太ったらしいの。」
「えっ?!?!」
マリアンが容赦ない視線を私の体に向け、上から下まで眺めると、一息ついてから言った。
「……そこまで太っては見えないけど?」
「でもね、パトリックに飛び付いたら、支えきれなくて2人で転んじゃってさ、コレはヤバいなって思ったの。」
「何それ、ラブラブじゃん……。飛び付くなよ……。イチャイチャしてないって、してるじゃん……。」
「だから、イチャイチャしてないよ!……嬉しくって飛び付くくらい、兄さまやお父様にもしてるもん!」
私がそう反論すると、マリアンはハイハイと言って肩をすくめた。
「と、に、か、く、私、太ったみたいなの。……で、考えたんだけどさ……。コレ、マリアンにも関係するからね……?……兄さまの送ってくれるあのクッキー……バターたっぷり、お砂糖たっぷりじゃない?!」
「!!!」
マリアンが目を溢さんばかりに見開いた。
「私ね、兄さまに休み中に半分はヘルシーなものに替えてってお願いしようと思ったんだけど……マリアン、あのクッキーなしで、まがい物なんかで……あの厳しい学校生活を頑張れると思う?!」
「お、思わないよ、ユーフェミア。……あれは心のオアシスだよ……!」
「……でしょ?!しかもね……新作はチョコレートクリームが挟まってるのよ!!!……もう、運動するしかなくない?!」
「ない!!!……ユーフェミア、私もどこかゆるめの活動をしているスポーツクラブに入る!!!」
◇
こうして、学校に戻った私とマリアンは、地味だけど和気藹々と活動をしていた、クロッケーのクラブに入る事になる。
はじめてみると、優しい先輩に指導してもらいながら、どんどん上達するクロッケーは、すごく面白くて……。私たちはいつの間にか、それにのめり込んでいく事になるのだが……。
それはまた、別のお話。
すみませんが、少し更新をお休みしようと思います。
楽しみに思ってくれていた方がいたらすみません。
パトリック、嫌な奴すぎましたか……?
完結させるつもりはあるので、待っていただけたら嬉しいです。モチベーションが復活するまで、少しだけ物語の世界から離れてみようと思います。




