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お互いの学園生活

 久しぶりに繋いだパトリックの手が大きくなっていて、ちょっと驚きはしたものの、話しはじめてしまえば、あっというまにそんな違和感はどこかに飛んでいってしまった。


 ……そして私の家に着くと、今度はお互いの学校の様子について語りはじめた。


 パトリックによると、アルカエラ校はエリート校なだけあって、入学して間もないのに、とても難しいお勉強をしているんだって。


「へえ……すごいね。」


「ああ!みんな優秀な奴ばかりだから、首席で入学したからって、ボンヤリはしていられないんだ!」


「ふーん。……じゃあ、パトリックはガリ勉してるの?」


「まさか。……あのな、アルカエラ校は文武両道を重んじているから、スポーツでも活躍しなきゃ、本当の意味での1番にはなれない。……俺はフットボールのクラブに入った。フットボールは汗を流すだけのスポーツじゃないんだ。リーダーシップと戦略がモノをいう。……まあ、ストレス解消にもなるんだけどな!」


 学校で良い刺激を受けているのだろう、パトリックは瞳をキラキラさせてそう語る。


「へえ、フットボールって、なんか泥臭いスポーツなのかと思ってた。」


「馬鹿いえ。紳士のスポーツだぞ?……そうだ、ユーフェミアの学校はどうなんだ?女子校ったって、運動はするだろ?」


「まあね。運動は健康にもいいし、ストレス解消にもなるから、うちの学校でも推奨されてるよ?……特にホッケーが盛んらしい。……でも、やってみたら才能なかったんだよねぇ……。」


 苦笑混じりにそう話す。


 ……本当は、才能がなかったってよりは、ホッケーのクラブが、上下関係の非常に厳しいクラブで、それが嫌で入るのをやめたんだけどね。


 ホッケー自体はやってみたら、結構楽しかった……。


 だけどさ、先輩が全員終わるまでは空いていても寒くてもシャワー室を使えないとか、先輩のユニフォームも後輩が洗わなきゃいけないとか、廊下で会ったらどんな場合でも立ち止まってご挨拶しなきゃならないとか……。そんな決まりが沢山あるらしくて……。


 それって、それじゃなくてもストレスフルな学校生活に、さらにストレスがかかってきそうじゃない?!


「ふーん。……ユーフェミアは、相変わらず鈍臭いのか?」


「ホッケーは私向きのスポーツではなかったってだけですよーだ。」


「……なんだよ、それ。負け惜しみか?」


 ニヤリとパトリックが笑うから、ちょっとムッとしてしまう。


「そうかもね、何とでも言ってよ。……それでなくても疲れるのに、クラブでも色々と気を張らなきゃならないとか、疲れきっちゃうから、やらないんだよ。」


 私がそう言うと、パトリックはピタリと動きを止めた。


「ユーフェミア、もしかして、お前……。学校……上手くいってないのか?」


「え……っと……。」


 私がサッと目を逸らせると、パトリックは私の顔を逃がさないとばかりにパッと両手で固定した。


「マリアンさんとの楽しかった事しか書いていない、絶妙に中身の薄い手紙しか来ないから、なんだかあやしいと思っていたんだ。……学校なんて、楽しいだけじゃないのが普通だろ?まして、初めての寮生活だし……。なのに、お前の手紙には、一言の不満すら手紙に書いていなかった。……ユーフェミア……本当のところはどうなんだ?お前、学校で苦労してるんじゃないか……?」


 ……!!!


 これだから、勘の良いお子様は……(以下略。)!


 顔を掴んだまま、しっかりと合わせてきたパトリックの目が怖い。……昔から、やたらと目力があるんだよなぁ、パトリックって……!


「えーっとぉ……授業の成績は、悪くないんだよ?」


「誰もお前が成績で苦労してるとは思っていない……。俺が聞きたいのは……!」


 パトリックの顔が一層険しくなった。


「わ、分かったよ、言うよ、言う!!!……学校での生活は、あんまり上手くいってない……です!」


 私がそう答えると、パトリックはハーーーッと長い溜息を吐いた。


「何で黙ってたんだよ。……それ。」


「だって、心配させたくなくて……。」


「また俺が、子供だからとか、そういうのでか?!」


 怒っているような、悲しんでいるような、複雑な顔でパトリックにそう言われ……私はなんだか胸が苦しくなった。


 ……。


「……ごめんね、リック。」


「急にご機嫌取るなよ。……俺ってさ、そんな頼りないか?……そんなに、ガキくさいのかよ……?」


 拗ねたようにパトリックに言われ、思わず縋り付く。


「違うよ、そんな事ない。リックの事は頼りになるって思ってるよ?!……ただ、リックは学校で上手くやっているのに、私はダメダメで……『お互いに頑張ろうね。』って約束して学校に行ったのに、なんだか自分は頑張ってないみたいに思えてきちゃって……言い出しにくくて……。」


 私が気まずそうに言うと、パトリックは目元を緩めた。


「ミア……。」


「まあ……パトリックがお子様だとは思ってるけどね。」


「は?!おい待て!……その流れなら、お子様も否定しろよ?!」


「いやいやパトリック。13歳はお子様だよ?未成年だもん、大人では絶対にないよね……?」


 この世界の成人年齢は16歳だが、それまであと3年もあるのだ。……どう考えても、まだまだお子様である。


「それはそうだけどさぁ……。なんか力が抜けるなぁ……。それならユーフェミアも同じだろ……?」


「まあ、法律的にはね?……でも私、中身は大人なので!」


「……はぁ、どーかなぁ。……大人なら、もっと割り切って、学校で上手くやれるんじゃないの?」


 ……ギクッ!!!ってか、グサッ!!!


「ねえ!!!その発言、なんか刺さるんだけどっ?!」


「だって、そーだろ?!」


 パトリックめ……いちいち痛いところを付きやがって……。


 揶揄うようにそう言ったパトリックを、思わず睨みつけると、パトリックは不意に真顔になった。


 ???


「だけど……。お、俺はユーフェミアが頑張ってないとは思わないからな……。」


「え……?」


「学校や寮生活が上手く行ってないからって、それを頑張ってないとは言えないだろ?少なくとも、そんな辛い状況の中で、マリアンさんという友達を作ったり、勉強だってちゃんとしている。……それって、やっぱりミアなりには頑張っているんだと……俺は思うんだ。」


「……リ……リック!!!」


 気がつくと、私は嬉しさのあまり、パトリックにガバッと抱きついていた。


 しかし、パトリックは抱きつかれるのが想定外だったのか受身に失敗して、グラッと視界が揺れたと思うと、そのまま一緒に床にバタンと倒れ込んでしまった。


「なっ、なにするんだよ!いきなり抱きつくなよ!驚くだろ?……イタタタ。」


「だって、嬉しくって!……その、学校で上手くいかないのは、私がダメで頑張りが足らないんだって思って、凹んでいたの!……でもパトリックが辛い中で友達を作ったり、成績を落とさなかったのは頑張ったからだよって言ってくれて、自己肯定感がグワワワーーーッと戻って来たのよ!……あ、私……頑張ってるじゃん?!すごいんじゃん?って……!!!」


「……そうか、それは良かったな……。」


 そう言うと、私とパトリックは一緒にムクリと起き上がった。パンパンと服のホコリを払っていると、少し不思議そうな顔でパトリックが私をマジマジと見つめていた。


「ん?……どうかした……?」


「あ、いや……何でもない。……なんか違和感があったから……。それで受け止めきれなかったのかもな?」


 パトリックはそう言うと、支えきれなかった自分の手のひらと私を交互に眺めた。


 え……?


 もしかして、私……体……重くなってたかな???


 最近、身長が少し伸びた事もあり、体重も結構増えているんだよね?


 ……。


 ま、まあ、兄さまの送ってくれるバターとお砂糖たっぷりの贅沢クッキーを食べまくって、太った可能性も否定はできないんだけど……。


「ひ、久しぶりの再会だからだよ!私もさっきパトリックにちょっと違和感あったもん!」


 慌ててそう言って誤魔化すと、パトリックは納得したように頷いてくれた。


 ……ほっ。


 いくら癒しだからって……間食はほどほどにしなきゃだ……。


 私は心の中で、冬休みのうちに、美味しいけれどヘルシーなクッキーを探して、兄さまの仕送りにそっちも混ぜてもらおうと心に決めた。










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― 新着の感想 ―
[気になる点] イギリスの名門貴族の感性が 他国の庶民感覚と合わない ・・・ そんな噛み合わなさを感じます。 パトリック、結局分かってませんよね? 現代日本人の自分としては、友達なら面白いけど、…
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