当て馬令嬢に転生していました
普通、乙女ゲームの世界に転生したら……。モテモテで困っちゃうヒロインか、起死回生できる悪役令嬢か……もしくは無関係とかいいつつ、チャッカリ美味しいところを持っていく、モブ令嬢……この中のどれか……じゃないの?!
……。
な、なのに……!!!
私ってば、どうやら「どう足掻いてもダメな当て馬令嬢」ってヤツに転生しているらしいんですよ!
酷いと思いませんか?!
おおっと、まだ名乗っていませんでしたね。
私の名前はですねユーフェミア・コーライと言います。
この世界では伯爵令嬢をやってます。
思い返してみますと、私には昔からボンヤリとだけど、この世界に不思議な既視感があったんですよねぇ……。
本当にうっすらとなんで、特に気にする事もなく、今まで生きてきちゃったのですけど……。
だけど!!!
それ……多分、本当はもっとちゃんと掘り下げるべき事だったんです!!!
……。
ええ……実は、それの既視感の原因が……たった今、ハッキリしました。だからこそ、そう思うんです!
……そう。
私は今日、ある人たちの結婚式に参列しました。
……名門貴族の出身でありながらも、驕る事なく優しく謙虚でハンサムな聖騎士様と、突然に聖女という神託が降りてしまい、戸惑いながらも持ち前の明るさと勤勉さで立派に務めを果たしている、美しい聖女様……そんな2人の結婚式の末席に私はいました。
ドロリとしたドス黒い気持ちで……。
そして、2人が教会に入って来るのを見た途端……『あれ?これダスティン様エンドのスチルにそっくり……。』という考えが頭に浮かび……『スチル???』『ダスティン様エンド???』という単語に妙な引っかりを感じていると……後は芋づる式に記憶がバーーーッと蘇ってきて……。
きっかけさえあれば、記憶ってそんな感じで蘇るもんなんですねぇ……。
そんな訳で……私は、ほんとにたった今、この世界が前世で大好きだった乙女ゲーム『聖女と約束の騎士』の世界であり、そこに転生していたんだ!……と、知ったんです。
だけど……。
『ダスティン様エンド』……つまり、前世の記憶が蘇った途端に、乙女ゲームは終わりを迎えてしまったんです。
……。
神様。
これは……あんまりにもあんまり……じゃないですか?!
◇
「ユーフェミア、大丈夫か?」
エグエグと蹲って泣いている私にハンカチを差し出してくれたのは、耐えきれずに教会から飛び出した私を追ってきてくれた、幼馴染でありダスティン様の弟でもあるパトリックだ。
「う、ううっ……。パ、パトリックは……この状態の何処が大丈夫に見えるの?……うっ、ひぐっ……。」
顔を上げ、グチャグチャの顔のままパトリックを睨む。
「まあ、ダメだよなぁ……。」
こんな時なのに、パトリックはへにゃっと笑うと、隣に座って私の顔を雑にハンカチでゴシゴシと拭きはじめた。
相変わらず、マイペースな奴だ……。
「だってさ、好きだったのよ、ダスティン様の事。……ずっと、ずーーーっと。な、なのに……う、ぐすっ。」
そうだよ、前世から推してましたんです、私。前世と今世、両方合わせたら、かなりの熟成具合なんですよぉ……。
「知ってるよ。昔からユーフェミアは兄貴に必死にアピールしてたもんなぁ……。全く相手にされてなかったけど……。」
「そんな事ないよ!ダスティン様だって、私の事を可愛いって言ってくれてた!!!……そ、それなのに……あの人が突然割り込んできてっ……!」
ボロボロと溢れる涙が止まらない。
もはやパトリックのハンカチはグシャグシャだ。
「う、うん……。まあ……言ってた……かな?兄貴は、ユーフェミアの事、妹みたいに思って可愛がっていたし……。」
「妹じゃないよ!私、女だもん!!!」
「お、……女……。女かぁ……。……あのさ、ユーフェミア。悪いけど、まだ12歳のお前を、もう20になってる兄貴が女として見ていたら……悪いけど、すごーく気持ち悪いぞ?お前……それでいいのか?そんな気持ち悪い男……アリか???……ナシだろー……な?」
パトリックは呆れたようにそう言うと、私の背中に手を回して、落ち着かせるようにポンポンと叩いた。
た、確かに……。
12歳を女として見ている20歳の成人男性……。
前世でいうとこの、ロリコンさん?!
え。気持ち悪いかも……?
「いや、いや、待って?!……貴族だと歳の差婚だって珍しくないじゃない?……我が家のお父様とお母様だって、6歳の差があるんだよ?!」
ダスティン様をロリコン扱いするの、やめてよね?!
「ん。……まあ……そうだけど。でもさぁ、おじ様たちの場合は、お互いが大人になってから決まった話だろ?ユーフェミアの場合はまだお子様だし、さすがに相手にされないのが普通だと思う。」
そっかぁ……。
良かったぁ、お父様ヤバい性癖じゃなくって……って、違うよ!!!
「う、う、うわぁーーーーーん!!!……な、なんで私、パトリックなんかと同じ歳になんかに生まれちゃったんだろ?!どうせなら、ダスティン様と同じ歳に生まれたかった。……ショックすぎるよ!なんで、ダスティン様は聖女様なんかと結婚しちゃったのーーーっ!!!私が大人になるまで待っててよーーー!!!」
「うーん。……悲しい気持ちは分かるが、それはしょうがないだろ?」
パトリックは宥めるようにそう言うが……。
「理不尽だわ!!!」
「いやいや、ユーフェミアが理不尽だと思うぞ……?」
いやいや、理不尽だよ……。
だってさ、ここが乙女ゲームの世界って分かったのは、ダスティン様エンドのまっ最中なんだよ?!もう、手遅れすぎだし、物語にも一切介入できないじゃーーーん!!!
ダスティン様ルートなら何周もしたんで、傾向と対策ならバッチリだったんだよ?!もっと早く思い出していたら、今日ダスティン様の隣でウエディングドレスを身に纏っていたのは……。
……って、まだ12歳の私じゃ結婚は無理か。
と、とにかく、ゲームが終わったところで記憶が戻っても、私に一体、どうしろと?!?!
中途半端に戻ってしまった大人な記憶とか、どうすんのよ、これーーー!!!
またしても、色々と込み上げてきてしまい、ビービーと泣き始めると、パトリックはヤレヤレという感じで私を抱きしめてくれた。
パトリックは末っ子次男の癖に、昔からとても面倒見がいいのだ……。
◇
えー……つまりまとめると(この積年の思いをまとめる事はできませんが!!!)……。
私が転生していたのは、乙女ゲームの攻略対象者である水の聖騎士ダスティンにまとわりつく、おませなチビッコガールだったって訳なんです。
ハッキリ言うと、まるで勝ち目のない、当て馬令嬢ってヤツです。
ゲームでも、私はヒーローとヒロインの間をチョイチョイとお邪魔しますが、恋のライバルにはなり得ません。(はぁ、自分で言ってて辛い……。)
ヒーローがデートに遅刻する原因をつくったり、ヒロインの出した大切なお手紙を隠したりして、ちょっとしたすれ違いや誤解の原因にはなるのですが、結局は恋のスパイスです。
プレイヤーをいい感じにイラつかせますが、『雨降って地固まる』って言うじゃないですか。そんな感じで、私が居る事で、2人は距離を縮める事になるんです……。
そしてもちろん、前世の記憶のなかった私は……それを……得意げにやってましたぁ!!!2人の仲がこじれると思って!!!邪魔してやるって思って!!!
2人をいい感じにするだけなのに……。
で……。
たった今、乙女ゲームは終わりを迎えました。なんの介入もできないまま、ストーリー通りにエンディングに突入です……。
……。
今世の私の憧れの人であり、前世の最推しだったダスティン・アウレウス様は、ヒロインである聖女アンジェリカ様を見事に射止め……先程、教会で愛を誓いゴールインを果たしてしまった訳なんです……。
「うぐっ、パトリックぅ……。辛ひぃ……辛いよぉ。」
「まあ、こういう場合……泣くしかないかもなぁ……。」
私は悔し紛れに涙と鼻水を、パトリックの胸でグリグリと拭いてやった。……パトリックに罪はないけど……。
「お、おい、ユーフェミア。どさくさに紛れて俺のシャツで拭くなって……。ハンカチ貸したろ?!……しょーがない奴だなぁ……。」
「い、いいじゃん、ハンカチもうグシャグシャなんだもの。……可愛い女の子が貴方の胸で泣いてるのよ?!役得って思いなさいよね?!」
「……役得ねぇ……。」
パトリックは呆れたようにそう言いながらも、そのまま華奢で薄い子供の胸を私に存分に貸してくれたのだ……。