9話 唐突な求婚
「さて、私の娘も独り身になってしまったか」
「そのことなんですが」
お父様が私の結婚相手について心配しているように一人言を言った。すると、エルヴィス殿下が突然そう言った。
「娘さんを私にくださりませんか?」
「ああ、はい。そうですか。……はい?」
お父様、呆気にとられる。同じく私も呆気にとられている。何と言った? 要するに、娘さんをくださいってことでしょ? 結婚の挨拶か?
「おお、余は歓迎するぞ。サラ殿は既に私の娘みたいな存在だからな」
「サラは陛下の娘ではないです! 決して! このよく分からない男に娘を差し出すなど……」
「お父様、失礼だから……」
お父様も親バカだな。王様と王子……いや、もう王太子か。この2人にこんなことを平気で言えるのだから。王妃様は横で笑っている。止めるか注意をしてくださいよ。
「はっはっ、いつものことだ。余もエルヴィスも気にしていないから安心しろ。それに、お前の娘のおかげでこの国の腐敗を一気に片付けることができた。礼を言うぞ」
「いえ。当然のことをしたまでです」
チラッと周りを見ると、兵士たちに連れて行かれるこの国の腐敗こと、悪事を働いた犯罪者が連行されていく。やっと終わった。この国の腐敗も随分とマシになっただろう。それでも、完全には消えないのが現実ではあるが。
「……貴女は私の求婚を断ると仰るのですか?」
「やりたいこともあるので。それに、お父様は私に嫁に行ってほしくないようですから」
「サラ……!」
レオンハルト元王子との婚約の際にも難色を示していたが、断ると家の評判にも関わる。だから、私がNOと言わない限り、断れなかったのだろう。
私は面白そうだったので承諾した。これも、今時の悪役令嬢の務めとしてこの国の腐敗を一掃するため。後はやりたいことをやるだけだ。
「やりたいこと、とは?」
「弁護士というものです。文官の一種に近いようなものでしょうか?」
文官とは主に事務を担当する仕事全般を指す。例えば、税や文書の管理や外交とか。それら全てをするわけではなく、それぞれに職がある。要するに国家公務員のようなものだ。
「べんごし、ですか。初めて聞きました」
「この国にはありませんからね。それを作りたいと思っているのです」
この国は司法制度がちゃんとしていない。自白が何よりも重視されているため、拷問で無理矢理自白を強要したりしている。そして、裁判は教会の担当。権力を手にした教会の汚職が進んでいく。……今回の件で、教会の方もちゃんと調べないとな。
「しかし、女性で文官ですか。それに、今までにない職を……」
「だからこそ、作るんです。異国のものですが、今のこの国には必要だと思ったので。それに、私の昔からの夢ですから」
女性で文官というのはこの時代、この国ではありえないことである。そういうものは男性の仕事である。それも貴族で。
ただでさえ私は異色の存在なのだ。学園で1位の成績なんて、女性では初でありえないことなのだ。女性は男性に功を譲っているか教師によって成績を下げられる。どんなに優秀な女性でもその才を発揮することができないのだ。だが、私はその習慣にも屈しなかった。今回もそうだ。
「やはり、貴女は面白い人だ」
「そういうことですので、私はこれで」
「私はそう簡単には諦めませんよ?」
……どうやら、そう簡単に諦めてはくれないらしい。




