7話 計画通りの報復
「あっ、お父様……」
「よくも愛しの娘によくもっ……!」
「お父様、落ち着いて……」
怒涛の勢いでやってきたのはガルシア伯爵だった。宰相の元ご子息に今にも殴りかからんとしている。……親バカだという噂は本当だったか。
「よくも……娘の顔をこのような姿に……誰が……!」
「その人物なら、この女です!」
その私の言葉を聞くと、ガルシア伯爵は血相を変えて壇上に上がってきた。あまりの恐ろしさに、エリカは涙と震えが止まらないようだ。
私は制止しない。見てはいけない気がしたので、壇上から降りた。どうなるかは後で見るとしよう。
「ダグラス」
「……」
お父様が現れた。ダグラスは無言で項垂れている。自分のしたことにやっと気付いたのだろうか。反省しているならいいだろう。まあ、既に手遅れだけど。
「サラの言う通りだったな。お前を廃嫡にし、跡継ぎはエドワードにする。お前は辺境の地に追放——」
「お待ちください、お父様」
私はお父様の言葉を途中で静止した。ダグラスを追放などにさせてたまるか。追放などでは、彼にとっては生温いだろう。
「使用人にしませんか? そうですね……馬の世話でもさせましょうか? その中でも、下働きから始めさせましょう」
「そうだな。お前の言う通りにしよう」
「嫌だ! 使用人!? 馬!? 馬の糞の掃除までするんだろ!? 嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!」
プライドの高いダグラスにはこの上ない屈辱だろう。今まで散々見下してきた私やエディよりも下、しかも馬の世話。ダグラスにとっては嫌で嫌で仕方がないだろう。私がこいつに与えられる最高の罰だ。
「父上……そんな!」
「どうかお許しを!」
次々にそのような声が聞こえてくる。そう。この会場に彼らの親を呼んだのは私だ。エリカ側の人を全員把握するのと悪さを把握するのに苦労した。
幸いにも、ほぼ全員が重大な罪を犯していたためにあっさりと分かった。エリカが我儘な女で貢いだからだろう。大抵はお金に関わる罪だ。
「お叱りの声が聞こえますが、親子共々悪事を働いた方もいます! 証拠も全て揃っています。自分の子を叱る前に、自分の心配でもしては如何ですか? 勿論、全て証拠とともに報告してありますので!」
そう大声を上げて言うと、静かになった。子が子なら親も親だ。共謀はしていなくても、親子揃って何かしらの犯罪をしている人も多かった。
親が親なら子も子とはこのことだ。芋づる式で見つかった。
「話は聞いたぞ」
「陛下、王妃様、よくぞいらして下さいました」
「な……!」
未だまともに動けない殿下を汚物でも見るかのような目で見る陛下。陛下は壇上に上がり、未だに立ち上がれない殿下に近付いた。
「既に話はサラ殿から聞いた。今、学園の門には民が溢れているぞ。お前達への不満のためにな。お前には罵倒が、聖女は悪女だと言われている」
「な、何故……?」
そんなことも自覚していないのか。殿下はバカで傲慢だなとつくづく思う。もう誰も手に負えないほどに。
「今回のことと日頃の行いが相まって、民の怒りが爆発したのでしょう。民のお二人のデート手に余るものだったとか。その上、私とのデートでないことは周知の事実。……何度も続けば、口にはしなくても怒りが募るのも当然でしょう」
デートの相手がエリカであるとはいえ、当然だが婚約者である私にも火の粉は飛んだ。しかし、全て解決した。「あの王子達は確実に破滅させる」と彼らに伝えて。
「今回のこと……?」
「先程申し上げたものも含め、これまでの殿下達の悪行ですよ」
「な、何故それを民が知っているのだ!?」
否定していたくせに、認めたも同然の発言。そしてそれに気付かない。私が言っていない他の悪行も認めた、ってことでいいかしら。
「ああ、申し訳ありません。昨晩、お二人の悪行とその証拠を書いた書類が街中で風に飛ばされてしまいまして……」
「なっ!? 貴様、なんてことを!」
「申し訳ありません。ですが、事故なのです。陛下に謝罪しましたところ、許してくださいましたので……」
もちろん、事故ではない。わざとである。大量に書類を作り、わざと街中で飛ばしたのだ。事前に陛下には了承を得ていた。ある一文を書くことで。
「貴様のような人間など、王家には必要ない」
「レオンハルト、貴方には失望しました。……親の責任ですね」
「ち、父上! 母上! ダメです! そんな!」
やっと自分の立場を理解したか。遅すぎる。殿下が陛下の足にしがみつく姿が醜い。……もはや、今の私にはどうでもいいことだけど。
「お前は王の器ではない。今ここに、第一王子のレオンハルトから王子の称号を剥奪、追放し、第二王子のエルヴィスを王太子にすることを宣言する!」
「父上ぇぇぇぇぇ!」
殿下の泣き叫ぶ声が会場中に響いた。正式な発表ではないが、これで殿下たちは終わりだ。
先程述べた、ある一文とはこのことだ。「陛下は大変お怒りになり、第一王子は廃嫡、追放となる」と。
1人の女のために多くの男が人生を棒に振るとは、何ともまあ滑稽だ。もはやギャグである。
「ああ、反乱を起こせば戻れるなどと考えないでくださいね。この所業は既に民に知れ渡っています。誰も貴方にはついていきませんし、反乱が成功してもすぐにまた民による反乱が起こるでしょう。王になることは寿命を縮めますよ?」
殿下のバカな考えから察するに、反乱を起こせば戻ることができるとでも考えるだろう。それも、反乱を狙う重臣に利用されて。
だから今のうちに忠告しておこう。




