52話 混乱する少女
「Oh……ダグラス並みの暴れぶりね」
ルーシーの娘がいる部屋は想像以上に悲惨なことになっていた。
家具だけでなく、何人ものメイドがボロボロになっていた。厄介なのは、暴走させるほど魔力が膨大であるという点。今はさほど多くはないだろうが、放っておくと同じことが起こる。
「……ん」
「はい、お嬢様」
ルーシーに目配せして、全員を部屋から退出するように指示した。ルーシーはその意図を汲み取り、その通りにした。
「名前は?」
「アリスと申します」
「……アリスちゃんね。ダグラスは性格の問題だけど、この子はどう見ても違うね」
子どもというのは敏感だ。目覚める前と周りの環境が変化しているのが分かって混乱しているのだろうか。
実家に帰ったら、とかそういう話ではない。母親であるルーシーも困っている様子からすると、母親の違いにも気付いている。
あるいは記憶がないか、記憶が混乱しているか。
記憶喪失かどうかは調べていないか、そもそも分からないとする。
私と同い年となると、そこまで上手く意思疎通はできないだろう。そして、その混乱の中では受け答えはさらに難しくなるに違いない。
「――まあ、推測ばかりしてても仕方ないわね」
子どもというのは大人からすれば予測不可能なところもある。実際、私の予測なんて可能性の1つにすぎないのだ。
「アリスちゃん」
そう声をかけられた彼女は、ビクッとして動きを止めた。
そして、恐る恐る私の方へと振り向く。
「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど――!?」
やらかした。そう悟った。
彼女の目にはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「え、えーと……」
流石に、私もルーシーもこの状況に戸惑った。
泣き叫ぶわけでもなく、ただただ溢れている涙。彼女が何故そうなっているのか、分からなかった。
「……ママ!」
今度はルーシーの元へと走り出した。
困惑しながらも、ルーシーは自分の元へと走ってきた娘のアリスをだっこした。
「い、一体何が……?」
「ルーシーが分からないなら私も分からないよ」
先程までの様子とは正反対で、満面の笑みを浮かべた可愛い子どもとなっていた。
「アリス、何かあったの?」
ルーシーが尋ねた。返答にはあまり期待していない様子だった。
「ママ、悪いことしててごめんなさい」
アリスははっきりとそう答えた。その目は心から反省しているようだった。
「……記憶が混乱していたのかしら?」
「そうかもしれませんね」
意外にも予想は当たっていたらしい。状況からして、私が声をかけたことがきっかけだったのだろうか。
「――いや、まさかね」
「お嬢様?」
「いえ、何でも。そんなことよりも、お父様への報告とかしないと」
「そうですね」
お父様にはとても心配をかけたことだし、覚悟はしている。




