51話 衝撃の目覚め
「……お嬢様」
「……はい」
あの後、私は暴走したせいで力尽きた。
恐らく、ダグラスがルーシーを呼んだおかげで、私はルーシーに助けられたのだろう。
……で、この状況だ。
「本当にありがとうございましたっ……!」
「え、ええ!?」
土下座して、泣きながら感謝の言葉を述べてきたのだ。
てっきり、私は怒られるものかと覚悟していたのに。
「お嬢様のおかげで娘の意識が回復し……」
「む、娘ぇ!?」
初耳だった。ルーシーはまだ若いと思っていたのに……娘ですと?
「……で、ルーシーの娘がどうしてあんなところに?」
「――以前、暴走した子どもの話をしましたが、覚えていらっしゃるでしょうか?」
以前――あ、私が暴走させた後? そういえば、そんな話もあったっけ。それって確か、ルーシーの娘――
「あー、そういうことね。暴走してからはあそこにいた、ってことか。マジ?」
「はい」
思わず公爵令嬢としてあるまじき言葉遣いで、心の声を漏らしてしまった。
「お嬢様より生まれは早いですが、体も精神の年齢もお嬢様とは変わらないです」
「精神は分かるけど、体も?」
生まれが早いのであれば、体の年齢は違うはずだ。
ということは、体の成長も何かしらの原因で止まっているはずだ。
「はい。詳しい仕組みは私も分からないのですが、暴走の影響で、暴走の逆の事象が起き、それによって体の時間の流れが変化した……らしいです」
「ブラックホール的なものかな」
「ぶらっく……?」
魔力に対するブラックホール、と考えると時間の流れが違うというのも何となく分かる気がする。
「ああ、気にしないで。それで、吸い込んだ魔力はどこへ?」
「不明らしいです。調べようにも、魔力を吸われてしまって調べられないそうです。意識がないときは食料も何も必要としていなかったので、生命活動に利用しているとも言われていますが……」
ますますブラックホールっぽい現象だ。
だが、私はブラックホールに詳しいわけでもない。だいたいそんなものだろう、と認識した方がいいだろう。
「私が魔力を一度に大量に思いっきり流したせいで、吸い込む力にも限界が来たのかしら?」
「恐らく、そうではないかと。誰にも分からないそうですが……」
とりあえず、やり方が合っていたのか成功はしたらしい。
魔力はごっそりと持っていかれ、今でも活動できる最低限しか戻っていない。鍛えていて良かった。
「その子は?」
「お嬢様よりも先に目覚めております。多少、錯乱しておりますが……」
強引に止めたせいだろう。脳などにダメージを与えてしまったかもしれない。
「お嬢様のせいではございませんよ」
そんな私の考えを察してか、ルーシーはそう言った。
「……それにしても、どうしてお嬢様はあの場所に? 封印して、隠していたはずですが」
「隠してるも何も、普通にあったけど……」
その時のことを思い返して、ハッとなった。
確かに、違和感はあった。
「音を外に漏らさないための結界とか張ってた?」
「はい、確かそうかと。当時は魔力を吸い込む際に音もかなり出ていまして。最近は周囲の魔力が枯渇して吸い込む魔力もなく、あまり出ていなかったようですが」
あのダグラスの声の違和感の正体はこれか。
恐らく、言い方からして張っていたのはそれだけではないはず。
「透明化の魔法とかも?」
「はい。他にも侵入できないような結界も張っていたはずですが……」
魔法にそんなものがあるかは知らないが、経年劣化というやつか?
あるいは、彼女のブラックホールのような力に耐えられなかったか。ブラックホールと勝手に言ってはいるけど、離れているとそこまで大きな効力を持っているわけでもなさそうではあった。
「とりあえず、行きましょうか」
「そのお体で、どちらに行かれるおつもりですか!?」
ルーシーは立ち上がる私を慌てて止めようとした。
だが、私は言葉を続けた。
「どこって、貴方の娘ちゃんのところ。案内して」
「……はい」
止めても聞かないと分かったのか、ルーシーは私の言葉に従った。




