50話 謎の少女
「こらっ、ダグラス!」
「うっせえ!」
あれから1年経った。特に何事もなく、あの男の存在を意識することもなく、無事に成長していた。
「相変わらずね……」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
私は弟、ダグラスによってびしょ濡れになってしまった。物影に隠れて、バケツに入った水をかける機会を伺っていたらしい。
こういったことは日常茶飯事なせいで、ルーシーも落ち着いている。
「大丈夫よ。それよりも、ダグラスを追いかけなきゃ。どこ行くか分かったもんじゃない」
「あっ、お待ちを!」
ダグラスは事あるごとに屋敷を抜け出そうとする。その度に多くの人を困らせてしまうのだ。
「ちょっと、どこに……ん?」
初めて見る小屋だった。
屋敷は広いし、私も子どもなので全ての場所に行かせてくれるわけではない。そのため、知らない場所はあって当然だ。
「……ここに入っていったわね」
ダグラスは子どもなせいで考えが甘い。
地面には子どもの足跡がしっかりと残っている。それに、扉も少し開いている。
「ダグラス! 出てきなさ……あれ?」
誰もいなかった。
物置なのか色んなものが置かれて、埃を被っている。
「……分かったけど、変ね」
明らかに足音の違う箇所がある。恐らく、空洞があるのだろう。
ダグラスはそこに隠れているはず。だが、何故こんな物置に空洞が?
「あっ、開いた」
意外とあっさり、床が開いた。
その先には、階段が続いていた。先は暗いが、確実に何かある。
「ダグラスー?」
そう問いかけてみるが、返事はなかった。
私は魔法で火を出し、その光を頼りに先に進んでいった。
「あああああ!」
突然、叫び声が聞こえた。
しかも不自然な感じにだ。言うなら、叫び声を加工して途中から流しているような――
「ダグラスなの!?」
「痛いぃぃぃぃぃぃ!」
その必死の叫びに、私は慌てて階段を降りた。
降りていくと、空間が見えた。そして、ダグラスの姿も見えた。
「ダグラス! ……!?」
ダグラスに駆け寄ったと同時に、私は驚愕した。
目の前にはベッドがあり、そこに女の子が横たわっている。見たところ、今の私の年齢と同じくらいだろうか。
その上、この周辺の空気も変だ。酸素が少ない……にしては妙な感覚だが、呼吸がしにくい。そして、何故か力も抜けていく。
「誰……?」
横たわっている女の子を見た。こんな子どもの存在は知らない。聞かされた覚えもない。何故、こんな地下に?
「ダグラス、どこが痛いの?」
「痛いよぉぉ……!」
それよりも、まずはダグラスだ。痛がっていて返答はなかったが、右腕が痛いらしい。
その腕に触ると、冷たかった。あまりの冷たさに、左腕も確認のために触った。こちらは普通の暖かさだった。
「何があったの?」
「あいつが……」
ダグラスが指差したのは、横たわっていた女の子だった。
この女の子が? 横たわっていて、何もできないはずだが……そう思いながらも、女の子の体に触れようとした。
「いっ……! な、何、今の?」
触れた瞬間、腕に痛みが走り、慌てて引っ込めた。
だが、今ので何が起こっていたのかは分かった。
「魔力が……この子に持っていかれてる?」
確かに、腕から魔力が抜けていく感覚があった。それも、かなりの吸引力だ。
子どものダグラスの反射神経は良くない。それもあって、魔力をかなり持っていかれた。そして、魔力が抜けたことで腕が冷たくなり、痛がっているのだろう。
「……いいこと思いついた」
使える。そう思った。
そのためにはまず、この子を起こさなければならない。
「ダグラス、腕出して」
ダグラスの腕に触れ、魔力を流す。
魔力不足によるものだ。これで治るだろう。
「痛く……ない」
「よし。それなら、外に出てルーシーを呼んできて」
「嫌だ」
こんな時も人の言うことを聞かないんだからっ……!
……仕方ないわね。
「私のプリン、あげるから」
「呼んでくる!」
ダグラスはすぐに階段を駆け上がっていった。
おやつで釣られるあたり、子どもだ。チョロい。
「さて……と」
お母様から貰ったネックレスの姿を現させ、触れる。
このネックレスも使って、私の本気を出す時が来たようだ。
「力試しよっ!」
そう言って、私は自身の魔力を意図的に暴走させた。
「起きろーっ!」
――そう叫んだ後のことは、あまり覚えていない。




