49話 解ける執着
「ああああ、スカーレットっ……!」
私達はお母様と共に屋敷に戻った。
1番冷静でなかったのはやはり、お父様だった。
半狂乱したかの如く泣き叫び、遺体にしがみついていた。
「……」
その光景を私は直視できなかった。
お母様は、私と最期に会話する前にお父様と会っている。従者によるとその時、どうやら自身の死を仄めかすようなことは言っていたらしい。
「旦那様、ご遺体をお運びしますので……」
「来るな!」
葬式そのものは終わっている。そして遺体を運ぶ、つまりこれから火葬されるだろう。
だが、お父様はそれを拒絶する。
「私がもっと早く、治療法を見つけていれば……君と約束したのにっ……!」
……お母様の遺言の意図が真に分かった気がした。
お母様はこの事態を察知していたのか。
「お父様」
お父様が私を見た。
震える声を抑え、私は続けた。
「泣こうが喚こうが、過去は変わりません。スペンサー家としての威厳を、お示しください」
ルーシーを除いて、周囲の人が絶句したような様子だった。
私はまだ3歳。そんな幼子が、こんなことを言ったのだから無理もない。
「……そんなことでは、公爵家の名が廃ります」
「サラ……」
お父様は呆然とした様子でこちらを見ていた。
私だって、こんな非情なことを言いたくはない。だが、こうでもしないとお父様はダメになってしまう。
「お母様はまだ本当の意味では死んでいません。お母様は私達の中で生きておりますから」
「!」
誰もがハッとしたような、驚いた表情をした。
「人には死が2度あると言います。1度目はこの世から去った時、2度目はお母様が誰からも忘れ去られた時です」
どこでこんな言葉を知ったかは覚えていないが、前世での受け売りだ。
どんな言葉だろうと、お父様に伝わればいい。
「私達が覚えている限り、お母様は死にません」
私は精一杯の笑みを浮かべた。そして、静寂が流れる。
「……そうだな」
お父様はそう言って、お母様から離れた。
その顔はどこか、吹っ切れた様子だった。
「進めてくれ」
「は、はい」
お父様の突然の指示に驚きつつも、お母様の遺体を運び出すように作業を進めていた。
「我が子に気付かされるとはな……ありがとう、サラ」
「えへへ〜」
そして私はお父様に頭を撫でられて喜ぶような、子どもらしい自分に戻った。
「……じゃあな、スカーレット。いつか、また会おう」
悲しそうではあるが、お父様は笑みを浮かべていた。
その後、お母様の遺体は無事に火葬された。
予想されていたあの男の襲撃もなく、平和な1日だった。




