46話 3つの本
「……お母様」
「貴方がいて、本当に良かった」
お母様はそう言って笑った。
「前世の記憶があって、そこではこの世界がゲーム……だよね? そんな創作物だって聞いた時は驚いたけど」
お母様は懐かしそうに目を細めて、空を見上げていた。
「前にも言ったけど、ここはゲームじゃない。例え神がいて、貴方の運命を決めていようと変えてやりなさい」
お母様は私の手を取り、真っ直ぐ目を見つめて言った。
「主人公は、貴方よ」
「……はいっ」
私は下唇を噛んだ。
この溢れる感情を抑えるために。
「多分、私はエドワードの出産後に死んでるはず。そうでしょ」
「……はい」
エドワードとは、この前生まれた私の弟の名前だ。
お母様の言う通り、本来は出産とほとんど同時に亡くなっている。それなのに、お母様はそれから2週間ほど経った今も生きている。
「私がいい例よ。貴方のおかげで運命は変わった。本来なら、とっくの昔に身も心もボロボロになっていたでしょうね。こんなに会話もできないはず」
お母様の言う通りだ。声は弱々しくなっているものの、会話も普通に出来ている。会話出来ているのが、私も不思議でしかない。
「貴方に教えられることは、できるだけ教えたわ。それと、これ」
そう言うとお母様は分厚い本を2冊と、それより薄い本を1冊、私に差し出した。
それぞれ、厚い方の表紙の色が赤、緑、薄い方はピンクと、それぞれ違っていた。
「これは?」
「赤い方は私から貴方への指導書よ。私が教え足りなかったことは勿論、復習としても使えるように書いてるわ」
……あれでまだ教え足りなかったことがあるというのか。
お母様の指導の数々を思い返すが、正直に言うとあれで全てなのではないかと思えるほどだった。
「緑は……貴方の世界風に言うと、攻略本かしら?」
「攻略本?」
「そう。貴方が死ぬのを防ぐために書いたものよ。ただし、それは助言程度と思いなさい」
本を絶対だと思わず、臨機応変に自分で対応しろ、ということだろう。
ここは私にとってはゲームの世界だったが、今は現実。人生の攻略本など、存在しない。
「最後の本は……まあ、そのうち読みなさい。大したことじゃないから」
お母様らしくないはぐらかし方に疑問を覚えた。
一体何が書いてあるのか気になり、本を開こうとした瞬間だった。
「ダメよ! 見ちゃダメ!」
全力で止められた。顔を真っ赤にし、顔を横に振っている。
一言で言おう。可愛い。本当にお母様らしくない。
「……こほん。そういうわけだから、しばらくしてから読みなさい。それら全て、誰もいないところで見るように」
何事もなかったかのように表情は戻り、“そのうち”から“しばらくしてから”に言い方は変化した。
「……赤と緑はルーシーや今後何かしらで貴方の秘密を知ることになる、信頼できる人ならいいわ。もう1冊は誰にも見せないこと。いいわね」
何かヤバいことでも書いているのだろうか。……それなら、後回しでもいいのかもしれない。
重要度の高い他の2冊は辞書――いや、それよりも分厚いかと思うほどの内容。こちらを読むのに精一杯になるかもしれない。
「……さて。貴方にお願いしたいことがあるわ」
改まった様子で、お母様は言った。私も身が引き締まった。




