44話 誕生と死期
「スカーレットの容体は!?」
「危険と伺っております……」
あれから半年以上経った。気を付けてはいたが、予想通りの展開が起きてしまった。
早産だ。本来、出産は妊娠してから約10ヶ月後。それまでには2、3ヶ月ほど早い。
お父様も知らせを聞いて仕事を抜け出し、私達が移り住んでいた別宅に来ていた。
そして、私の記憶の通りならば――
「おめでとうございます! 母子ともに無事です!」
メイドが走って、私達にそう知らせに来た。
「本当か!?」
「!?」
私も耳を疑うほど驚いた。
本来なら、お母様は2人目の弟の出産後、すぐに亡くなっている。今、この瞬間も無事なんてことは本来ならあり得ないのだ。
「はい! 一時は危険な状態でしたが、無事に乗り越えました!」
「良かった……!」
お父様も安堵した様子だった。
そして、お父様に連れられてお母様の元に会いにいった。
「大丈夫か?」
「ええ……なんとか」
お母様は以前よりやつれてしまった。出血も酷かったのか、顔はかなり青白い。
医療についてそこまで詳しくはないが、輸血が必要かその手前くらい酷かったのかもしれない。
だが、この世界に輸血なんて技術はないだろう。恐らく、ちょっとしたことでも未だに危ないことには変わりないはずだ。
「サラ、どうしたの?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべて、お母様は私に言った。
私はお母様には、お母様がいつ死ぬか言っていない。だが、察したのだろう。私の表情からか、死期を悟っていたのか、分からないが、本来はもう既に死んでいることを。
「やあやあ、めでたいですね」
あの嫌な声が部屋中に響いた。今度も現れたか。
「……わざわざ自らの姿を晒しに来て、何のようだ」
「おやおや、その様子だと私が死んだことはご存知ですか」
そう言って、ケタケタと不気味な声で笑った。
私の叔父――アーロンはお母様の出産の度にどこからか情報を聞きつけて現れる。
そうだ。闇魔法のことに気を取られていて忘れていたが、それもおかしいのだ。今回は予定日よりもかなり早い。場所も屋敷ではなく、離れた別荘。場所も隠していたのに。
「この場所を特定するのに苦労しましたよ〜」
なんて言っているが、表情からしてそんなことはない。一体どんな手を使った?
「ほう、こちらが新しい子どもですか」
「触るな!」
お父様がそう叫んだ直後のことだった。
「が、ぐああああああっ!」
「いぎゃぁぁぁぁぁ!」
アーロンの叫び声と、赤ちゃんである弟の泣き声が同時に部屋中に響き渡った。
「こ、これはっ……くそっ!」
苦しそうな表情をしながら、アーロンは部屋を飛び出し、逃げた。
「追いますか!?」
「今が好機かもしれん。追ってくれ」
「はっ」
そう言って、護衛の人たちはアーロンを追って部屋から出て行った。
「……すまんな。私が不甲斐ないばかりに、あやつを野放しにして」
「いえ。まともに手を出せないのは分かってますから……それよりも、子どもが……」
生まれたばかりの弟は、尋常ではないほどの泣き方だった。
もう1人の弟、ダグラスの時も同じだった。あいつが触ろうとした瞬間、悲鳴にも似た泣き声を上げた。
あの時はお父様の殺気のせいかと思っていたけど……まさかあいつ、何かした?
「な、なんだ!?」
建物が揺れている。恐らく地震だ。
こちらは日本と違って地震は少ない。それなのに、揺れもまあまあ大きい。だからなのか、この事態に周囲は全員が戸惑いを隠せない。
「ゔわぁーっ!」
「よしよし、大丈夫よ」
揺れの影響もあってか、泣き声は止まない。
お母様が必死に慰めていると、その間に揺れは収まってきた。
「あ、あう……」
「……ふう」
そして弟も何とか泣き止み、お母様は疲弊した様子だった。
ただでさえ産後で命の危険もあるのに、こんな状況になるとは。
「奥様! 大丈夫ですか!?」
慌てて医師がお母様を診察する。そして、少し一安心したような表情した。どうやら、大事には至らなかったようだ。
「……絶対安静ですよ」
「ええ……」
医師の忠告は、かなり真剣で重い表情だった。
だからこそ、お母様はそう長くないであろうことがよく分かった。




