42話 世界を相手に
「世界が敵、とは……?」
恐る恐る私はお母様にそう尋ねた。
「国教が何かは知ってる?」
「こくきょう? 国の宗教のことですか?」
「そうよ」
お母様の発言に、私は何が敵かすぐに理解した。
「まさか、お母様――」
「そう。敵はクラート教。世界全土にまで及ぶ、この国の国教よ」
あの男の背後に背後に教会。だが、私はその存在に対してあまり脅威を感じていなかった。
恐らく、ゲームでは善の部分しか描かれていないのだろう。裏の悪どい話など、乙女ゲームに出てくることはなかったのだ。ましてや、あの聖女が知ることもない。
「聖女まで現れたら、貴方はさらに危険よ。知っていると思うけど、聖女は教会の管轄よ。このままいくと、教会の権力が増してしまうわ」
ゲーム内でのサラの婚約もそういう理由だったの?
……いや、そんなはずはない。婚約したのがいつかは知らないけど、その悪名高さは入学前からであることは間違いない。つまり、あの男の影響を受けたのは入学前。
ましてや、あいつが屋敷に襲撃した時点で、私がいなければ終わっている。あの時点で影響を受けていたとすれば――今のような状況にはなっていないはずだ。
つまり、どちらにせよ婚約は確定。神によって決められたものなのか、あの男或いは教会の手のひらの上は知らないが、そんな運命らしい。
「教会は汚職塗れよ。金と権力の亡者だらけ。金があればその罪を許し、無い者は極刑。極端に言えばだけど――いや、極端でもなんでもないかしら」
教会の人々と言えば、主人公である聖女に寄り添い、アドバイスしたりと、そのようなイメージは全くなかった。
「信用も信頼もしてはいけない。恐らく、闇魔法による薬物擬きの件も教会と金が絡んでる。それだけではどうも腑に落ちないけど」
そう言うと、お母様は机の引き出しから紙と万年筆を取り出し、何かを書き始めた。
「教会で私が知る限りでは1人、信頼できる人がいるわ。ルーシーに預けておくから、何かあればそれを彼に渡しなさい」
「承知しました」
書いた内容は手紙らしい。封筒に入れてシーリングスタンプで封をすると、それをルーシーに手渡した。
「……魔法だけではダメね。早いけど、体術や剣術も教えないと」
「えっ」
私の脳裏には騎士団を訪ねた時、お母様の剣術の指導でボロボロになる騎士達の姿が浮かんだ。
「自分の身を守るためよ。覚悟しなさい」
終わった。何も終わってはおらず、むしろ始まりにすぎないのだが、そう思ってしまった。




