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40話 帰ってきた有能なメイド

「お待ちしておりました、奥様」


 数日後、私達は遠く離れた別宅に移った。

 周りは自然豊かな森と山に囲まれて、静かな場所だった。


「お久しぶりです」


「よく戻ったわ、ルーシー」


 聞き覚えのある名前に、思わずハッとした。

 目を合わせると彼女は私に向かって会釈をした。間違いない。謹慎処分を下されていたルーシーだ。


「ルーシーに話があるから、ダグラスをお願いするわね」


 お母様がそう言うと、私達はルーシーの案内の下、お母様の部屋へと連れられた。


「この屋敷も悪くないわね。隠れ家みたいでいいわ。しつこく要望出しておいてよかった」


 そう言って、ソファーに座った。

 ……なるほど、お父様が何やら悩んでいる様子だったのはお母様のせいか。相当厳しい条件を突きつけていたのだろう。


「さて、ルーシー。貴方にお願いしていたことだけど」


「はい。教会の方に探りも入れてみましたが、魔王の復活はまだです。まだ10年以上先のため、その兆候もないです」


 お母様はルーシーを密偵にしていたのだろうか。謹慎処分とはいえ、やはり自宅待機というわけではなかったようだ。


「隠す理由もないし、そっちは予想通りね。アーロンの方は?」


「役所で確認したところ、確かに死亡扱いになっておりました。時期的にも、お嬢様に倒された後です。ですが、誰が死亡届を出したのかまでは……」


 なるほど。おそらく、そいつが協力者だろう。


 本人が出しに行ったのであれば、ルーシーの調査で分かるだろう。役所の人に顔写真か絵を見せるか、特徴を聞けばいい。

 そうでないなら、顔を変えていない限り、本人ではない。


「麻薬の方も調査したのですが、出どころまでは掴めませんでした。……ですが」


 そう言うと、ルーシーは数枚の紙をお母様に渡した。


「ですが、背後に何者かが間違いなくいます。それも貴族か、それ以上の者です」


「……」


 お母様が私に無言で私にその紙を見せてきた。


 それは、手紙のように見える。“ように見える”というのは、私には何が書かれているか分からないからだ。

 内容は暗号化されていて、何と書かれているかさっぱり分からない。流石に、一筋縄ではいかないようだ。


「確かに、暗号が使えるとなると文字を書くことのできる貴族の可能性はあるわ。でも、貴族以下の人でも商売なんかをやっている人は書けることも多いわ」


 お母様の言うことは妥当だった。だが、ルーシーはさらに説明を付け加える。


「私はどうも引っかかっていたのです。あの男が現れた時、その身には宝石や金――それらをどうやって手にしたのかを」


「……それで、こっちがその取引ね」


「はい。あの男と取引した店の記録です」


 膨大な額の取引だった。合計すればいくらになるだろうか? 桁を数えるのも大変だ。

 裏に貴族がいる、というのも納得だ。


 仮に薬で庶民からお金を搾り取っても、たかが知れている。貴族との繋がりがなければ、ここまでの額は出せないだろう。多分だが、円に換算すると何億かはある。


「……なるほどね。やっと分かった。思い通りに騙されていたわ」


 そう言うと、お母様は書類を机の上に置いた。そして、事務用の机に移動した。

 その机の引き出しの中から紙と万年筆を取り出し、何かを書いた。


「頼むわ」


「承知しました」


 その紙がお母様からルーシーに手渡されると、ルーシーは部屋か静かに出ていった。


「お母様、あれは?」


「……」


 そう尋ねても、お母様は何も答えなかった。

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