39話 寂しい誕生日
「……そういう訳で、ここから離れることにするわ」
「大方は聞いている。屋敷は用意しよう。準備が出来次第行くといい」
「ありがとう」
お父様への報告は、重苦しいものとなった。
それは予想していた。だが、次の瞬間その空気は変わった。
「後、妊娠していたわ」
「本当か!?」
先程までの2人の様子とは大違いだ。あの暗い雰囲気は何だったのか、と思うほどだ。
「いやー、めでたいな。サラの誕生日に妊娠報告とは!」
……ん? 誕生日?
「本当ね。ああ、そうそう。サラのプレゼントを一緒に買ってきたの。ドレスとかアクセサリーとか」
「おお! これはいいな!」
呆気に取られる私を他所に盛り上がる両親。
今日が誕生日だったのか。通りであんなにも買い物をするわけだ。
こっちの世界に来てからは、日付感覚がなかった。特に日付を気にする必要もないし、聞くこともないため、今日が何日か知らなかった。
「サラ、今日はパーティーだ! 好きなだけ食べるといい!」
「うん!」
私は張り切ってそう答えた。
食べ切れる気はしていないが、折角のパーティー、楽しまないと損だ。
「あうー」
「よしよし。ダグラスも楽しみかしら?」
お母様の腕に抱かれて、動き回る弟のダグラス。弟なのに最近会っていなかったので、少し驚いた。かなり成長している。
会っていなかったのは猛特訓のせいでその暇がなかったからだ。その上、メイドの様子からして、ダグラス側にも何か理由はあるらしい。
「準備は出来ているか?」
「はい、旦那様。皆様、こちらへ」
執事に案内された先の部屋には豪勢な料理が並んでいた。
私の誕生日とはいえ、私はまだ3歳。だからなのか、貴族の姿はなく、家族と屋敷の皆だけのパーティーのようだ。
「さあ、食事にしよう」
お父様がそう言うと、全員が食べ始めた。
こちらの世界は中世ヨーロッパがモデルのため、「いただきます」と言う習慣はない。
だが、20年以上の癖で、今でも手を合わせて「いただきます」と言う。流石に変だと思われるので小声でしか言わないけど。
「あー! だー!」
「あっ!」
その瞬間、大きく皿の割れる音がした。そして、それをすぐにメイドが片付けた。
察してはいたが、私とダグラスが会わなかった理由の1つはこれだろう。
ダグラスはお母様に差し出されたスプーンを手で跳ね除け、机の上の皿も落として割った。
「うわーん!」
皿の割れた音に驚いたのか、ダグラスは大泣きしてしまった。
手がかかるのは知っていたが、以前より動けるようになって、更に悪化しているのではないだろうか。
確かに、これでは私に何をするか分からない。少し目を離した隙に、私かダグラスが怪我をする恐れもある。
「だぁーっ!」
いつにも増して不機嫌なのか分からないが、抱き上げたお母様の腕の中でダグラスは大暴れしている。
「ちょっと、お願いできるかしら?」
「かしこまりました」
お母様はメイドに指示をし、そしてダグラスはメイドと共に外に出てしまった。
ここには皿やナイフやフォークなど、子どもにとって危険な物が多くある。あんな様子では、怪我をすると判断されたのだろう。
「家族揃ってじゃなくて、ごめんね」
「大丈夫!」
子どもらしく、そう返した。
仕方ないことだ。本当は揃っていた方が良いが、弟に怪我をさせるわけにはいかない。
「……」
楽しいはずのパーティーは、少し寂しいものとなった。そんな気がした。




