37話 襲撃者の正体
「どこかで見たような……」
「あっ、騎士団にいたチンピラみたいなやつ」
咄嗟に思い付いた言葉がそれだった。私は誰か気付いたが、お母様はまだピンと来ていない様子だった。
「ほらあの、出来も大したことないのにお母様に文句言った奴。その上、お母様にボコボコにされて負けた奴」
「ああ、いたわね。何、恨みでも晴らしに来たのかしら。にしても、変ね……」
そう言って、お母様はその男の衣服を調べ始めた。
「たった数ヶ月で、こいつが私の護衛を相手に勝てる技術や才能も、性格上その心構えもないはず……」
すると、男の胸元から何か石のような物が地面に転がった。
気になってそれを手に取ろうとした――刹那、本能がダメだと私に訴えかけた。
「お、お母様……これ、何かヤバいものでは……」
「ん、どれ?」
私が指差した石を見た瞬間、お母様の血相が変わった。
「!? こ、これってまさか――いや、そんなはずが」
「大丈夫か!?」
その声に聞き覚えがあった。団長だった。
一緒にメイドがいるところから、どうやら逃げたメイドが助けを呼んだようだ。
「団長!」
「……お前達は周辺を警戒していろ!」
血相を変えたお母様の様子に、団長は何かを察した様子だった。指示を出した後、私達の元へ慌てて駆け寄った。
「どうした」
「これは、魔力石では? しかも、闇属性の」
魔力石とは、文字通り魔力の籠った宝石のような見た目の石だ。これを使えば自身の魔力の補充や、予め魔法を込めることで簡易的な魔法が使える。
石自体は天然でも人工でも存在する。だが、お母様は今“闇属性の魔力石”と言った。闇属性のものは、天然では存在しないのだ。
「おい、起きろ!」
「頭を打ったので、起きないかと……」
団長は男を揺さぶったが、当然起きない。
お母様の言葉を聞くと、団長は部下に何かを指示。その言葉に従い、持ってきたのはポーションだった。
「起きろ!」
それをなんと、顔にぶっかけた。
ポーションといえば飲むのが一般的な気がするが……気を失っているので、それは無理か。
傷口にかけるのと同じような要領だろうか。……随分と雑だったけど。
「うえ? ははは〜」
「ああ、ダメだな」
目覚めた男の一言で団長ははっきりと言った。男の顔は明らかに異常で、何かヤバいお薬でもやっているような様子だった。そんな奴を見たことない私でも分かるほどだ。
「念のためだ。こっちも飲め」
半ば無理矢理にもう1つのポーションを飲ませた。
だが、男の表情に変わりはなかった。
「さっきのは毒消しだ。ここまで変わらないとなると、頭を打ったせいでも薬物でもないな」
薬も毒消しのポーションで効果を失くすことができる。薬も用法容量を間違えれば毒と同じという理論だろう。
回復も毒消しも効かない。そうなると、頭の病気か魔法によるものとしか考えられない。
「それにこの石。予想通り、一連の事件は闇魔法によるもので確定だな。その上、魔力石なんぞ作りおって。裏に誰かいないと出来ない芸当……」
団長は思わず喋るのをやめた。そして、何かを察したような、驚いた表情をした。
「伏せろ!」
「っ!」
その言葉に、お母様は私に覆い被さった。
次の瞬間、何かが爆発するような音がした。何も見えないので、何が起こったかはよく分からなかった。
「無事か!?」
「はい、私達は無事です。助かりました。ありがとうございます」
「投げて正解だったな。まともに食らっていたら、我々は間違いなく大怪我だ」
先程の魔力石がない。どうやら、それが爆発したらしい。
時間差による爆発魔法だろうか。そうでもないと、石が勝手に爆発するはずがない。
「恐らく、ここは危険だな。移動しよう」
「はい」
私はお母様と共に騎士団のものと思われる馬に乗り、その場から離れた。




