35話 お母様とはじめてのお買い物
「……あの、お母様」
「何かしら?」
「安静に、って言われましたよね? どこへ行く気ですか?」
病院を出た後、私達は真っ直ぐ家に帰ろうとしていない。明らかに家の方向ではない。
「お買い物よ?」
「メイドに任せて帰りましょう」
私の言うことはまるで聞いていなかったかのように無視された。
そして、馬車が止まった。お母様に促されて降りると、街が広がっていた。
「こっちの街に来たのは初めてでしょ?」
確かにそうだ。転生してから今まで外に出ることは滅多になく、買い物もしたことがない。
「今日は何でも買っていいわ。さあ、行きましょう」
お母様と手を繋ぎ、街を歩く。
宝石、洋服、アクセサリー、化粧品――転生前の私ならそれなりに欲しそうなお店へと沢山連れて行かれた。
だが、今はまだ子ども。流石に早すぎる。将来的には着たいし欲しいとは思うが、今は必要ない。
「ここは魔道具のお店よ」
「……家電量販店?」
小声でそう呟いてしまうほどに、売っているものは家電量販店にあるものとそっくりだった。
冷蔵庫、電子レンジ、照明器具――店舗の規模は小さく、数も少ないものの、家電量販店で売っているようなものばかりだ。
「意外だったかしら? ちゃんと武器も取り扱ってるわよ」
そう言って、奥の方に入るとゲーム内で見覚えのあるアイテムが出てきた。
「杖とかどうかしら? 無くても魔法は使えるけど、威力や命中率を上げたり……って、知ってるわよね」
当然、知っている。魔法の杖にも対応する属性や効果によって種類がある。安い物になると、その効果は1つの属性にしか対応していないものもあった。
杖以外にも魔導書、水晶玉、指輪、腕輪など様々なものがある。
「それじゃあ、これとこれと……」
「ちょっ!?」
思わずそう声を上げた。お母様が選んだものは全て高価なのを、その見た目で私は知っている。
しかも、それらは宝の持ち腐れと言えるほどのもの。全属性対応の杖なんて、高いだけでそこまで役に立った覚えがない。
キャラにはそれぞれ属性があるのだから、その属性に合わせた技と杖を持たせるのが安価で効率も良い。
「そうよね。流石にこれじゃダメよね。特注品にしましょうか」
違う、そうじゃない。そう言いたかったが、これ以上言うと更に悪化しそうだったので、言うのをやめた。
特注品の中でも、更に最高級なものを――と、話が飛躍してしまいそうだ。最悪、国宝級の物を持ってこられても困る。
「ついでに、サラの周辺の家電も一新しましょうか。屋敷の物も寿命になりそうなのもありますし、それも買い替えましょう」
恐ろしい財力。流石、公爵家。家電を一気に買い換えるなんて、元の世界基準で考えてもお金がないとできない行為だ。
「私はまだ用事があるから……そうね。こちらのメイド達と共に見繕ってくれるかしら?」
「承知しました」
「じゃあ、お願いするわ」
そう言うと、お母様と私はメイドを数名残して店を後にした。
「専門の武器屋に行きましょう。そこで特注品の杖と防具と、後は――」
「お母様……」
何を言っても止まりそうにないため、私は諦めてお母様の買い物に付き合うことにした。




