33話 母の弱音
「後2年……もつでしょうか」
お母様は微笑んだままそう言った。
「今日とこの前の――アーロンが襲撃して来た時に戦って、痛いほど分かりました」
自嘲気味に笑い、お母様は顔を左手で覆った。
「魔法は許容範囲内ですが、体はもうダメですね。恐らく、魔法も上級の中でも威力の大きいものを使えば体が耐えられないです。試してはいませんが」
お母様の声が少し震えていたような気がした。
あの強いお母様が、ここまで弱い姿を見せるとは思ってもいなかった。
「分かってはいたことですが、怖いですね。昔から命を懸けて戦っていましたから、死ぬのは怖くありません。この子達の成長を見守れないのが怖いんです」
お母様は生まれつき不治の病で長くない。
ゲームの物語開始時点では既に亡くなっている。順当にいけば、お母様の言う通り2年ももたないだろう。
「大丈夫だ。お前の旦那――スペンサー公爵がいるだろう?」
「ダメなんです。この子が将来的に危険なんです。あの人ではダメです。信頼していないわけではないです。ですが、私がいなくなったら、この子が……」
そう言って、お母様はそれ以上は言わなかった。否、言えなかった。
私にはお母様の言いたいことが何となく分かっていた。私がお母様に語った未来の内容のことも多少はあるだろうけど、それ以外にもある。
それは私とお母様が似ているということ。お母様を失ったお父様は心が壊れて娘のサラ――私と共に悪の道に。叔父のアーロンは私に近付く。
知っての通り、成長すればそれは更に分かりやすくなる。生き写しとまでは言えないが、お母様を失った2人には十分な代わりになりえる。
その上、私は転生者。中身が年相応ではないせいで、天才となってしまった。そして、お母様の不安要素が増えてしまった。
「はは、歳をとると情緒不安定になって嫌ですね。それとも、病気のせいでしょうか」
「いや……」
自虐的に言ったお母様に、団長は何か言おうとしてやめた。
「娘のため、何としてもあの男を討ちます。そして――」
「禁忌でも犯すつもりか?」
「はは、団長には全てお見通しですね」
そう言ってお母様は顔を上げた。その表情はいつも通りで、まるで何事もなかったかのような表情をしていた。
「何をしようと、どうせすぐに死ぬ身ですから」
「……お前はいつも止めても聞かんからな。私も止めはせん」
禁忌が何なのかは分からなかった。だが、禁忌と呼ばれたものだ。それが危険なものであることは想定できた。
「だが、私も協力させてもらう。闇魔法が悪用されている上にその使い手が奴となると、厄介だ」
「ご協力、感謝します」
そう言って、お母様はいつものように微笑んでいた。




