32話 手掛かり
「あいつの属性は確か水だっただろう?」
「夫ともその点については話しました。恐らく、協力者がいるかと。ですが、私には彼自身が闇魔法を使っているように見えました」
「……魔道具の可能性は?」
手元に置いてある、魔道具をチラッと見て団長は言った。
「それにしては使っている闇魔法の威力が大きいかと。魔道具らしき雰囲気のあるものも所持していませんでした。それに、闇魔法の魔道具なんて聞いたこともないです」
魔道具に頼り切った魔法はどうしても威力が落ちる。
その上、魔道具には魔力の塊のようなもの。魔力を感知できる人物なら、所持していることにはすぐに気付ける。
そのことを知っている上に魔力を感知できるお母様がそう言うのだから、所持している可能性は低いだろう。
「それは私もだ。だが、ありえないことが起きている以上、本来ならありえないことも考えなければならない」
「当然です。私も思慮してはいますが……」
そして、団長は立ち上がって本棚から分厚い本を取り出した。そして、本を開いて私達に内容を見せてくれた。
「ここ最近の事件だ。違法薬物中毒のような症状の奴が暴動を起こす事件が増えている。だが、その肝心の薬物の痕跡がまるでない」
お母様が本のページを捲る。お母様の腕の中のため、自由には動けないが私もチラ見する。
意味不明な発言、被害妄想、幻覚や幻聴らしき症状、酷い場合は意思疎通すら不可能――確かに、闇魔法なら可能と思われる。
文章から断言はできないが、仮に一般人相手でもこれを全て引き起こしているなら、相当な使い手だ。
「魔法の痕跡は?」
「すまんが、まさか誰も魔法の仕業とは思っていなかったから調べてもいない。私もさっき闇魔法の話をされてその可能性を思い付いた」
相手や物に魔法を使えばその魔力が残留する。強力な魔法であるほどその痕跡は強く残りやすいため、強い魔法使いなら調べなくても感じることがある。
団長が気付かないとなると、相当隠すのが上手いのか……あるいは発見時には消えているか。あるいはそれ以外か。
「言われてみれば、こんな芸当ができるのは闇魔法しかない。断言はできんがな」
団長はそう言うが、恐らく関係はある。目的は分からない。だが、これは調べる価値は十分にあるだろう。
「ありがとうございます」
「まさかと思うが、お前1人で調べる気か?」
「いいえ、2人です」
そう言って、お母様は私を見た。私のことも数えてくれたらしい。
「……お前のところの暴走したメイドか? 確か今は謹慎中とか言ってたな。外にいるから動きやすいが、流石に無理がある」
そう言うと、団長は俯いた。しばらく沈黙が流れた後、目線を逸らしたまま重い口を開いた。
「お前、後何年だ?」
「……」
さぞ言いたくなさそうな、苦しそうな表情をする団長。
その一方、お母様はたたただ微笑んでいた。




