31話 団長との密談
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「多分、あの男くらいならサラでも魔法を使えば倒せるでしょ」
別室に連れて行かれ、お母様が着替えていると、唐突にそう言われた。
「相手も魔法を使えば分からないけど、性格上魔法もダメでしょうね。初級もろくにしないまま上級魔法しか練習してないはず」
「ですね」
同感だった。ああいう奴は決まってできないというのが物語ではお決まりだ。
「そのうち魔法の暴発事故でもやらかしそうだわ」
私から見てもそう見えるため、特に何も言うことはなかった。お母様の言う通り、そのうち何かやらかしそうな奴だ。
「あー、動きやすい。懐かしいわね、これ」
お母様は先程までと違って、ズボンで身軽な格好だった。髪もポニーテールにしていて、今まで見たこともない姿だった。それでいて、似合っている。
「さて……時間もないことだし、早速実践形式でやろうかしら」
「あははは……」
鬼か悪魔か。その笑みに、私はもはや苦笑いをするしかなかった。
彼らが無事であることを祈ろう――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今年の新人は全員があんな感じなんですか? 全然ダメですね」
「今年どころか、ここ最近はあんな感じだ」
団長とお母様が話している側で、お母様から指導を受けた人全員がまるで瀕死の状態で倒れていた。
……いや、"まるで"ではなくて、本当に瀕死と言っていいほどの地獄絵図だ。普通に会話しているのが少し怖くも感じた。
「こっちには用事があって来たのだろう?」
「そうです。最近のことを伺いたくて」
「そうか」
そう言うと、特に何を言うわけでもなくどこかへと団長は行ってしまった。それをお母様は追っていくと、騎士団の建物の中に入っていった。
「失礼します」
団長の後を追い、部屋に入っていった。団長の執務室だろうか?
互いにソファーに座ると、団長が何か宝石のような石を取り出した。
「これで聞かれることはないだろう」
なるほど、魔道具の一種か。恐らく、防音魔法などの密談でよく使われる魔法が込められた宝石だ。
生活魔法程度のものであれば、魔力を込めると誰でも行使できる。
「それで、何があった。……例の暴走も関係あるのか?」
団長も知っていたのか。まあ、公爵家のメイドの暴走となると、団長は知っていないとおかしいか。屋敷も一部壊れたし。
……まあ、やったのは私なんですけど。
「はい。闇魔法の使い手が現れました」
「なっ!?」
団長は驚いた声を上げたが、すぐに冷静になったのか表情が元の真剣な顔に戻った。
「国外の人間か? だが、少なくとも近隣国では聞いていないが……」
「私の義理の弟――アーロンです」
あいつ、アーロンって名前だったのか。
だが、その名にも聞き覚えがなかった。物語開始時点では既に故人だったから、仕方ないけれども。
「何だって!? あいつが!?」
流石にありえない、と言った様子だった。団長はため息をついて頭を抱えてしまった。




