30話 圧倒的な強さ
「はっ、指導だと? やめておいた方が身のためだぜ?」
そう言って鼻で笑った。完全にバカにしている。
「……と言いたいところだが、そんな気はさらさらねえよ!」
そう言って相手も木刀を構えた。流石にこの状況に、見習いの人達も動揺して、止めるように促している。
その一方で、お母様を知っていると思われる人達は呆れたように笑う声が聞こえ、止めようともしていない。
……流石にそのドレスの格好でやるのを止めるべきでは?
「えー、両者準備はいいな」
「ええ」
「勿論です」
2人は離れて向き合って、準備万端だ。団長が息を吸い込み、私達は試合の合図を待つ。
「開始」
刹那、木刀が空を舞った。その木刀に目を奪われている隙に、気付けば相手は倒れていた。
相手の男も何が何だか分かっていない様子だった。
「言った通りでしょ?」
「「「……」」」
静寂が流れる。誰もが唖然として、声も出なかった。
「……は、反則だ!」
「合図の後ですし、魔法も使っていませんわ」
「合図の直後は卑怯だ!」
「でしたら、なんと反射神経の悪いことでしょうか」
必死になって言い返す男の一方で、余裕の笑みで見下ろすお母様。その表情は誰がどう見ても煽っていた。
「もう1回だ! 互いに10秒間は攻撃禁止だ!」
「承知しましたわ」
だが、結果は何も変わらなかった。
お母様は10秒経過の言葉と同時――ではなく、言い終わってから少し時間を置いて攻撃した。
その上、わざと攻撃体勢を見せてから攻撃した。お母様のことだから、相手の体勢が万端になってから攻撃したのだろう。
「くそっ、もう1度……!」
「懲りないですわね」
3度目の正直――とはならず、2度あることは3度あるとなった。
だが、今までとは少し違う。今度はお母様は木刀を捨て、素手での勝利だ。素手でもお母様は木刀を吹き飛ばしてしまった。
「持ち方も悪いし、動きも悪いし、握力も弱い。貴方、基礎を飛ばして上級の、中でも実戦では役に立たない派手な技を練習してるでしょ。近距離なのに大きく動きすきだし、そのせいで隙だらけだし――」
お母様の指摘が始まった。図星だからか、周りの仲間に笑われているからだろうか。相手の男の顔は真っ赤になっていた。
「も、もう1度……!」
「やめておけ。お前たち新人が束になっても、こいつには敵わん。ドレスに傷すら付けられないだろ。スカーレット、と言えば大抵のやつは分かるだろ。こいつは、あのスカーレットだ」
流石お母様。その名と功績は若者にもよく知られているようだ。誰もが驚いていた。
「流石に束になってこられると、ドレスに傷は付きますよ。昔に比べたらだいぶ弱いんですから。団長にももう勝てないですよ」
「あ、あれで……?」
新人は誰もが驚いているが、事実だろう。闇魔法にかかっていたとはいえ、あの男――認めたくもない私の叔父を相手に、押されていたのだから。
全盛期のお母様の実力なら、かかっていても勝てたのではないだろうか。……いや、そもそも精神力の強さで無効にできたかもしれない。
「あの! 是非ご指導を!」
「えっ、そのつもりはなかったんだけど……」
突然の申し出に、お母様は戸惑った。だが、その声は次々と上がってくる。
「俺もお願いします!」
「僭越ながら、私も……」
ついには新人でもない、経験のありそうな騎士も頭を下げている。
断るに断れなくなったからか、お母様はため息をついた。
「いいわよ。ただし、1時間だけね? それと団長、服を貸してください」
「最初からそうしろ」
呆れながらも、団長は笑っていたのだった。




