3話 多勢に無勢か?
「私への脅しの手紙を……!」
そう言って、証拠だと言う大衆に向けて手紙の内容を見せる。そこには「レオンハルト様に近付くな。次に近付いたら殺す」と書かれてあった。
それを見た人々は怒りの視線を向けてくる。……悪いけど、私はそこまでバカじゃない。
「脅しの手紙なんて、証拠が残ることをしますか? しかも、私の名前入りです。自分で自分の首を締めるようなバカな真似を、私がすると? そもそも、私は殿下の名前を呼ぶことを許可されていません。『レオンハルト殿下』とは呼んだことはありますが、紅茶をかけられ、お怒りになりました。ですので、『レオンハルト様』とは1度も呼んだことがありません」
乙女ゲームの悪役令嬢である“サラ・スペンサー”であれば「レオンハルト様」と呼んでいたかもしれない。だが、私は彼女とは違う。
殿下のことを「レオンハルト様」と書いたことに関しては私が裏でそう呼んでいる可能性も否定はできない。だが、聖女は自分のことを言われたせいか、それに気付いていない。動揺している。
……適当なことを言っても、彼女にダメージがいきそうだ。確認すれば良かったのに。正確には確認しなくてよかったはずなのだろう。それでも、何故気付いていないのやら。
「他には?」
「私は見ました!」
突如、1人の男が声を上げた。彼は確か、伯爵家のご子息のはずだ。伯爵家の財力なしでも、彼自身が相当の金持ちで美形の上に紳士で、女性の人気も高い。
「サラ様が盗みを行なっていました!」
「俺は暴力を振るっていたのを!」
男たちから次々と声が上がっていく。目からして、男たちは聖女を溺愛しているように見える。
……やはり、魅了の魔法を持っている可能性は十分にある。それに、数が多い。モブも魅了していると考えていい。
「これだけの証言がある! 証拠としては十分だろう!?」
そんなレオンハルト殿下の言葉を聞いて、周りの女性たちも向こう側の味方に傾いている。これだけの人数で、しかも自分が慕っている男性たちがそう言っているのだから信じてしまうのも無理はないだろう。
「物的証拠も何もありません。人違いかもしれません」
「ですが、信じる人は多くいます。貴方の家の評判も地に落ちるでしょう」
そう発言したのは宰相のご子息だった。あの聡明な方までもが聖女の味方。
だが、流石は宰相のご子息だ。痛いところを突いている。確かに無実で終わったとしても、このままでは噂によって評判は地に落ちるだろう。そして私は死刑にはならなくとも、国外追放か修道院行きにでもされるだろう。
「いい加減諦めろよ、姉上」
「……ダグラス、貴方もなのね」
私の愚弟、ダグラスだ。次期当主だというのに、こんなとんでもない女に惚れるとは。
昔からプライドが高すぎて人の言うことは聞かなかったり、努力をしなかったりして私に叱られ、私とは仲が悪い。その上、私も含めて多くの人を見下す。我が弟ながら恥ずかしくなる。
「……分かりました。婚約破棄を受け入れます」
聖女は勝ち誇ったような笑みを見せた。周りの男たちも勝利を確信したように大声を上げ、盛り上がっている。
「ようやく罪を認めたか!」
笑いながらそう言うレオンハルト殿下。私との婚約破棄で、機嫌が良いようだ。
「いつ、私が罪を認めたと?」
その瞬間、歓声が一斉に止む。王国一の学園だというのに、ここにはバカしかいないのか?
「エディ!」
私はその名を呼ぶと、1人の男が現れた。




