28話 敵はいったい?
翌日、私はお母様と王立図書館へ来ていた。
ゲーム内でも、攻略キャラとの出会いの場やデート先にもなっていたからよく覚えている。
その上、魔法の解説を見たり、魔法の習得にも役立っていた。魔法について調べるなら、プレイヤーにとってもキャラクターにおいても、ここがうってつけだからここにした。
「闇魔法関連の場所は?」
「えっ、ええと……少々お待ちください」
司書らしき人物はお母様にそう訊かれると、驚いたような困惑した表情で、他の人を呼びに行ってしまった。年齢も若そうなので、詳しくないのだろう。
その上、闇魔法の場所を訊く人なんていない。魔王のイメージが強いため、誰も習得しようなんて思わない。興味を持った人は変人扱いされてしまう。
「お待たせしました。こちらです」
別の司書が現れて、私達を案内した。
そして、それは部屋の角にあった。掃除はされているはずだが、埃が溜まっていそうだと感じさせる薄暗い空間だ。
「とりあえず、この辺りから見ていきましょうか」
そう言って本棚から取り出され、机に置かれたのは分厚い本の山。とりあえずと言って出してくる量がおかしすぎる。
自分で提案しておいてなんだか、もう帰りたくなってきた。
「闇魔法の系統とその効果……初歩的すぎてどうでもいい……」
文句を言いながらも読み進めていくと、見覚えのある文言があった。
「MP……えっ、MP?」
見間違えることもなく、あのMP。解説を読んでもあのMPだ。ゲームのシステム上だけの話だと思っていたが、こっちでもMPがあったのか。
「あら、MPは知らない? 魔力量を数値化したものよ。検査をすればすぐに分かるわ」
「いえ……よく知ってます。まさかこっちにもあるとは……」
「なら、話が早いわ。多分、屋敷の侵入にこの手の魔法を使ったと推測したのだけれど……」
「同感ですが、どう考えてもMPが足りないかと」
MPは一般人だと1桁から2桁、魔王などの例外を除いて、魔法使いは3桁前半が妥当だ。
ところが、今見ている魔法は推定消費MPが800。推定なのは、まともに使える人間がいないからだろう。
とにかく、普通の人間が使えるものではない。これは魔王が使うようなものだ。
「やはり、協力者の線が妥当ね。でも、あの男に協力者なんて」
「間違いなくまともじゃない奴ですね」
顔を見合わせて互いに頷いた。お母様も私と同じ考えのようだ。
十中八九、何かしら目的がある奴だろう。そうでとないと、幼少期から悪名高いとされるあの男と協力する理由がない。
「……これ以上調べても時間の無駄かしら」
あの男だけでは不可能なことを証明しただけだった。何か進展があればいいと思っていたが、推測通りであまり大きな成果はなかった。
ただ、敵は2人以上とほぼ確定させたことは、私の警戒の範囲を広めるという意味では良かったのかもしれない。
「いい機会ね。たまには魔法書とか、読んでみましょうか」
「……!」
他の魔法を習得するためのいい機会だ。私は胸を躍らせた。
だが、その一方で何かが私に警鐘を鳴らしてもいた。
「さあ、まずは火属性の魔法からいきましょうか」
「……」
絶望するほどの本の分厚さと量に、私はもはや苦笑するしかなかった。




