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20話 恐怖の闇魔法

 もし闇属性なら、大勢の人を無力化することは可能だ。これまで堂々と我が家に入ってきたのも納得できる。

 相手を刺激させてこちら側が闇魔法の影響を受ける可能性もある。兄弟だから、という理由以外にもお父様達が無理矢理追い出したりできないのも納得だ。


 ただし、これは“理論上は可能”ということ。それをするには膨大な魔力量が必要だ。この男にそんな魔力量があるとは思えない。いや、出来損ないと呼ばれたこの男に、そんな力があるはずがないのだ。


 そうなると、他にも仲間が来ていると考えた方がやはり自然か? そいつらで警備を無効化させたとか。だが、それだと静かすぎるような気もするが——


「もしかして貴方、あの——」


「ええ。闇魔法を使えますよ?」


 やはり闇魔法だったか。ただしこいつの言っていることが本当なら、であればだが。


 ……だが、そうなると1つ疑問も残る。闇属性は非常に珍しい属性だ。こいつが闇属性なら、本編でその話が少しでも出ているはずだ。だが、そんな話や匂わせるような描写ですら、全く記憶にない。


 自分の属性以外の属性の魔法を使うことはできるとはいえ、それだと威力も効率も落ちる上に、習得するのも難しい。ましてや闇魔法。どんなに努力して使えたとしても、初級魔法が限界だろう。


 そう考えると、尚のことおかしいのだ。


「光魔法自体、使える人間なんて数えるくらいしかいないほど貴重ですからねえ。それを自分のために雇うなど……どんなに交渉したとしても、流石の公爵家も長期間は無理ですかねえ?」


 ウザい。煽るような口調で、非常にウザい。一発殴りたいが、この体では何もできない。


「今日は兄さんもいない。……いっそのこと、連れ去ってしまおうか?」


「奥様から離れなさいっ!」


 男がそう言った直後、男の後ろの扉が開いた。そして、慌てた様子でメイドが私の部屋に入ってきた。そのメイドは、私の世話をしているメイドだった。

 確か今は食事の準備をしていたはずだ。連絡する人も無力化されてしまったと思われるこの中でこの非常事態に気付いたのか。


「やめなさい!」


 お母様がそう声を荒げた。だが、その言葉に反して彼女の周辺には水の塊が浮いていた。魔法だ。


「……私を誰だと思っている?」


 今までにないほど低く、不機嫌そうな声が響いた。

 その次の瞬間、目の前から男が消えた。気付けば、メイドの首を片手で掴み、そのまま持ち上げていた。


「がっ……」


「メイドがこれほどの魔法を使えるとは、珍しい。私の部下にしても面白そうだ」


 苦しそうにジタバタして暴れるメイドにも意に介さず、ニヤニヤと笑うながらそう言った。そして、彼女を扉のすぐ横の壁に叩きつけた。そして、壁に叩きつけられたせいで意識を失ったのか、動かなくなってしまった。

 このままではヤバい。全滅してしまう。


「っ、はあっ!」


 少し躊躇いつつも、お母様が男の背後から炎の魔法を放った。だが、あっさりと弾き返されてしまった。

 お母様はその辺の魔法使いでは勝てないほど強いはずだ。産後で弱っているとはいえ、この程度なわけがないのだ。それなのに、軽くあしらわれてしまった。


「産後1ヶ月も経たない上に、子どもは2人目で既に現役を引退した身。そんな体で私に勝てるわけがないだろう?」


 男はそんな私とは逆の思考とは対照的なことを言った。

 ……何もかもが異常すぎる。そう悟った。


「……ダメか」


 最後の頼りのお母様でもダメだった。ああ。こんなことになるなら予定を早く見積もって魔法の練習をしておけばよかった。


 ……でも、そんなことしても結構は間に合わなかっただろう。ただの結果論だ。

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