19話 穏やかな襲撃
次の日から、魔法の特訓をしなくなってしまった。私が声をかけても何の反応もしてくれない。ボーッとしているとかいうものではなく、聞こえているのに何も言わないのだ。
隠れて練習しようにも、常に誰かがいるためできない。この体では素早く動くこともできないため、
必要な時に必要な反応はしてくれる。例えば、「お腹が空いた」とか。だが、そういったこと以外には一切対応しなくなってしまった。
「この子は顔を顰めることが多いわね……」
そう言ったお母様の腕の中には弟のダグラスもいる。相変わらず可愛い。
「おぎゃー!」
「よしよし。お姉ちゃんとは違って、ダグラスはよく泣くわね」
どうやら、弟は手のかかる赤ちゃんのようだ。弟の世話を担当しているメイド達の顔色が悪い。
この調子だと、既に数人はいるはずの弟の世話をするメイドの数が増えそうだ。私の時は今と同じ、あのメイド1人で済んでいたのに。たまに休暇などで変わることはあったが、それ以外は同じだった。
「いぎゃーっ!」
どんなにお母様があやしても泣き止まない弟。ミルクもあげた、おむつも変えた、医者に診てもらっても体調も問題なし。何かしら嫌なことがあるんだろうけど、それが分からない。
「毎日こんな感じ?」
「はい。毎日、ほとんど1日中これで……」
「……いつ寝ているのかしら」
お母様がそう呟いた。そう思うほど、本当に寝ないのだろう。
寝かすための魔法を使えば良いが、それは闇属性の魔法だ。闇属性の魔法自体、扱える人は本当に少ない。それができたら苦労はしないだろう。
「なら、私がその子を寝かしつけてさしあげましょうか?」
「!」
嫌な声が部屋中に響いた。またお前か。ニヤニヤした顔をして、あの男——叔父が現れた。
こいつの登場は想定外だった。次に現れるのは1年後かと思っていたからだ。
だが、今日はお母様の誕生日だ。可能性は十分あったはずなのに、それを考慮していなかった。
……たとえその可能性に気付いていたとしても、無力な私にはどうしようもなかったか。
「帰ってください」
「お誕生日おめでとうございます」
お母様の言葉を無視して、どこからか取り出した花をお母様の前に差し出した。
お父様は仕事のため宮殿へ行き、まだ帰ってきていない。お母様の誕生日だから早めに帰るようにはなっているらしいが、今の時刻からして今すぐに戻ってくることはない。最悪だ。
「警備を増やされたようですが、私に敵うわけがないでしょう?」
「……」
お母様は黙った。……この男、魔法の才能でもあったか?
いや、そんなはずはない。出来損ないの弟と言われ、劣等感を抱いていた——よく覚えていないが、そんな感じの設定があったはずだ。
「せめて、光属性の魔法が使える人間でも用意しておくことですね」
ま、まさかこいつ——闇属性か!?