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12話 気がついたら転生していた

「……!?」


 気付けば、知らない天井が目の前に広がっていた。ここはどこ? 病院?

 それにしては変な気がする。天井の模様も変だし、ベッドで寝ている感覚がない。それとはまた違うような……? 


「どうしましょう! 赤子が全く泣きません!」


「叩いて泣かせなさい!」


 そういう声が聞こえると、逆さまにされた。そしてお尻を叩かれた。

 まさか、と思って自分の手を見た。あまりにも小さすぎる手。間違いなく、赤ちゃんの手だった。


 轢かれた瞬間の記憶がないけど、まさか……転生した?


「おぎゃーっ!」


 声を上げようとしただけだった。そのはずなのに、不思議と赤ちゃんの泣き声が出た。

 この体では喋ることすらできないことを悟った。脳が発達しているかいないか、の差だろうか。医学部でもないため、ただの推測だが。


「泣きました!」


「おめでとうございます!」


 その言葉を聞いて、疲れた顔で笑顔を浮かべる女性がいた。

 そして、医者らしき人物からその女性に私が手渡された。今、私はその女性の腕の中にいる。この人が私の母親なのだろうか?


 それにしても、思ったより目が見える。生まれてすぐの赤ちゃんはほとんど目が見えていないと聞いたことがある。

 確かに、トラックに轢かれる前よりかはボヤけて見える。それでも、母親の顔はよく見えるほどに視力は良いのだ。


「産まれたか!?」


「はい。元気な女の子ですよ」


 勢いよく扉を開けてやってきたのは父親だろうか。慌てて来たのか、息を切らしている。

 そして、父親らしき男性は壊れ物を扱うかのように私の頬を撫でた。なんとなく、ここはいい家族だと思えた。


 それにしてもこの男性……どこかで見たことがあるような?


「子供の名前は決まりましたか?」


 私の母親らしき女性がそう尋ねた。そして、父親らしき男性は悩む。少し黙った後、男性は口を開いた。


「正直、候補がいくつもあってな……でも、この子の顔を見てすぐに決まったよ」


 父親らしき男性はそう言いながら、私の顔を覗き込んだ。そして、微笑んだ。

 見た目からしてあまり笑わない堅物キャラだと思っていたが、意外とそういうわけではないらしい。……あれ、私はどうしてこの男性がそんなキャラだと思ったのだろうか?


「サラ。この子の名前はサラだ」


 そう私の名前を呼んだ。いやはや、驚いた。まさか、前世と名前が全く変わらないとは。

 ……そもそも生まれ変わった、ということでいいだろうか。


「良い名前ですわ」


「なら、決まりだな。……私にも抱かせてくれんか?」


「どうぞ」


 母親の腕の中から父親へと私が移動する。父親が私を抱く腕は母親よりも覚束ない。今にも落としてしまうのではないかという不安があった。

 だがそれは父親の気持ちの問題だとすぐに気付いた。体格は前世の一般的な男性よりも確実にある。私を抱くという点だけで言えば何の問題もない。むしろ、母親も余裕で抱えてしまうのではないだろうか。


「我がスペンサー家の第一子だ。宴会だな」


 スペンサー家、という言葉にハッとした。スペンサー? 私は、サラ・スペンサー……なのか?


「あの、招待状などは……?」


 心配そうに、メイドの人が父親に訊いた。確かに、パーティとなると招待状が必要だ。

 だが、そんなこと全く気にしないかのように父親は鼻で笑った。


「不要だ。盛大なパーティをするわけでもない。スペンサー家だけでのちょっとした宴会だ。使用人達に伝達しておけ。宴会の準備と、宴会の参加を全員に許可することを」


「は、はい!」


 メイドは満面の笑顔でそう答え、慌てた様子で部屋を出て行った。

 彼女は相当嬉しかったのだろうか。部屋のドアを閉めることを忘れている。それに気付いた父親がため息をついた。


「全く。扉くらい閉めていけ」


 父親が指を突き出し、軽く動かすと扉が勝手に閉まった。そして、確信した。


 ——ここは乙女ゲームの世界である、と。


「お前は無理をするな。しっかり休め」


「はい」


 父親は私を母親に渡すと、後を医者らしき人物に任せて部屋から出て行った。

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