10話 勝利のお茶会
「お疲れ様です、お嬢様」
私がパーティ会場から戻り、自分の部屋で休憩をしていた時だった。そう言って、私のメイドは部屋に入って来た。そして、私の目の前の机に紅茶を置いた。
「どうやら、治療は済んだようね」
「はい。おかげさまで」
彼女の名前はルーシー。彼女はエリカに暴行を受けて大怪我を負い、歩くのもやっとだった。そして、あのパーティの場に現れたのだ。
本当ならすぐにでも魔法で治療したかった。だが、彼女はそれを拒んだのだ。少しでも私の力になれるなら、と。
「それよりも、お嬢様のお怪我は?」
「あれくらいなら、自分で治した。大丈夫よ」
レオンハルト元王子から受けた暴行による怪我のことだ。あの程度であれば骨も折れていないし、医者に見せる必要もないものだった。
そして彼女のその言葉で、言おうか迷っていたことを言うことにした。
「……私はあそこまで言えとは言っていないわよ?」
私が咎めているのは、彼女が命を賭けると言ったことだ。命懸けなどではなく、本当に博打のように命を賭けると言ったのだ。
「お嬢様のためなら命を賭ける覚悟はできております」
表情を一切変えず、淡々と彼女はそう言った。皮肉にも、私の予想通りだった。
「……一言だけ言わせて。無駄死には許さないから」
「分かっております」
彼女の意思は変わらないだろう。長年一緒にいるのだから、それはもう分かっている。だから、そう言うしかなかった。
賢い彼女であればその真意は分かるだろう。「命を大切に使え」ということが。
「サラ、入るぞ」
その声が聞こえると、私の部屋の扉が開く。お父様だ。私は立ち上がって、お父様を迎えた。
本来であれば私からお父様の部屋に行くべきだ。サラが治療を終えたのでこれから向かおうと思っていたのが、それよりも先に来てしまった。
「よくやった。お前の仕組んだ通りレオンハルト殿下は廃嫡が正式に決定した。王子の身分も剥奪された。婚約破棄も無事にできた。王子と聖女も含め、関係者は全員牢にいる。処遇はこれから決められるそうだ」
上手くいったようだ。その結果に少し安心した。だが、まだ油断はできない。
これで情勢は大きく変わった。自分の利益だけを優先する貴族——つまり、まだ証拠が見つかっていない貴族がどう出てくるかが問題だ。おおよそ、察してはいるが。
「あの王子は以前はまだマシだったが……ここ数年で随分と酷くなったものだ。私も手を焼いていた」
ここ数年、つまり聖女であるエリカと出会った頃からで間違いない。
私も最善は尽くした。だが、結果はあのようなことになってしまった。私も避けたかったが、そうさせてはくれなかった。
「しかし、驚いたぞ。私の知らない間にどうやってここまでやったのだ?」
不思議そうにお父様は私に訊いた。
私はお父様に多くは説明していない。ほぼ全ての準備が終わった後、証拠を持ってこれからすることを説明しただけだ。私が裏で何かをしていることは知っていただろうけど、その内容にはとても驚いていた。
「そうですわね……ルーシー、お父様に紅茶を。お菓子も用意できるかしら?」
「かしこまりました」
ルーシーが部屋から退出するのを確認すると、お父様と私は向かい合わせにソファーに座った。
「では、久しぶりに昔の話でもしましょうか」
「それは長くなるな。安心しろ。時間はたっぷりある」
そう言って、私達は笑った。ルーシーが戻ってきてティーカップを机に置き、紅茶を注いだ。そして、お菓子が並べられていく。
「そうですわね。あれは私が——」